『祈り火の夜に ―風のように、寄り添う心―』
こんばんは、透真です。
セオリ編もいよいよ深まってきました。
今回は「祈り火の夜」、村の小さな祭と、
ふたりの心がそっと近づくやさしいひとときをお届けします。
静けさの中に灯る想いを、どうか受け取ってください――
祭の夜が明けて数日。
天津坂の村では、春の訪れを祝う「祈り火の夜」が近づいていた。
それは、村の中心にある“風見岩”の前で火を焚き、
神々に感謝と願いを捧げる、静かで厳かな夜。
「この祈り火には、風の神が降りるって言われてるの」
そう語ったセオリは、いつもより少し大人びた表情をしていた。
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その日の夕暮れ、イサナとセオリは
一緒に祈り火の支度を手伝っていた。
細い指で麻縄を結び、
花束にしたヨモギと桜の枝を火口にくくりつけていくセオリ。
「このヨモギには、ね……“心の迷い”を焼き払ってくれる力があるの。
……イサナくん、迷ってること、ある?」
静かな問いに、イサナは目を伏せた。
「あるよ。……自分がこの世界で、何をすべきか。
本当に、戦えるのかって」
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夜になり、火が灯される。
炎の向こうに映るセオリの横顔は、
どこか寂しげで、けれど強かった。
「ねぇ、イサナくん。
わたし、怖かったんだ。誰かと仲良くなって、その人がいなくなるのが。
でもね……」
風が吹いた。火が揺れ、桜の花びらが舞い上がる。
「イサナくんと出会って、少しだけ変わったの。
“いなくなるのが怖い”より、“今、一緒にいたい”って思えるようになった」
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イサナは、そっと彼女の手を取った。
「俺も……この世界で、何ができるか分からないけど、
でも、セオリと一緒にいる時間だけは、本物だって思ってる」
ふたりは、言葉よりも深く心を交わすように、
焚き火の前で静かに寄り添った。
祈り火の夜。
風の神は、きっとふたりの上にも、そっと祝福を与えていた。
セオリとの日々は、まだ始まったばかり──。
次回から、ふたりの運命が動き出す物語の“本当の始まり”をお届けします。
村を出るきっかけ、そして心の距離が近づいていく過程も、ぜひ一緒に見届けてください。
続きをお楽しみに――!