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僕が嫌いな私  作者: エドガー・サンポー


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第5章「再出発」その4

毎日20時頃に更新します。

 それから1か月後、3月初旬。ついに園木高校の卒業式の日がやってきた。この日を待っていた。今日は、俺の総決算、けじめをつける日だ。式が終わり、全員が解散する直前に、みんなの前で俺がこれまでかけてきた全ての迷惑を心から詫びようと思う。


 今更なんだと思われるかもしれない、確かに俺は文化祭の件があってからこれまで一度もクラス皆の前に顔を出さなかった。それは逃げていたからだ。何度も迷惑をかけてきたから俺自身もうみんなの前で謝る度胸がなかったのだ。


 だが、逃げたまま終わってしまっていいのか。あれだけのことをしでかしておきながら、その元凶は顔すら見せずに雲隠れだなんて、胸糞が悪すぎる。きっと篠崎との血なまぐさいやり合いを見た衝撃が未だに癒えていないクラスメイトもいるはずだ。俺は彼らに対してきちんとお詫びをしなければならない。


 このままでは絶対にいけないのだ。俺はこの日のために話すことをしっかりと考えておいた。これを彼らがどう受け取るのかは分からないが、俺は心からの気持ちを述べるつもりだ。そしてこれは吉崎にも受け取ってほしい言葉となる。なぜなら吉崎もクラスの一員だからだ。吉崎に対しても改めて誠意を込めた謝罪をしたいと思う。


 さて、そろそろ出かけよう。俺の高校生活に、決着をつけるのだ。



 園木高校の卒業式は体育館で行われる。高校の最寄り駅に着いた俺は、現在時刻を確認する。式が終わるまでにはまだ時間があった。仕方がないのでどこかで暇をつぶしていよう。それにしても、この風景とももうお別れか(俺の場合、11月の時点でお別れしているわけだが)。今はまだ感傷に浸るほどの感情は持ち合わせていないが、これが1年、2年と経ってくれば自然と懐かしく思えてくるのだろう。どうせなら最後までいたかったが、それは自分で蒔いた種だ。


 最寄り駅の周辺を宛てもなく歩いていると、ある場所が見えてきた。私立藤明学園、県内五本の指に入る中高一貫の進学校。篠崎の中退した学校でもある。卒業式は今日ではないのか、校舎は閑散としていた。厳かで優雅な雰囲気の校舎が静かに鎮座していた。


 藤明学園は偏差値だけでなく学費も高いことで有名であり、ここに通う生徒は県内の富裕層の子弟だ。上品な生徒が多いだけに、勉強はできるが素行の悪い篠崎は馴染めなかったのかもしれない。そもそも奴のような不良があんな規律正しい学校を志望するとはとても思えない。おそらく、親の意向で入れられたのだろう。それで奴は余計にひねくれてしまったのかもしれない。


 しかし、だからといって同情はしない。俺はあの男に中学時代を潰され、高校ですらも最後の最後で台無しにされた。複雑な家庭環境などがあったのだろうが、それでも俺は篠崎を許すことはできない。多分、これから先もずっと。


 そんなことを考えていると、いつの間にか式の終わりが迫ってきた。俺は園木へ向かった。いよいよだ。必ず全員の前でけじめをつける。



 校舎に入ると、大勢の父兄でごった返していた。それをかき分け、俺は3-1の教室に向かった。吉崎によると、卒業式後は教室に戻り最後のホームルームが行われるらしい。そのタイミングを狙う。どうやら既にホームルームは始まっているようだった。3年生の教室は扉が閉められ、中で教師の声が聞こえている。


 俺は3-1の前に立つ。ついにこの瞬間がやってきた。大丈夫、話すことは考えてある。とにかく誠心誠意謝ろう。俺にできることはそれだけだ。扉を引く。突然現れた俺に教壇で喋っている担任田水山は驚きの表情を隠さない。そして、3-1のクラス全員もまた、驚愕していた。「秋月……?」とどこかから声が聞こえ、ざわめきだった。


 俺はひるむことなく前に進んだ。教壇の隣に立ち、「先生、少しだけ時間を下さいませんか」と田水山に言った。田水山は「あぁ、分かった。話せ」と言い、教壇から窓際まで離れた。深呼吸をし、俺はクラス全員の前で口を開いた。


