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僕が嫌いな私  作者: エドガー・サンポー


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第4章「時計を叩け」その4

毎日20時頃に更新します。


 こうして、俺たちは二人そろって文化祭の準備に参加することとなった。俺は同じ持ち場のクラスメイトたちに昨日参加しなかったことを外せない用事があったなどと言って誤魔化したが、一応は詫びを入れた。吉崎が詫びたのかは分からない。ただ見ていると吉崎だけ一人で黙々とお化けの衣装を縫っている。他は数人で何か話をしながら段ボールにペンキを塗ったりしているので、輪の中には入れていないのだろう。


 だがそれは仕方がない面があることは確かだ。日頃からクラスメイトとの協調を拒み、昨日の準備にも何も言わずに帰ったのだから、一朝一夕で他の生徒と同じように溶け込むのは無理な話だ。そして、それは俺とて例外ではない。俺は今、丸めた新聞紙に色紙を包んだボールを作っている。他の連中は少し離れた場所で固まってお面やら藁人形やらを作っており、やはり俺も除け者にされている気がする。


 俺もクラス内では前々から腫れ物のような扱いを受けてきたのでこの構図はおかしくはない。むしろ体育祭の騒動を経て、更に距離を置かれている気がする。俺も吉崎も、時間はかかるだろうが、馴染めるようにコツコツと努めていくしかないのだ。


 しかし一方で、どうして俺達だけが歩み寄らなければなければならないのかと不満にも思う。確かにこれまでの素行が悪かったのだから甘んじなければならないのだろう。今までの非礼を詫び、仲間に入れてくれませんかと平身低頭で近づいていくのが筋というものなのだろう。


 だが、そうはいっても腑に落ちない。俺の場合、中学時代に人間関係の面で躓いてしまったことで捻くれた考え方をしてしまうようになったという過去がある。吉崎にそういった過去があるのかは分からないが、これまでつつがなく生きてこられた人間がああいう性格になるとは思えない。


 恐らくあいつも何かしらあったのだろう。それを考慮に入れれば、俺達だけが受け入れてもらえるように努力しなければならないという理屈は酷だ。受け入れる側、つまりクラスの奴らは精神的な余裕がある。そういう立場にある方が手を差し伸べるべきなのではないのか。


 そしてその手を俺たちはありがとうと言ってとればいいではないか。これで問題は一挙に解決に向かうはずだ。何故弱い立場にある方だけが頑張らなければならないのか。第一、手代木達は俺の境遇に同情してくれたのではなかったのか。


 他の連中にしても、俺の過去を知っているはずなのに、未だに何の気遣いもしてくれていない。高良田の言葉である程度考えがほぐされてきたものの、やはりこの不公平な構図に納得がいかないのだ。俺は丸めた新聞紙を色紙に包みながらそんなことを考えていた。


 結局、その日はひたすら新聞紙のボールを作る作業で終わった。俺は一人で全く同じ動作を延々と繰り返した。あまりに単調なためその内に作業の能率もかなり悪くなっていた。お陰で進捗状況は芳しくなく、同じ持ち場の連中からは呆れられた目を向けられた。


 仕方がないだろう、こんな単純すぎる作業を延々と集中を切らさずにやっていられるか。これは仕事を配分した奴の問題だ。誰が仕事を割り振っているのか知らないが、そいつは人の上に立つことが向いていない。見つけたらじかにそう言ってやりたい。俺は疲労を抱えながら帰り支度をする。


 その途中、そういえば吉崎はどうしているかと思い、少し離れた吉崎の持ち場を見に行ってみる。既にこちらも撤収を始めているらしい。そして案の定、吉崎は一人でぽつんと帰り支度をしていた。声をかけようかと思ったが、周りの目もあるので躊躇してしまう。


 それに、もし一緒に帰ることになったら、気まずい思いをすることだろう。昨日の今日だ。まだ記憶が鮮明に残っているなか、俺はやつとどんな話をすればいいのか分からない。そう思い、おとなしく一人で帰ることにした。こんなことを繰り返していたら、増々話しかけづらくなるというのに、俺は一時の楽のために逃げたのだった。


