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Extra Story 私と彼の過去と未来

僕と彼女と僕らのこれまで

読んでいただきありがとうございます。


今回は本編より少し未来の2人のお話です。


楽しんでいただければ嬉しいです。


それでは暫くのあいだ、お付き合いをお願いします。

私の名前は楠木さくら。


今日この日をもって、『宮崎』から『楠木』へと変わりました。


どうもありがとうございます。


今日は朝から愛しの友哉さんと一緒に、故郷の役所に書類を提出しに行ってきました。


無事に受理されたことで、私はついに『彼女』から『お嫁さん』へとランクアップすることができました。


いやー、ここまで大変でしたので、素直に嬉しいですね。


ちなみに、私も友哉さんもまだ職場は都心の方なので、結婚式はそちらで行う予定です。


ですが、今日は私が高校三年間を過ごし、友哉さんが大学四年間を過ごしたアパートにて、私達の結婚祝いをしていただけるそうです。


ありがとうございます、ありがとうございます。


ちなみに参加者は、私達の高校の頃の友人数名と、友哉さんの大学の友人数名、それとアパートの住人の方だと聞いています。


それと両家の親族ももちろん参加します。


役所からアパートまでの移動は『師匠』と『義母』のマルチジョブになった雪子さんに送ってもらいました。


私は相変わらず助手席です。


雪子さんが運転する時は、私は常に助手席に座らされます。


本音を言えば後部座席で友哉さんと並んで乗りたいのですが、師匠の言葉は絶対です。


『はい』か『YES』しかありません。


友哉さんもそのことは(私より)理解していますので、最近は黙って後ろに乗り込みます。


さて、もうすぐアパートが見えてくるというところで、早速私の違和感が警報を鳴らしています。


短い林道を抜ければ到着するのですが、その一本一本がきれいに装飾されています。


まるでクリスマスのイルミネーションの様です。


道の脇だけならまだしも、奥に見える木にまで飾りがしてあります。


簡単なガーデンパーティーだと聞いていたのですが、これはだいぶ心の準備が必要かもしれませんね。


運転している雪子さんは超笑顔です。


そしてこの笑顔は危険のサインです。


私もこの笑顔に何度騙されたかわかりません。


後ろに座っている友哉さんも、同じことを思ったのでしょう。


顔からは緊張感が滲み出ています。


そして、そんな真面目な顔もかっこいいです。


小学校の運動会で見るようなアーチをくぐり、車は既定の場所に止まりました。


ちなみにアーチにはカラフルな文字で『結婚おめでとう!』と装飾文字が飾ってありました。


時間はお昼少し前。


いい感じにお腹もすいているのですが、私達は無事に食事にありつくことができるのでしょうか。


なぜなら、駐車場に停まっている車の違和感がすごいです。


いつもなら雪子さんが運転する軽トラや軽自動車くらいしか無かったはずです。


ところが今日は、世界的に有名な高級車がこれでもかと並んでいます。


……ここは田舎の古いアパートですよね?


間違って都内の超一流ホテルに来ちゃいましたか?


いえ、住人の方を考えれば、こういう車に乗っていても不思議ではありません。


なにせ皆さんその道の超一流と呼ばれる方たちですから。


そして縦横の繋がりが凄すぎます。


私が初めてこのアパートに来た時は、皆さんで歓迎会をしていただきました。


他にもレクリエーションなど色々イベントはありましたが、そういったことは普通のアパートでは無いそうです。


大学で一人暮らしを始めたときに初めて知りました。


大家さんにイベントなどの事を聞いたら『町内会の話かしら?』と言われてしまいました。


だけどそれも仕方なかったのです。


私は実家とここしか知りませんでした。


友達から借りて読んだ漫画でも、そういうイベント事は行われていましたし。


そしてその事を両親含め誰も教えてくれませんでした。


あの時は分かりませんでしたが、今なら声を大にして言えます。


『このアパートは普通ではない!』と。


感覚的にはルームシェアに近いのでしょうか。


だけどルームシェアでも、ここまで集まって何かをすることはないと思います。


少なくとも、住人総出で裏山に山菜を採りに行ったり、無人島に魚釣りには行かないと思います。


大学でできた友人に、これまでやってきたことを話したら、『なんかのゲームの話?』と言われました。


あのときはうまく笑えなくてごめんなさい。


さて、あまり気乗りはしませんが、今回の主役は私達です。


雪子さんからは、準備ができたらエスコート役が迎えに行くからと言われていますので、現在友哉さんと車で待機中です。


ここぞとばかりに後ろに移り、ついでとばかりに密着します。


「……大丈夫、何があっても俺が守るから」


手を繋いだ友哉さんがそう言ってくれました。


自分の顔が真っ赤になるのがわかります。


不意打ちでそんなかっこいい事言うのは反則ですよ?


