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悪役令嬢の私は、婚約者とヒロインの恋を成就させたので婚約破棄を申し出ました〜なのに、婚約破棄されない!?〜

作者: 温故知新

※短編として再掲載しました!

「アーノルド様……いや、アーノルド王太子殿下。私、レイナ・カーフェインとの婚約を破棄していただいてもよろしいでしょうか?」



 卒業パーティーの少し前。

 人払いを済ませている応接室で私は、目の前で優雅にソファーに座っている婚約者アーノルド様に婚約破棄を申し出た。



「それは、どうしてか聞いてもいいかな?」



 金髪碧眼の見目麗しい顔で優しい笑みを浮かべるアーノルドに、私はローテーブルの下でドレスをギュッと強く握った。



「それは、私の口から申し上げた方がよろしいでしょうか?」



 そう言って、アーノルド様から隣にいる義妹ミナに視線を移す。

 銀髪でスカイブルーの瞳に整った顔立ちの私とは違う、ストロベリーブロンドで空色の瞳をした可愛らしい顔立ちのミナ。

 すると、私の視線に気づいたアーノルド様が隣に視線を向けると、彼女に対して愛おしげな笑みを零した。

 そして、ミナもまたアーノルド様を見つめると幸せそうな笑顔を向ける。



「っ!!」



 2人の仲睦まじい姿に、私は小さく下唇を噛んだ。


 もう何度も見ているし、これは私が断罪回避のために全力でお膳立てした結果。

 そう頭では分かっているのに、仲睦まじい2人を見る度にどうしようもなく胸が痛くなってしまうのは、それだけ悪役令嬢が攻略対象のことを好きだったからだろう。



 ◇◇◇◇◇



 学園に入学する直前、高熱で魘された私は前世の記憶を思い出した。

 今生きている世界が、前世でやり込んでいた乙女ゲーム『精霊の愛し子は、国を救う』の世界で、自分がヒロインのことをとことん苛める悪役令嬢だということを。



「ミナとアーノルド様と結ばれるのは、この国の習わしで確定しているようなものだから、私がミナを虐めなければいい話なんだけど、万が一にでもシナリオの強制力で私がミナを虐めたと噂が広まったら……!?」



『精霊の愛し子』に危害を加えたとして断罪され、国外追放されるか処刑されてしまう!!


 この世界は、人と精霊が共存している。

 特に、王族や貴族の大半は『火・水・風・土・光』のどれかの精霊の力を借りることが出来る。

 そして稀に、全属性の精霊を借り受けることが出来る『精霊の愛し子』と呼ばれる人間が生まれる。

 それが、乙女ゲーのヒロインであるミナ。

 ミナは、幼い頃から精霊の声を聴くことが出来る特異体質で、平民のミナが貴族しか通えない学園に通っているのは、精霊の力を正しく扱えるようにするため。

 これを指示したのは、ミナを保護した王家である。


 体調が回復してすぐ、自室の机でノートを広げて記憶を整理していた私は、走馬灯のように流れた数多のバッドエンドに気絶しそうになった。



「ゲームでは、天真爛漫で素直なミナにアーノルド様が惹かれ、それに嫉妬したと私がヒロインを排除しようと、取り巻きを使ってあれこれ嫌がらせをして虐めた」



 ん? でもよく考えたら、婚約者が他の女と浮気しているのを許せるかと言えば許せない。

 それも、幼い頃から婚約者として仲良くしている相手なら尚更。

 ということは、悪役令嬢がヒロインにしたことは、婚約者を持つ令嬢として至って普通のこと……でもないわね。

 浮気相手だからといって、命を奪っていい理由にはならない。



「う~ん、どうすれば……そうだわ!!」



 ペンを置いた私は、名案を思いついたとばかりに両手を叩いた。


 ヒロインと殿下が結ばれることは決まっている!

 それなら、悪役令嬢である私が、前世の記憶を使って全力で2人の仲をお膳立てすれば良いじゃない!

 それも、断罪回避出来る穏便な方法で!



「だけど、2人をお膳立てしつつ、断罪回避出来る穏便な方法って……あっ」



 そう言えば、ゲームでは悪役令嬢が断罪された後、ミナは我が家の養子に迎え入れられるのよね。



「だったら、殿下とヒロインが出会いイベントを済ませた後、彼女を我が家の養子として迎え入れ、ゲームではヒロインに会うたびにネチネチと礼儀作法を指摘していた私自らが、ヒロインに淑女教育を施せば……」



 もちろん、前世の記憶を使って2人の仲を陰で深めさせないといけない。

 その上で、精霊の愛し子であるミナを私の手で立派な淑女に仕立て上げれば、周りの貴族達は私よりミナの方が王太子の婚約者に相応しいと思うはず。

 そうなればあとは、私が身を引く形で婚約破棄を申し出るだけ!

