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祐樹との関係

 

 少年の成仏に向けた調査の実行は、今週の土曜日にする。平日は仕事だけでヘトヘトになってしまい、何にも手がつかないからだ。

 会社を出ると、後ろから足音が聞こえてきた。

 ひたひたひたひたひた。

 誰だ?

 後ろを振り返ると、二十メートルほど後ろに三山祐樹が立っていた。

 目が合うと、さっと顔を青くしてその場に立ち尽くした。


「何?」


 祐樹は拳を握って、唇を噛み締めている。


「今日、どうしても聞きたいことがあって」

「だから何よ?」


 せっかく聞き返したのに、祐樹は言い淀む。

 何だよ。


「あの、体調大丈夫ですか」

「大丈夫だけど」


 祐樹は更に言い淀む。


「あの、何か僕に言いたいことないですか」

「ないわよ。 一体何なのよ」


 強めに言うと、すぐに祐樹は怯んだ。真衣子の顔を見ると、がっくりと項垂れた。


「だって……もしかしたら……真衣子さんペットを監禁してるんじゃないかって」


 はあ?

 

 * * *



「何で余計なことをしたんですか」


 出勤早々、真衣子は恵美に文句を言いに行った。

 恵美は白々しくも自分のデスクで仕事をし始めている。


「何のこと?」


 恵美は話を盛ったり時には嘘も平気でつくが、とぼけることだけは絶望的に下手だ。


「恵美さんしかいないでしょ。 何なんですか。 私がいつも間にかペットを飼ってて、監禁しながら衰えていく様を観察するのが趣味で、飼っていた動物が死んだらその肉体で料理を作って、人に振る舞って、また新たに動物を飼うって。 そんな話がありますか」

「世の中信じられないようなことをする人もいるのよ」

「そういう話じゃありません!」


 恵美は大して気にもしていない風に、手をひらひらと振った。


「冗談よ、冗談。 彼だって本当に信じてるわけじゃないでしょう」

「本当に信じてるっぽかったですよ!」


 恵美はケラケラ笑う。


「面白い子じゃない」


 それにしてもカメ飼ってたんだなんて呑気なことを言っている。


「何で急にカメ飼い始めたのよ?」

「拾ったんですよ」


 これ以上怒る気にもならず、ため息と共にそう返した。

 恵美はふーんと頷くと、


「話変わるけどさあ」


 頬杖をついた。

 勝手に話を変えるな。


「祐樹くんって何か私をこと苦手に思ってるみたい」

「……そうなんですか?」


 不貞腐れ気味に返したが、実は驚いていた。祐樹からそんな素振りは全く感じたことがない。そして、わざわざ言うということは、恵美もそのことを気にしているのだろう。


「うん。 何かなあ、なんて言うか……そう感じるのよね」


 恵美は類は友を呼ぶって言うのに不思議よね、と神妙な顔つきで言った

 時々、恵美は恐ろしいほどに人の性格を見抜く。初めて恵美と仕事をした時の、最初の真衣子に対する批評が、「あなたって一見真面目に見えるけど、実はそんなことないわよね」だった。

 今まで真面目な人としか評価されたことがない真衣子は、そう言われる度に、それは違うと心の中で呟いていた。実は、人知れずフレンドリーな空気を醸し出していたのである。なかなか気づかれないが、確かに醸し出している。それをたったの数時間で見抜く恵美の観察眼に驚いのだ。

 恵美が祐樹に対してそう感じるということは、あながち間違っていないのだろう。


「まあ、あなたも祐樹くんにそのきらいがあるわよね」


 え?と顔をあげると、恵美が真顔でこちらを見ていた。


「あなた、祐樹くんといる時なんかすごく気を遣ってるみたいよ」


 恵美は一歩間違えれば失礼にあたることも、キッパリ言い放つ傾向がある。

 いや、これは独身先輩としての忠告か。

 確かに恵美の言っていることは正しい。祐樹と直接会っている時は楽しいのだが、その後疲労感がどっと押し寄せてくる。時にはLINEの返信でさえも億劫に感じる時もあるのだ。比べるのはよくないが、幽霊の少年と話している方が、気を遣うことなくお喋りができる。

 よほど深刻な顔をしていたのだろう。恵美はふと笑うと言った。


「まあ、あたしと話す時とカレシと話す時じゃ態度が違うのは当たり前か」


 肩をすくめると、真衣子の二の腕あたりをぽんぽんと叩いた。


「ま、あんたも色々注意しなさいね」


 その色々とは何のことなのか。恵美に言われると、何故か妙な説得力を感じてモヤモヤする。

 話が深刻化してきたので、話題を変えることにした。


「蒼くんとはどうなっているんですか?」


 それがねえ、と恵美は目を輝かせる。


「彼、実はバンドマンらしいの。 この間、ライブも見せてもらってさあ、彼ボーカルなのよ。 私が行った時は自作の曲を披露しててね。 『eye らぶゆー』。 かっこよかったなあ」


 人を見る目はあるのに、何故自分のこととなると鈍くなるのだろうか。

 恋は盲目。


本作品はフィクションであり、登場人物や作中で起こる出来事は全て創作です。

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