第10話 囁く風、揺れる葉音に潜むもの
旅立ちから一夜。
朝の静けさの中に潜む、見えない“何か”。
ふたりの旅路に、初めての異変が忍び寄る。
――カサリ。
夜が明けきる直前。焚き火の灰が風に揺れ、セオリが微かに目を開けた。
「……イサナ?」
隣にいたはずの彼の姿が、そこにはなかった。
急に胸がざわついた。
薄明の森の中、鳥の声すらない不自然な静けさ。
「まさか、ひとりで……?」
急いで羽織を掴み、焚き火のそばにあった木杖を手に、森へと駆け出す。
朝露の草を踏みしめながら、彼女は名もなき森の奥へと踏み込んでいった。
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「――なんだ、セオリ?もう起きたのか?」
不意に背後から声がして、思わずセオリは飛び上がった。
振り返ると、イサナが手に小さな果実を抱えて立っていた。
その顔に緊張の色はない。
「森の中で見つけたんだ。たぶん食べられるやつ……たぶん、だけど」
「……もう! びっくりさせないでよ!」
セオリは息を整えるように、胸に手を当てた。
「ごめんって。ちゃんと置き手紙すればよかったな……いや、紙ないか」
イサナが頭をかく。セオリはふっと力を抜いて笑った。
しかしその瞬間――
――キィィィンッ!
ふたりの鼓膜を突き刺すような、高い音が森の奥から響いた。
風が逆巻くようにざわめき、木々が不自然に揺れる。
「……今の、聞こえた?」
「うん……あれ、何かがおかしい」
音がした方角を見つめながら、ふたりはその異様な空気に背筋を凍らせていた。
「セオリ、今日は慎重に進もう。無理はしないで、何かあったらすぐ戻る」
「わかった。でも……感じるの。あの奥に、何かが“呼んでる”気がする」
イサナとセオリは再び歩き出す。
名もなき森の奥には、“誰か”が待っていた。
そして、それは決して歓迎の存在ではない。
名もなき森の異変が、ふたりの旅に“現実”をもたらす。
次回――その正体と、運命の“出会い”が訪れる。