もう大好きすぎて、どうにかなってしまいそうです。


だけど、ガーデンパーティーってそんなに覚悟を決めるイベントでしたっけ?


それとその言葉は、いわゆる死亡フラグってやつじゃないですか?


私、結婚初日に未亡人になんてなりたくないですよ?


短い時間二人でイチャイチャしていると、コンコン、とドアがノックされました。


背が高い方で、この位置からでは顔はわかりませんが、比較的若い方のようです。


ドアを開けて外に出ると、


「新郎、新婦のご両名、お迎えに上がりました。」


と優雅に一礼されます。


私は慌てて頭を下げますが、隣の友哉さんは固まっています。


「…………もしかして、ケン兄?」


いたずら成功という顔をしながら、その方は顔を上げられます。


……初手からこんな方法で攻めてきましたか。


あまり芸能界に詳しくない私でもこの方は知っています。


私達の県が生んだ国民的スター、若手俳優ナンバーワン、令和の王子様、挙げればキリがありません。


相田ケンヤさんでした。


私は断然友哉さんの方がかっこいいと思いますが、その所作は美しく思わず参考にしたくなります。


「……なんで、ここに?」


「何でとは心外だなー。

かわいかった弟が結婚するんだ、俺が祝わなくてどうすんだって話だろ?

来月から暫く海外で撮影だから式には行けないかもしれんが、その分今日は祝ってやるからな!」


え、相田さんと友哉さんは兄弟付き合いをされてるんですか?


「花嫁さんは初めまして、ですね。

どうも、相田ケンヤです。

昔父とここに住んでた縁で、今日は出席させていただきました。

結婚、おめでとうございます」


そう言うと相田さんはニコッと微笑みました。


なるほど、これが世の女性たちを虜にすると言われる王子様スマイルと呼ばれているものですね。


たしかに突然後光がさしたかのように輝いて見えます。


「ではお二人を会場にご案内いたします。

私のあとに付いてきてください」


また優雅に一礼されると、颯爽と歩き出す相田さん。


その姿は気品があります。


角を曲がったところで大量のクラッカーと花びらが私達を迎えてくれました。


三階からは桜の花びらが舞い落ちてきます。


今は秋なのに、この桜はどうしたんでしょうか。


気にするな?気にするなと言われれば気にしません。


おそらくこんなことで驚いているようでは、今日を二人で無事に乗り切ることはできないからです。


私はさくらの名前の通り、桜の花は大好きです。


そんな桜の花びらに包まれたことはとても幸せです。


なので、上ばかり見ています。


「さくら、さくら」


「はい?なんですか?友哉さん」


「上ばかり見てないで、ちゃんと前を見て?」


「……できれば、もう少しだけこうさせてください」


「さくら、それは現実逃避っていうんだよ?」


えぇ、わかっています、わかっていますとも。


初手から芸能人で驚かされましたが、裏を返せばその後はそれ以上のサプライズがあるということです。


えぇ、一瞬だけ見えてしまいました。


だから空に目を逸らしたのです。


右も左も危険です。


だからと言って、後ろを向くわけにはいきません。


……できればこのまま家に帰らせてもらえないでしょうか。


などと背中を向けるわけにはいきません。


どこかの剣士さんも言っていましたよね。


『背中の傷は剣士の恥だ』と。


私は剣士ではありませんが、逃げ出すわけにはいきません。


そして今の私は最強なはずです。


だって今日から私は楠木に(以下略)。


前を向きます。


目の前には高級そうなスーツを着たおじさま。


えぇ、私はこの方を知っています。


この方に大学生の頃住んでいたアパートを紹介していただきましたから。


もちろん覚えています。


あのときはお世話になりました。


「宮崎さん、いや、今日から楠木さんか。

まぁ君たちは私の弟や妹みたいなものだから、親しみを込めて名前で呼ばせてもらおうかな。

さくらさんとは中学生のとき以来かな?

まぁ大きくなったもんだ。

友哉くんとはこの間会ったね。

そっちも元気そうで何より。

それと、今日はおめでとう!」


そう言って、山里先生は右手を差し出します。


国会議員 山里誠一郎先生。


地元選出で、将来最も総理に近いと呼ばれるほど実力のある議員の方です。


現在は党の幹事長をされているはずですが……やっぱりここのご出身、と。


それより友哉くんはいつお会いしたんですか?


え?会社の近くの蕎麦屋で普通に蕎麦食べてた?