 これで、穏便な形で婚約破棄出来て、断罪も回避される!



「ウフフッ、我ながら何と完璧な計画なのかしら!!」



 頭の中で断罪回避までのシナリオが完成し、嬉しさのあまり悪役令嬢らしく口角を上げた。

 でも、そんなこと気にしていられない。


 権力と見栄が大好きな両親なら絶対に乗ってくれるし、養子先が由緒ある我が公爵家ならば王家も納得してくれる!


 ちなみに、ゲームではヒロインの身元引受人は彼女を保護した王家が担っていたが、ヒロインと殿下が結ばれるためにカーフェイン公爵家が養子として引き取った。



「どちらにしても殿下とヒロインは結ばれ、私ら婚約破棄される。ならば、全力で2人をお膳立てして、みんなが納得する形で婚約破棄しようじゃない!」



 こうして私は、断罪回避のために2人を全力でお膳立てしようと動いた。



 ◇◇◇◇◇



「よし! 2人とも視線を逸らして頬を染めているから、間違いなく一目惚れしたわね!」



 ミナに笑顔で話しかけるアーノルド様を見て少しだけ胸が痛んだけど、これも断罪回避のためよ!


 入学式で殿下とヒロインが運命的な出会いイベントを済ませたのを物陰から見ていた私は、両親を唆してミナをカーフェイン公爵家の養子として迎え入れた。



「初めまして、私の名前はレイナ・カーフェイン。今日からあなたの義姉になるわ。よろしく」

「え、ええっと……ミナです。よろしくお願いいたします」



 う~ん! おどおどしている姿も可愛い! さすが乙女ゲーのヒロインね! でも……


 頭を上げたミナにそっと近づいた私は、彼女の華奢な両肩に両手を置いた。



「ところであなた、好きな殿方とかいらっしゃる?」

「えっ!? えぇ、まぁ……」

「それって、貴族の方かしら?」

「そ、そう、なりますね……」



 あ~もう! そんなに頬を染めちゃって可愛いじゃない!


 頬を赤く染めながら視線を逸らすミナに内心悶えつつ、私は悪役令嬢らしくゆっくりと口角を上げた。



「そう、それならあなたを立派な淑女にしないといけないわね」

「えっ?」



 不思議そうに小首を傾げたミナに、私は笑みを潜めると彼女から離れた。



「あなたは、今日からこの由緒正しきカーフェイン公爵家の一員。なので、我が家の恥になるような態度、そして好きな殿方に恥をかかせるような所作は断じて許されないわ」

「っ!!」



 背筋を伸ばしたミナを見て、私は貴族令嬢らしい笑みを浮かべた。



「なので、今日から私自らがあなたに淑女としての何たるかを教えます。正直、かなり厳しいものになると思うけど良いわね?」

「はい! よろしくお願いいたします!!」

「えぇ、よろしく」



 そこから、義妹になったミナを元平民から一流の淑女にするために、私自らが彼女に淑女教育を施した。



「ほら、そんなみすぼらしい挨拶では殿方の妻になんてなれないわよ!」

「はっ、はい!」

「あと、一々おどおどしない! そんなことでは、他の貴族令嬢からなめられるわ!」

「はい!!」



 ろくにカーテシーも出来ないミナに対して容赦なく言葉の鞭を打つ私は、まさしく悪役令嬢そのもの。

 ちなみに、ゲームでの私はミナに対して物理的に鞭を打っていたが、可愛いヒロインにそんなことが出来るはずがない私は、速攻却下した。

 正直、学園でも屋敷でも彼女を厳しく指導していたため、『これで断罪フラグが立ってしまったのでは!?』と思ってしまったことは一度や二度ではない。

 でも、そこはさすが乙女ゲーのヒロイン!

