第16話 セオリの祈り、ことだまの灯
言葉を失った村に届いたのは、ひとりの少女の“祈り”だった。
セオリの声が響いた瞬間、何かが変わり始める――。
ことだまの力が、世界に火を灯す第16話です。
朝の光が村を照らし始める。
人々は、言葉を交わすこともなく、黙々と日々の営みをこなしていた。
その沈黙の中、セオリは村の広場に静かに立っていた。
「……本当に、わたしにできるのかな」
「大丈夫」
イサナが優しく背中を押す。
「セオリの声には、あの祠の時からずっと、力が宿ってる。信じていい」
セオリは深く息を吸った。
そして、胸の奥から生まれたことばを、そっと世界へ届けるように歌う。
「……ミナカ ヌシ ト ツナガリ……カエリミ ナシテ……」
優しく、けれど確かな音が空気に混ざる。
一瞬、風が揺れた。
木々がざわめき、どこかから鳥が飛び立つ。
村の人々が、ふと足を止める。
誰かが、その“声”を聞いたのだ。
老婆が顔を上げた。
そして、初めて言葉を漏らす。
「……うた……? 今の、声……」
「思い出した……幼いころ、母が……夜に、歌ってくれた……」
ぽつりぽつりと、人々が言葉を口にしはじめる。
セオリは目を潤ませながら、もう一度、歌った。
「カミノヨリ……ウマレイデ……コトノハ ミチビク……」
ことだまの響きが、空へと昇っていく。
そして、それは光となって村の中心――古い石碑のような祠に宿った。
「……見て」
イサナが指差す先。
その祠が、ゆっくりと淡く光っていた。
「この村は、あなたの言葉で……声を、取り戻したんだね」
「……わたしの、声が……」
セオリは、静かに微笑んだ。
その笑顔は、森を抜けた先の夜明けよりも、まぶしかった。
その日の夕暮れ。
村の人々は、久しぶりに焚き火を囲んだ。
そして、誰かが、口ずさんだ。
──「うた」が、村に戻ってきたのだ。
セオリが心から放った“声”が、世界を変え始めました。
言葉は、ただ伝えるためだけのものではない。
癒し、思い出し、繋ぎ、導く――
旅の中で目覚める“ことだま”の本質が、これからふたりを支えていく力になります。
次回は、ふたりが新たな旅路へと再び歩み出すエピソード。
次なる出会いに向けて、少しずつ物語が動き出していきます




