スピンオフ:現代編 第1話「呼ばれるように、あの神社へ」
速水日向、40歳。
美容師として忙しく働く日々の中で、ふと訪れた懐かしい神社。
それは、子供の頃に両親に連れていかれた場所――
“何か”に導かれるように、彼の魂は静かに目覚めはじめる。
昼の喧騒が落ち着き始めた頃、速水日向は仕事の合間にふと空を見上げた。
陽射しは柔らかいのに、心にはぽっかりとした穴が空いているようだった。
「……ちょっと遠回りして帰ろうかな」
手にしたコーヒーの紙カップはすでにぬるく、
けれどその温もりが少しだけ心をつないでいた。
足は自然と、懐かしい道を選んでいた。
住宅街の先、低く構えた赤い鳥居がぽつんと現れる。
「……まだあったんだな、ここ」
子供の頃、両親と初詣や七五三で訪れた神社。
何か特別な記憶があるわけじゃない。
けれど、ふとした瞬間に思い出すのは、いつもここの木漏れ日だった。
境内に足を踏み入れると、空気が変わった。
都会の喧騒がすっと遠ざかり、風の音と木々のざわめきだけが耳に残る。
(やっぱり……落ち着くな)
何も考えずに、ただ手を合わせた。
願いごとはない。ただ、来たかっただけ。
……そのときだった。
背後で、かすかに風鈴が鳴るような音がした。
振り返っても誰もいない。けれど、確かに何かがいた。
「……呼ばれた……のか?」
社務所の前には、小さな台が置かれていた。
「御朱印、書置きあります。初穂料は賽銭箱へ」と手書きの張り紙。
その隣には、新しい御朱印帳と書かれた箱。
“はじまりの御朱印帳”――その文字に、目が止まる。
(……はじまりか)
まるで、何かの“入口”のようだった。
日向はそっと、その御朱印帳を手に取った。
速水日向が、ふと足を運んだ小さな神社。
懐かしさの中に、どこか不思議な“予感”が宿る。
それは、新たな旅路の予兆かもしれない――
次回、「御朱印帳と、見知らぬ記憶(仮)」へ続きます。