 どんなに私が厳しく指導しても、好きな人のために教えられたことをものにしようと必死に頑張っていた。


 また、学園でミナに淑女教育を施していると、ほぼ必ずアーノルド様から苦言を呈されてくる。



「レイナ、ミナ嬢に対してもう少し優しくした方が……」

「お言葉ですが、それでこの子が他の貴族達に失礼を働いた場合、この子だけじゃなくてカーフェイン家も恥を掻くのですよ?」

「っ!?」



 ヒロインに優しい殿下。正しく、乙女ゲーで何度も見た展開ね。



「ミナ嬢、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。アーノルドさ……」

「ミナ、アーノルド様は私の婚約者ですよ」

「っ!? そう、でした……申し訳ございません、アーノルド殿下」

「ミナ嬢……」



 そうそう、そのまま頑張っているヒロインを優しく気遣って頂戴な。


 そして、陰でミナを呼び出して虐めている貴族令嬢に対しては見つけ次第、得意の悪役令嬢スマイルで一人残らず叩きのめした。



「レイナ様の手を煩わせるなんて、これだから平民は……」

「あなた、ミナが私の義妹であり、私と同じカーフェイン公爵令嬢であることをお忘れ?」

「っ!!」

「レイナ様! 私たちはあなた様のことを思って……」

「あら、誰がそんなことをお願いしました?」



 こういう輩がシナリオの強制力を働かせ、何もしていない私に対して冤罪にかけて断罪ルートまで連れて行くのよ。

 そんなの見過ごすことなんて出来ない! あと、可愛い義妹を虐めるなんて許せない!


 こうして私は、ミナに淑女教育を施しつつ、前世の知識を使って陰でアーノルド様とミナの距離を縮ませた。



 そして3年後、ろくに礼儀作法が出来なかったミナは、学園を卒業する頃には貴族達から認められる立派な貴族令嬢に成長し、社交界ではアーノルド様の婚約者を私からミナにした方が良いのではと囁かれていた。


 フフフッ、これで全ては整った! あとはアーノルド様に婚約破棄を申し出るだけ!


 機が熟したと判断した私は、応接室で楽しく会話をしていたアーノルド様とミナの中に入ると、アーノルド様に婚約破棄を申し出た。



「アーノルド様……いや、アーノルド王太子殿下。私、レイナ・カーフェインとの婚約を破棄していただいてもよろしいでしょうか?」



 ◇◇◇◇◇



 アーノルド様とミナが2人だけの世界に入ってしまったので、小さく咳払いをして2人を現実に戻した。



「精霊の愛し子と王族が結ばれるのは、この国の習わしです。そして、アーノルド様とミナの仲は、社交界では周知の事実であり、皆が認めております。最近では、お忍びで街をデートされていたとか」

「っ!? お義姉様! それは……」

「ミナ、あなたがアーノルド様の隣に座っているのは、私が気遣っていることを分かっているわよね?」



 口を噤んだ義妹に小さく溜息をつくと、笑みを浮かべたままアーノルド様に目を向けた。


 さて、後は殿下から了承を得れば……



「ご安心ください。国王陛下と王妃様には、私と父が話を通して……」

「嫌だね」

「えっ?」



 ◇◇◇◇◇



「今、何と?」



 『嫌』と聞こえたような……



「『嫌』って言ったんだよ。聞こえなかった?」

「っ!?」



 嫌!? どうして!?

 私に隠れてミナとお昼ご飯を一緒にしたり、夜会に一緒にしたりしていたじゃない!!

 最近では『レイナ嬢ではなく、ミナ嬢の方がお似合いなのでは?』という声があちこちで聞こえているのを知らないわけがないわよね!?


 思わぬ答えに動揺しつつも『一先ず、謝らなくては』と、王子様スマイルのアーノルド様に頭を下げる。



「も、申し訳ございません。あまりにも意外なお返事に動揺してしまい……」

「まぁ、君からしたらそうだよね。だって君、最初から『精霊の愛し子』であるミナ嬢と、王族である僕を結ばせようと色々と画策していたんだよね?」

「っ!?」



 バ、バレてる!!


 ドレスの裾を握り締った私に、アーノルド様はのんびりとした口調で話を続ける。



「カーフェイン公爵がミナ嬢を養子として引き取ると言い出した時、最初は公爵が見栄を張るために申し出たのかなと思ったけど……どうやら君が言い出したことだったんだね」

「えっ!? そうだったのですか!?」



 驚くミナの声を聞いて、私は少しだけ頭を上げた。



「それは、どこでお聞きになられたことでしょうか?」

「もちろん、カーフェイン公爵から直接聞いたんだよ」



 お父様!? 王族相手だから仕方ないとはいえ、何をあっさり白状しちゃっているんですか!!


 この場にいないお父様に対して恨みを募らせていると、ミナが恐る恐る手を上げた。



「あ、あの……」

「あぁ、ミナ嬢は部屋から出てもらって構わないよ。レイナが僕に婚約破棄を申し出た時点で、君の役目は終わったから」

「えっ?」



 役目? それってどういう……って、私が婚約破棄を申し出るのを分かっていたのですか!?



「そ、そうですか。それでは先に失礼致させていただきます」

「ちょっ!?」



 なに出て行こうとしているのよ! あなたの好きな人を置いて行っていいの!?