「今日、俺がここに来たのは、みなさんに言わなければならないことがあるからです。どうか、少しだけ時間を下さい」


 全員が俺の話に静かに耳を傾けていた。そして、そこには吉崎の姿もあった。彼女もまた、俺を真剣なまなざしで見つめていた。


「文化祭では、みなさんにご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」


 俺は深々と頭を下げる。そのまま10秒ほど頭を下げ続けた。頭を上げると、俺はまっすぐ前を見つめながら再び話し始める。


「3-1の出し物に現れた篠崎という男は、僕の中学時代の同級生です。彼とは中学の頃からとても仲が悪く、毎日のように喧嘩をしていました。そしてその険悪な関係は、中学卒業まで変わりませんでした。高校に入学すると、彼とは学校も別になったので篠崎と顔を合わせることはなくなりました。僕は彼を恨み続けましたが、それでも時間が経つにつれて少しずつではありますが彼のことを忘れていくようになりました。


 しかし、先日の文化祭に自暴自棄の状態で現れた篠崎は、偶然にも僕のいたこの3-1を襲撃したのです。そして僕の姿を見た篠崎は余計暴走がエスカレートしてしまいました。結果、文化祭は台無しとなり、怪我や心に傷を負う人も出てしまいました。


 そして僕は、この件に関してみなさんに一言もなく、逃げるように園木を中退しました。実際、僕は怖かったから逃げたのです。しかし、僕の中にはしこりが残り続けました。文化祭を台無しにした挙句、一言もなく逃げ去ってしまったことに対する罪悪感が残り続けました。


 だから、やはりきちんと謝らなければならないと思いました。謝って許されることだとは思いません。しかしそれでも僕の気持ちを誠意を込めて伝えることは僕の果たすべき義務だと思い、今、こうしてここに立っています。改めて言わせてください。ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんでした」


 俺は、クラスメイト全員の前で深く深く頭を垂れた。一体どれだけの間そうしていただろうか。前列にいたあるクラスメイトに「もういいから」と肩を叩かれたことで俺はようやく頭を上げた。1分のようにも、10分のようにも感じられた。果たして、俺の気持ちはみんなへ届いただろうか。


「秋月……俺たちの方こそ、お前に謝んなきゃいけないんだ」


 クラスのムードメーカーであり、まとめ役でもある手代木が、席から立ち上がり、そう切り出した。


「体育祭の時、お前が暴れてみんなに怪我させたことあったろ? それでお前がみんなの前で頭を下げて、それから俺達、お前に「やり直そうぜ」と言ったんだ。だけど、俺達はその後もお前と仲良くしようとはしなかった。お前の「声をかけてほしかった」という思いに応えてやらなかった。


 そして、文化祭であの男がクラスで暴れた時、俺達はお前と吉崎にだけ任せて何もしなかった。俺達が本当にお前のことを大切な仲間だと思っていたら、危険を顧みずにお前に加勢したと思う。でも俺達にはそれができなかった。いや、しなかった。今回の件は、むしろ俺達が謝らなきゃならないことなんだよ。秋月、本当にすまなかった。それから、吉崎。お前にも本当にすまないことをした。申し訳ない」


手代木はその場で頭を下げた。文化祭当時、教室にいた数名のクラスメイトも一緒になって立ち上がり、「本当にごめん」「何もできなくてごめんなさい」と頭を下げた。予想外の反応で、俺はいささか面食らった。まさか俺の方が謝られるとは思いもしなかったからだ。「よしてくれ、みんな頭を上げてくれよ」と俺はとっさに言った。


「俺は、みんなに謝りに来たんだ。謝られる資格なんてないさ。今回の件に限らず、俺はみんなに沢山の迷惑をかけてきたんだ。謝っても謝り切れないくらいだ。……でも、ありがとう。俺の思いを覚えていてくれて」


 そう言うと、今度はまっすぐ前を向き、微笑みながらクラス全員にこう言った。


「みんな、卒業おめでとう。せっかくの卒業式だってのに重苦しい空気にさせて悪かった。最後に謝ることができてよかったよ。それじゃあ、みなさんお元気で」


 そう言い残すと、俺は田水山にも頭を下げ、教室をあとにした。出ていく最中、呼び止める声がいくつもあったがそのまま退出した。


 次に俺が向かったのは職員室だった。

お読みいただきありがとうございます。


次回は明日の20時頃に投稿予定です。

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