第11話 森に潜むもの、名もなき“ソレ”
初めての出会いは、言葉なき“存在”との邂逅。
セオリの中に響いたのは、心の声――それは敵か、救いか。
森の奥へと続く道は、次第に湿り気を帯び、霧が濃くなっていく。
「……さっきより空気が重い」
セオリがそうつぶやくと、イサナは彼女の手をそっと取った。
「離れるなよ。何が出てきても、おれが前に出る」
「……うん」
木々の間から、何かが“見ている”ような気配があった。
風が止み、空間全体がひとつの巨大な“眼”になったかのような、そんな錯覚。
――ザッ
突然、草を踏みしめる音。
イサナがとっさに前に出ると、視線の先に“影”がいた。
背丈は大人ほど、けれどその姿は獣とも人とも言えない。
黒い靄をまとい、顔は仮面のように無表情。だが――目だけが赤く、燃えていた。
「セオリ、後ろに下がって」
「……イサナ、あれ……言葉じゃない、何かが……頭に響く……っ」
セオリが頭を押さえ、膝をついた瞬間――
“ソレ”が動いた。音もなく、獣のような速さで。
イサナはとっさにセオリを抱きかかえ、飛びのいた。
“ソレ”の爪が、彼の背中のすぐそばを掠める。
「くそ……!」
咄嗟に拾った石を投げつけると、“ソレ”は一瞬たじろぎ、木陰に身を隠した。
静寂が戻る。
「大丈夫か、セオリ」
「うん……でも、あれ……言葉じゃなく、“心”に話しかけてくる感じ……怖かったけど、どこか哀しげで……」
イサナは剣も術も持たず、ただ彼女を守るために動いた。
そしてセオリもまた、自分に目覚めつつある“何か”に気づき始めていた。
ふたりは顔を見合わせた。
「先に進むべきだね、セオリ」
「……うん。でも、もう少し、この森のこと……知っておきたい」
その“ソレ”が何なのか。
どこから来て、なぜ人に干渉してくるのか。
森はまだ、すべてを語ってはいなかった――。
名もなき森での最初の異変。
セオリの内なる力が、少しずつ目覚め始めています。
旅はまだ始まったばかり。次回もどうぞお楽しみに