 出ていくミナを引き留めようとソファーから立ち上がった瞬間、私のところに来たミナがそっと耳打ちした。



「申し訳ございません、お義姉さま。アーノルド殿下からのご指示とはいえ、お義姉さまから殿下を取り上げるような真似をしてしまい」

「えっ?」


 ミナ、あなた何を言って……



「そして、ありがとうございます。お義姉さまのお陰で、ようやく本当に好きな人と結ばれることが出来ました」

「一体、何を……」



 啞然とする私から離れたミナは、私が教えた淑女の笑みで綺麗なカーテシーをした。



「では皆様、お先に失礼致します」

「あぁ、今まで本当にご苦労だった」

「いえいえ、これも全て殿下の采配のお陰でございます。本当に感謝の念が尽きません」

「いや、良いんだ。君と一緒にいたお陰で色々と根回し出来て、『国の習わし』という古い習慣で大切な人を奪われずに済んだから」



 この2人は一体、何の話をしているのかしら?

 というか、『根回し』って……もしかして、悪役令嬢である私を断罪する根回し!?

 確か、ゲームの終盤で悪役令嬢を断罪するために殿下が根回しをする話があったけど……まさか、ここにきてシナリオの強制力が働いた!?


 2人の会話を聞いて戦々恐々としていると、突然ミナが私に淑女の笑みではなく心からの笑みを向けた。



「お義姉さま。私は、義妹としてお義姉さまの幸せを願っております」

「えっ?」



 ヒロインが悪役令嬢の幸せを願うなんて……こんなこと、ゲームの中では一切無かった。本当、私の知らないところで一体何が起きているの!?


 思っていたのとかなりかけ離れた状況に内心混乱していた時、ミナが去り際に同行する護衛騎士に向かって幸せそうな笑みを零すところを目にした。



「っ!?」



 待って、ミナが好きな相手って……



「フフッ、どうやら君もミナ嬢の好きな人が分かったみたいだね」



 楽しそうに笑う殿下にゆっくりと目を向ける。



「殿下は、いつからご存じだったのですか?」

「学園に入学する少し前さ。どうやらお互い、一目惚れみたいだったよ」

「一目惚れ……」



 アーノルド様の言葉で、ミナを養子に迎え入れた時のことを思い出す。



『ところであなた、好きな殿方とかいらっしゃる?』

『えっ!? えぇ、まぁ……』

『それって、貴族の方かしら?』

『そ、そう、なりますね……』



 断罪のことばかり考えていてすっかり忘れていたけど……あの護衛騎士って確か、ゲームの中ではアーノルド様と同じ攻略対象者だったわね。

 ということは、カーフェイン公爵家に迎え入れられた時点で、既にミナはあの護衛騎士のルートに入っていたってことかしら。



「さて」



 幸せそうな義妹の姿に安堵してソファーに座った瞬間、私の隣に来たアーノルド様が突然、私が座っているソファーに座って距離を詰めてきた。



「ちょっ、アーノルドさ……」

「君が僕のことを考えてミナ嬢に淑女教育を施していたことも、君がわざと距離を取ることで、僕とミナ嬢の仲を深めようとしていたことも……そして、君が婚約破棄を申し出ることも知っていた」

「っ!?」



 やっぱり全部バレてる! ど、どうしよう! 婚約破棄されないと分かった今、どうやって断罪回避を……



「でもね」



 王子様スマイルのアーノルド様が優しく私の手を握る。



「僕はね、精霊の力が使えなくても必死に努力するレイナに惹かれたんだよ」



 ◇◇◇◇◇



「そ、それは……」



 アーノルドの言葉に、私は静かに口を噤むと視線を落とす。


 この国の貴族や王族の大半は、精霊から力を借りることが出来る。

 しかし、中には精霊から力を借りることが出来ない貴族もいて、その貴族は『恥知らず』として他の貴族達から蔑まれる。

 それは、公爵令嬢であるにも関わらず、精霊の力を借りられない私も例外ではなかった。


 精霊の力が使えないと分かった途端、家族や使用人達から冷遇され、他の貴族達からは蔑みの目を向けられた。

 それでも私は、周りを見返そうと色んな勉強した。

 貴族としての知識はもちろんのこと、領地のことや国のこと、そして精霊のことについても勉強した。

 そして、淑女としての礼儀作法や護身術を完璧に身につけた。

 けれど、精霊の力を使えない私の評価が上がることは一切無かった。


 だからだろう、全ての精霊の力を借りられるミナを憎たらしく思ったのは。


 ゲームの序盤、禁忌とされている闇属性の精霊と契約をして力を得た悪役令嬢は、精霊の力を使い貴族令嬢を魅了して取り巻きを作ると、ヒロインに対して陰湿で過激ないじめをした。

