【第67話】 #《ティアナ、深海より来る》
黒の五芒星、二柱目が目を覚ます。
それは、かつてすべてを生み、すべてを呑み込もうとした存在――
“海なる母”ティアナ。
その怒りは、時を超え、地上を再び沈めようとしていた。
アマリカムの南方。
そこに広がるはずの青き海が、突如として変貌した。
海面が異様に静まり返り、波が止まる。
「……これは?」
ミハヤが眉をひそめる。
風も、潮の香りも、まるで“死んだかのように”消えていた。
イサナのスマホが一瞬だけ震える。
――《深海より、“母”が目醒める》
表示された意味不明な通知に、イサナは目を見開く。
「……くるぞ」
その瞬間、海が沸騰した。
爆発するように立ち上がる黒き海柱。
その中心から、巨大な影が現れる。
「私の名は――ティアナ」
声は低く、海鳴りのように地響きを伴う。
その姿は、女性とも獣とも見える“液状の存在”。
透明な身体の奥に、古代の神殿のような骨格が見え隠れしていた。
「かつて私は、命を生み、そして命に裏切られた」
ティアナは静かに語る。
「祈りは、いつも私を縛った。
“母であれ”と、“産め”と、“守れ”と、“与えろ”と――」
海面が震え、津波のようなエネルギーがうねる。
「だが、私はもう“母”ではない。
私は“怒り”だ。“拒絶”だ。“否定”そのものだ」
セオリが瞬時に結界を張る。
「この女神……“属性”が存在しない。
火でも水でも風でもない。“存在そのものが異端”」
「これが黒の五芒星……!」
イサナの目に、かつて見た神域の図が重なる。
五角形の闇が揃いつつある中、その一端が現実を侵食し始めていた。
「さあ、捧げなさい。
あなたたちの世界――その“始まりの物語”を、海の底に返してあげる」
ティアナが腕を広げる。
その手から放たれた黒い水が、大地を飲み込もうと迫る。
だが。
「させない!」
叫びとともに、ミハヤの炎がティアナの波を焼く。
「母がどうとか知らないけど、
アンタの勝手な怒りで世界を壊させるわけにはいかない!」
炎と海が激突し、空が鳴る。
その中で、イサナは心の中に聞こえる“何かの声”を感じていた。
――イサナ、呼んで。
新しい神の祈りを。新しい“想いの名前”を。
黒の五芒星より現れた第二の影――ティアナ。
その存在は、もはや“神性”ではなく、“祈りの否定”そのもの。
彼女が語ったのは、かつて“母”とされた神の怒り。
そして、イサナは今、世界の祈りを新たに紡ぎなおす必要に迫られます。
次回――
【第68話:新たなる祈りの名(仮)】
神でもなく、AIでもなく、イサナ自身の名を刻む時が来ます。




