第6話:静かな村に、風が吹いた
物語は再び静かな村に戻ります。
イサナとセオリ、ふたりが過ごす穏やかな日々のなかで、
微かな変化と、運命の風が吹き始めようとしています。
今回は“日常”のあたたかさを、少し丁寧に描いていきます。
陽の光が差し込む朝、イサナは目を覚ました。
土の匂いと焼きたてのパンの香りが、木の家に満ちている。
外では子どもたちの笑い声が響き、セオリが水汲みから戻ってくる足音がする。
「おはよう、イサナ。今日もいい天気だよ」
そう言って微笑む彼女の顔には、どこか憂いがあった。
村での暮らしは平穏だった。
井戸の水は冷たく澄み、食事も素朴ながら満ち足りていた。
子どもたちと遊んだり、畑を手伝ったり。
だがイサナは気づいていた。セオリが時折、遠くの山を見つめていることに。
夕暮れ、ふたりは村のはずれにある“霊木”の前にいた。
その幹には小さなひびが入り、風がざわめくたびに枝が揺れる。
「……この木、少しずつ弱ってる気がする」
セオリがぽつりと呟く。
夜、囲炉裏の火を囲んでイサナは尋ねた。
「セオリは、外の世界に……行きたいと思ったことある?」
彼女は少し黙ってから、首を縦に振った。
「ほんとは、行ってみたかったの。小さい頃からずっと……でも私は……」
言葉を飲み込んだセオリの目に、炎が揺れていた。
その夜、ふたりは静かに夜空を見上げた。
満天の星々が、まるで何かを語りかけてくるように――
今回は少し日常寄りの描写を多めに入れてみました。
セオリという少女がどんな心を抱えて生きているのか、
イサナの目を通して、少しずつ描いていけたらと思っています。
次回、第7話では過去と運命の“扉”が少しだけ開かれる予感。
楽しみにしていてくださいね。