第21話:静寂の森に潜む影
焚き火を囲んだ夜を越え、三人は次の地へと足を踏み出す。
だがその道中、静まり返った森で異様な気配に気づいたイサナたちは、奇妙な“影”の正体を追うことになる――。
夜が明けきらぬうちに、三人は静かに目を覚ました。
昨夜の焚き火の残り香が、まだ草の間に漂っている。雲が薄くかかる空の下、森の奥からは鳥たちのさえずりが響き渡っていた。
「……行こうか」
イサナの言葉に、ミハヤとセオリがうなずく。まだお互いに距離はあるものの、昨夜の焔を囲んだ時間が、確かに三人を繋いでいた。
森の中は静かだった。けれど、静かすぎた。
「なんか……変だね、この森」
セオリが立ち止まり、辺りを見回す。
「音が、しない……鳥も、風も」
「昨日までは、もっと騒がしかったのに」
イサナも眉をひそめた。
そのとき――
「ぎぃ……」
低く、軋むような音が木々の奥から聞こえてきた。三人が身構えた瞬間、黒い影が森の間をすり抜けていくのが見えた。
「なに、あれ……?」
ミハヤが呟いた。目を凝らすと、それは獣ではなかった。人のようで、人ではない。
「追ってみよう」
イサナの判断に、ミハヤがうなずく。セオリは一瞬戸惑ったが、すぐにふたりの後を追った。
影を追い、深く森へと足を踏み入れていく。
草をかき分け、倒木を越えるたび、空気が重たくなっていくのを感じた。
そして、たどり着いた先には――
巨大な岩が、不自然なまでに整った形で鎮座していた。
「……これ、祭壇?」
セオリがそっと岩に触れようとした瞬間、岩の周囲に刻まれた文字が淡く光り出した。
「カ……ム……ナ……?」
ミハヤが口にしたその音に、岩が微かに震えた。
「ちょ、ちょっと待って! なんか目覚めそうな気がするんだけど!」
慌てるイサナの声もむなしく、岩の中心からぼんやりと影が浮かび上がってくる。
その影は、人の姿に似ていたが、顔がない。ただ、炎のように揺れる赤い光を纏っていた。
「……また、“火”だ」
ミハヤが呟いた。瞳が揺れる。彼女の内なる何かが、共鳴しているようだった。
「ミハヤ……この存在と、なにか関係があるの?」
セオリがそっと問いかける。
ミハヤは黙って、炎の影を見つめていた。
(私の中の“火”は、ただの力じゃない。何かを、封じていた? ……いや、“つなげていた”?)
影がゆっくりと手を差し伸べる。その瞬間、ミハヤの足元の地面が赤く光り――
――強い閃光が、森全体を包み込んだ。
*
目を開けたとき、三人は倒れ込んでいた。
風が戻り、鳥の声がまた響きはじめている。
「いまのは……」
「幻? ……でも、ただの夢じゃない」
ミハヤは胸の奥に、熱を感じていた。それは恐怖ではなく、どこか懐かしいぬくもりに近いものだった。
「きっと、まだこの先に、何かがある」
そう言ったミハヤの横顔を、イサナとセオリはしっかりと見つめていた。
三人の旅路は、また少しだけ深まっていく――。
今回の話では、ミハヤが自身の内に秘めていた“火”と向き合いはじめる一歩を描きました。
森に潜んでいた影の正体とは? そして古代の祭壇に刻まれていた文字――「カムナ」は何を意味するのか?
次回はさらに深まる謎と、三人の心の距離に注目です。




