第40話「火の扉、記憶の胎動」
ついに開かれた“火の扉”。
ミハヤが導かれる先には、失われた神話と、自らの“名前”にまつわる記憶が待っていた。
すべては、言霊により綴られた“起源”の物語へ――
焔に包まれた祭壇の奥、ゆっくりと開いていく“火の扉”。
そこから差し込む光は、まるで夕暮れのような赤と金が混ざり合っていた。
ミハヤが一歩、また一歩と進む。
イサナとセオリが後に続いた。
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扉の中は、古代の神殿のようだった。
壁には赤い線で描かれた螺旋模様と、神代文字のような印。
天井からは細い光が降り、祭祀の場のような円形の空間が広がっていた。
「……ここは……」
ミハヤが中央に立った瞬間、空間が脈打つように赤く輝いた。
壁に浮かぶ印が、ゆっくりと光を帯び、言霊のように音を放つ。
「カムナヒ ヒ カミヨリツキテ……」
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その言葉に呼応するように、ミハヤの額が熱を帯びる。
気づけば、彼女のまわりに“火の記憶”が映し出されていた。
――かつて、この地に存在した“ヒカガミ”の民。
焔を祈りとともに操り、災厄から人々を守っていた。
だがその力を恐れた者たちによって、“火の巫女”の系譜は封じられ、忘れ去られていった。
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ミハヤの胸がざわめく。
(私が……その血を……)
幻影の中、ひとりの巫女が焔の中に立っていた。
紅の衣、そしてミハヤと同じ顔。
「――ヒミカ」
イサナがぽつりとつぶやいた。
その言葉に、ミハヤの記憶が強く反応する。
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(私が……ヒミカ……)
彼女の中で幾重にも閉ざされていた記憶の扉が、静かに開き始める。
焔を手に、祈りを捧げていた日々。
人々に寄り添い、災いを鎮めていた“過去の自分”。
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「……私は、忘れていた。
火は、破壊だけじゃない。誰かを、守るための……祈りだった」
涙が、頬をつたう。
それは悲しみではなく、魂が目覚める歓喜の涙だった。
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その瞬間、天井から強い光が差し込み、神殿が一気に赤く染まる。
三人の足元に、円環のような文様が浮かび上がった。
「……この模様、言霊の結び……」
セオリがそう言ったとき、ミハヤの掌が淡く輝いた。
焔の記憶は彼女の中に還り、“ヒミカ”という魂の名が静かに刻まれた。
そして、神殿の奥に新たな扉が現れる――
そこは、“風”と“火”を繋ぐ神域。言霊が再び動き出す、物語の核心へ。
ミハヤの過去、そして“ヒミカ”という魂の名が蘇った第40話。
炎の記憶は、単なる力ではなく“祈り”としての意味を取り戻し始めました。
次回はいよいよ、風と火を結ぶ新たな神域へ――




