今日もあなたに
これは「僕」が愛するとはなにかを知る物語。
今日もまた街路樹の並ぶこの歩道を歩く。
アスファルトはいつもより薄黒く、凍って鏡のような水たまりが冬の白っぽい曇った空を写していた。
駅から5分ほど歩くと目的地のそれは見えてくる。
[富山南病院]
スキップしたいような気分と、重たいリュックを担がされている気分が混ざり合った不思議な気持ちになりながら、駐車場をしきるコーンとコーンの間を跨ぐ。
入って右手側にある発券機にカードを通し、受付に渡しに行くため、緑色の椅子が並ぶエントランスを横切る。平日の朝だというのにたくさんの患者さんやその家族がいて悪い意味で繁盛していた。
「はい、新島磨人さんですね。401、面会でーす。」
すでに顔見知りになっている受付の看護師さんが対応してくれた。
「今日、奈々さん、体調よさそうですよ。」
「あぁ、そうですか。ありがとうございます。」
その瞬間、背中にのしかかっていたものがすっと軽くなった気がした。それと同時に、早く顔を見たくなり、走りそうになったがさすがに子供じゃないのでそれはやめた。顔には絶対に出てたと思うが、この際それは大目に見ることにした。
近くにエレベーターがあったが、子連れの母子が並んでいるのが見えたので階段で行くことにした。ドキドキと脈打つ胸をなだめるように右手で撫でたあと、一段飛ばしで登っていく。
「今日何話そうかなー?同僚の話?いやそれはパンチが弱い気がするし、朝ごはんの話?んー、これも違うんだよなー。」
気づいたら独り言となっていたので急いで唇をきゅっと締めた。いつも病室に入るまでは必死に考えているが、結局は彼女の顔を見たら全部忘れてしまうじゃないか。
心の中の理性とも呼べる冷静な自分が客観的にそう言ったが、今日の「俺」の思考を止めるには一歩及ばなかった。洋服、髪型、高校の頃の話、、、。
次々と候補が浮かんできては消えていった。そんなこんな考えている内に、気づいたら401と書かれた青色の引き戸の前に来てしまっていた。
音楽、友達のこと、将来のこと、、、。将来。
ドアを開こうとしていた手がピタッと止まる。
「それは、今はやめておこう、か、、、。」
急に周りの雑音が耳に入ってきた。大きくせがれた咳の音、スリッパと床が擦れる音、カラカラという車輪の音。
少し前までここは病院だということを忘れかけていた。否、忘れたかったんだと思った。
そして彼女がもう余命幾ばくもないということも。
大きく息を吸った。病院特有のなんともいえない綺麗な匂いが鼻から入って肺を潤した。
ゆっくりと扉を横にスライドさせた。
「おはよう、まーくん」
瞬間、落ち込みかけていた気分が再び再燃した。
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