 まるで、今までの受けたやっかみに対して憂さ晴らしをするかのように。

 そしてそれは徐々にエスカレートし、ついにはヒロインの命すら奪うようなこともした。

 だが物語の終盤、精霊の力を使いすぎた悪役令嬢は、『精霊の奴隷』として廃人になるとあっさり断罪された。


 もちろん、前世の記憶を思い出した私は、闇属性の精霊と契約しなかった。

 そんな危険な橋を渡らなくても、前世の記憶を使えば断罪を回避することが出来ると分かっていたから。



「ねぇ、レイナ。覚えている? 君と僕が初めて会った時のことを」

「え、ええっと……確か、王家の茶会でしたわよね?」

「そう。そこで君は、誰もいないガゼボで1人、難しそうな本を読んでいたんだ」

「っ!?」



 その瞬間、幼い頃の記憶が蘇る。



『君、どうしてここにいるの?』

『そっ、それは……』

『それに、その本。どう見ても子どもの君が読むには難しい本だよね?』

『……実は私、精霊の力が使えないのです』

『えっ?』

『だから、家の恥さらしである私はたくさんお勉強をしないといけないのです』



 初めて来た王家主催の茶会で、同い年ぐらいの貴族達から石を投げられた私は、その場から逃げようと持ってきた本を抱えて誰もいないガゼボに避難した。

 その時に、お茶会に飽きて抜け出してきたアーノルド様と出会った。



「初めて出会った時の君は、幼いながらもとても聡明な考えを持っていて、当時の僕が知らなかった国のことをたくさん教えてくれた」

「それは、由緒ある公爵家の令嬢として少しでもお役に立てたいと……」



 そうだ、あの時の私は見返したいというよりも、少しでも家の役に立とうと必死に勉強していたんだ。



「そうだよね。でも僕は、精霊の力を使えなくても必死に努力する君に一目惚れしたんだ」

「っ!!」



 アーノルド様、あの時に私に一目惚れしていたのですか!?


 ゲームでは語られなかった事実に目を丸くすると、アーノルド様の握っていた手に力が入る。



「僕は、精霊の力を使えないだけで君のような有能な人達を蔑ろにし、精霊の力を使えるだけの無能な奴らが政を牛耳っているこの国を作り替えたい」

「『国を作り替える』のですか?」

「あぁ、そうだ。僕はね、いつまでも精霊の力に拘っていては、この国はいつか滅びると思っているんだ」

「アーノルド、様……」

「だから僕は、君の計画とミナ嬢を利用してあらゆる手筈を整えた。もちろん、ミナ嬢には了承してもらった上で利用させてもらったけど」

「えっ?」



 それじゃあ、アーノルド様は私が前世の知識を使って2人の仲を縮めていることを逆手にとって、国を作り替える手筈を整えていたってこと!?


 唖然とする私を無理矢理立たせたアーノルド様は、優しい笑みを浮かべると私の前に跪いた。



「3年間、寂しい気持ちをさせてごめん。でも僕は、この国の王太子として……そして、1人の男として、レイナ・カーフェインと共に生きたい。だから、僕と結婚してください」

「……ほっ、本当によろしいのですか?」



 本当は、幼い頃から大好きだったアーノルド様をミナに取られるのが嫌だった。

 でも、『精霊の愛し子が誕生した時、その時の王太子は愛し子と結ばれないといけない』という国の習わしで、ミナとアーノルド様が結ばれる運命になると分かっていた。

 それに、精霊の力を使えない私より、精霊の力を使えるミナの方が、アーノルド様を幸せにしてくれると知っていた。

 だから、自分の本心を押し殺して動いた。

 それなのに……良いのだろうか?

 精霊の力が使えない私が、彼を幸せにする権利を貰っても。


 肩を震わせる私にアーノルド様がそっと抱き締める。



「うん、僕は君が良いんだ。むしろ、君だから僕のお嫁さんになって欲しいんだ。優しくて聡明で、他人のためなら必死に頑張れる健気で大好きな君が!」

「っ!!」



 王太子からの優しい言葉を聞き、今まで押し殺していた感情が溢れた私は、泣きながら小さく首を縦に振った。


 その後、『これからは、レイナが不安になって他の女性を僕に宛がわせないよう、ちゃんと気持ちを伝えていくからね』と宣言したアーノルド様は、私をとことん甘やかして溺愛した。


 それはもう、国中の誰もが『未来の王妃は、レイナ・カーフェインしかいない』と納得せざるをえないほどに。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


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