 それから、俺は二日間準備に参加した。与えられる仕事の内容は大して変わらず、どれも同じことを繰り返す反復的な作業ばかりだった。そしてその殆どを俺は一人でこなしていった。俺が一人でなんでもできてしまう有能なのではなく、誰でも一人でできてしまうような簡単な仕事ばかり回されているのだ。


 他の連中が、俺に協調性のないことを見込んで敢えてそのような仕事を振っていることは火を見るよりも明らかだった。不満なら申し立てすればいいのだが、俺はわざわざ傷つきたくはない。誰にとっても当たり前のことかもしれないが、俺は特にそうなのだ。


 仕事の不満を言って不快な顔をされるのを見たくない。しかし、俺はこんな機械的な作業はもう御免だ。俺の中にはもはや、我慢するか逃げるかの二択しかなかった。


 俺は逃走した。低賃金で資本家にこき使われている工場労働者のような心境で俺は仕事を放り投げた。学校を抜けるにあたって、また便所に隠れたりして密かに出ていこうかと考えたが、俺はふと、急に馬鹿馬鹿しく思えてきて思考を放棄した。少し考えてみれば分かることだが、俺のような目立たず、尚且つ腫れ物にされている人間が帰ろうとしたところでそもそも気づかれないだろうし、気づかれたとしても放っておかれるだけだろう。


 誰も俺のことなど興味がないのだから、深く考える必要などないのではないか。それは吉崎も同じかもしれない。俺達は自分たちが重要な存在だと勝手に思い込んでいただけなのだ。誰も俺たちのことなんて気に留めてもいなかった。ひょっとすると認識すらまともにされていなかったかもしれない。端から頭数にいれられていなかったのかもしれない。


 準備をサボったことで白い目で見られているような気がしたが、あれも単なる被害妄想だったのかもしれない。俺の心の中で、これまで考えきたことが次々と瓦解していった。俺は痛々しい妄想狂。そう考えるのが妥当だと思った。なら、こそこそとする必要などないではないか。むしろ堂々と帰ってやればいい。


 誰からも興味も、関心も、認識もされていないのだから何の問題もない。俺は大胆不敵に、厚顔無恥に、傲岸不遜に、校内を闊歩する。途中、背後から声をかけられた気がするが、俺は無視した。これは俺が頭の中で作り出した音、幻聴なのだ。


 だから立ち止まる必要も、振り返る必要もないのだ。笑いがこみ上げてくる。俺は大声を上げて笑った。他人がいようと関係ない、俺は笑いたいだけ笑い続けた。俺は、ようやく自由になれた気がした。


 もう準備にも参加する必要はない。誰からも必要とされていないのだから、むしろいる方が迷惑だ。またもや俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、俺は少しも顧みることなく歩き去った。これは幻聴、俺自身が作り出した偽物の声。俺を惑わし、苦しめる罠。


 そうだ、そういうことだったのか。俺はようやく気付いた。俺の人生を遮ってきたものの正体を。それは俺自身だったのだ。俺が知覚する世界は、そもそも俺というフィルターを通して見えている。そして俺は自意識過剰な被害妄想狂。ということは何らかの脚色が施されていると考えるのが自然だ。なぜ今までそれに気づかなかったのか。この世界は大嘘だということに。


 俺はもう知った。この世界のからくりを。俺はもう信じない。俺を苦しめる事柄は全て幻想。俺はもう快楽だけを追求して生きていく。学校の連中が俺を見ている。不思議そうな、怪訝そうな目で俺を見ている。何故だ? 俺が笑っているからか? 笑っていたら何かおかしいのか? 笑うということは楽しいということだ。楽しい思いをしているのに、どうして不審な目つきを向けられなければならないのだ?


 俺は不快な気持ちになる前に学校を出ようと思い、全力で走り出す。廊下だろうが階段だろうが関係ない、俺は一目散に下駄箱へ向かった。しかし、下駄箱を目前にして俺は盛大に横転した。曲がろうとして足を滑らせたのだ。全身に衝撃が走る。すぐに起き上がりたかったが、痛みで身体が言うことを聞かなかった。


 その時だった。

お読みいただきありがとうございます。


次回は明日の20時頃に投稿予定です。

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