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第1話 天津坂を登る者

「すべての始まりには、ほんのわずかな違和感がある」


この1話は、そんな“始まり”をより丁寧に描くために少し調整しました。

気づけば、きっと物語の中に足を踏み入れているはずです。

よければ、ページをめくってみてください。



俺の人生は、いつから止まってしまったんだろう。


40歳、美容師。

技術もそこそこ、生活に困っているわけでもない。

けれど、心がまったく動かなくなっていた。


「……このまま、老いて死ぬのか」


疲れた思いが、ため息のように漏れる。

片手にはスマホ。

通知もニュースも、ただ流し見しているだけだった。

いつからだろう、誰かと本気で笑ったり、泣いたりしたのは——。


そんなことを思いながら迎えた、ある雨上がりの朝。


通勤路の横断歩道。

人影はまばらで、街も空もどこか眠たげだった。


ふと、視界の隅に妙な光が見えた。

見慣れた風景の中に、一本の細い光が、天から真っすぐ降りている。

虹じゃない。あれは……。


「……なんだ、あれ」


青信号が点滅し、足が自然に前へ出る。

ポケットの中で、スマホが一度だけ震えた——通知ではなかった。


その瞬間、視界が白に弾けた。


……


気がつくと、闇の中に立っていた。


足元には一本の光の道。

それは、遥か遠くにそびえる光の柱へと続いている。

柱は三段に分かれ、それぞれが「三」「六」「九」の輝きを放っていた。


俺はその光に、抗えず歩き出していた。

なぜだろう。恐怖はなく、ただ胸の奥に、懐かしさのようなざわめきがあった。


一歩、また一歩。


そのとき、声が響いた。

男でも女でもない、深く、柔らかな声だった。


「——天津坂を登れ。我は待つ。汝、ヒフミノ国の器よ」


「……ヒフミノ国?」


聞き慣れない言葉に戸惑ったとき、足元の光が急に強くなり、全身が包まれた。


一瞬、目の前に神殿のような光景が浮かぶ——


次に目を開けたとき、


俺は、知らない木造の天井を見上げていた。


「……?」


視界の端に、見知らぬ女性の顔。


「よかった……イサナ、目が覚めたのね!」


イサナ? 誰だ、それは。

返そうとした言葉は、子どものような声になっていた。


鏡を差し出され、目を疑う。


そこにいたのは——

15歳くらいの、黒髪の少年だった。


「……は?」


ふと、違和感を覚えた俺は、腰のあたりに手を当てる。

布の下に、異物のような“何か”の感触。

確かめる暇もなく、女性に手を引かれて立ち上がった。


(……今の、まさか……)


だがその“何か”の正体を確認することはなかった。

そして、それが後に、この世界を左右する“鍵”になるとも——このときの俺はまだ、知る由もなかった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今回の改稿では、主人公の心情と世界の“入り口”を、少しだけ丁寧に描いてみました。


小さな違和感、言葉にできない感覚——

それらがやがて、世界の輪郭を形づくっていくはずです。


第2話以降も、物語は静かに、でも確かに動き始めます。

どうぞこれからも、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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