その時に奢ってもらった、と。


……その節は夫がお世話になりました。


ちなみに周りの怖そうな方々は…SPの方たちですね、わかりました。


本日はわざわざありがとうございます。


それからは順番に来ていただいた方々に挨拶をして回ります。


同級生の顔を見てかなりホッとしてしまいました。


いえ、できればそんな隅っこじゃなくて、もっとこっち側に来てください。


え?場違い?


とんでもない、そんなことありませんから。


ここの料理は美味しいですよ?もう食べましたか?


知ってる?そうですか。


は?ニュースになってる?


何がですか?


いえ、できれば聞きたくはないのですが、聞かないとまずい気もします。


そのニュースを見せてもらいました。


全国版のニュースですか。


あぁ、これですね。


『K県にある料亭〇〇、本日急遽休業を発表

極秘来日していたハリウッド女優エレナ=ミレニアム、予約をキャンセルされ大激怒』


これって天草さんのお店のことですよね?


休業?もしかして今日のために?


慌てそうになる私を見て、同級生は奥の方を指さします。


え?あの方がその女優さん?


すごく優雅に、立ったまま食べてらっしゃいますけどいいのでしょうか。


あ、お箸の使い方がすごく上手。


またおかわりに行った?


嬉しそうなので大丈夫?


………みなさんも楽しんでくださいね。


その後も色々ありました。


雪子さんが家守さんと腕相撲をしたり、雪子さんが天草さんと料理対決をしたり、雪子さんがパティシエの加治さんとスイーツ対決をしたり、雪子さんが町中華で有名な宗谷さんと中華料理対決をしたり……。


……雪子さん、元気すぎです。


そしてその人達に勝つってどういうことですか?


いえ、たしかに美味しかったのですけど、どうなっているんでしょうか。


そして友哉さんはずっと遠い目をしています。


おーい、戻ってきてくださーーい。


時刻は夕方になり、それぞれが各々帰路につかれました。


まだ会場に残っているのは、現在もこのアパートに住んでいる方と私の両親のようですね。


今は……どうやらみなさんお酒を楽しんでいるようです。


あとお父さんは飲み過ぎです。


私の小さい頃の失敗談を友哉さんに話したことは忘れませんからね?


ふと見渡せば、雪子さんが居ません。


(お部屋の方かな?)


私が住んでいた101号室。


その部屋は、私のあとに友哉さんが住んだそうです。


付き合ってた当初は知りませんでしたが、暫くしてから、お互いの過去を話したときに初めて知りました。


まぁそれがきっかけで、友哉さんが雪子さんの子供だってわかったんですけどね。


あの頃の私たちは、本当に不器用な付き合い方をしていたと思います。


それこそ手を繋ぐのも、キスをするのも、体を重ねることだって、他の人の2倍や3倍の時間かかったのですから。


お互い心に傷を持ち、それでも一緒にいたくて二人で一歩ずつ進んできました。


もちろん小さな喧嘩やすれ違いもありましたけど、ようやく今日という日を迎えることができました。


今は誰も住んでいない、友哉さんと雪子さんの私物を入れる倉庫のようになっている思い出の部屋。


その先を曲がり、建物を周回するように歩いていきます。


普段はあまり近寄らない、雪子さんや天草さんが家庭菜園を作っている場所。


パーティー会場からは建物を挟んで真裏になるため、ここは静寂に包まれています。


秋の風が気持ちよくて、疲れた私を癒やしてくれます。


目をつぶると秋の虫の声が聞こえてきます。


その音に混じって、『チーン』というおりんの音が聞こえました。


よく見ると、私の住んでいた隣の部屋、102号室の窓が少し開いているようです。


(あそこは、たしか雪子さんの部屋でしたよね?)


少なくとも、私が住んでいた時はそうだったと記憶しています。


そして、小さいながらも雪子さんの声が聞こえてきました。


私はダメだとは分かっていたのですが、普段の明るくて力強い雪子さんからは想像できないような声に興味が湧き、こっそりと聞き耳を立ててしまいました。


「あなた、それにお父さん、お母さん。

今日、ようやく友哉が結婚したよ。

思えば、これまで本当に色々あった。

私は、母親らしいことなんてあんまりしてあげられなかった。

あの子はやれば何でもできる子だったから、それについ甘えちゃったんだろうね」


どうやら雪子さんはお仏壇にご報告をしているところのようですね。


私もまだご挨拶できていませんでしたので、今度頼んでみましょう。


新しい家族としてご挨拶は当然のことですからね。


それにしても友哉さんは昔からそうだったんですね。


たしかに彼はとてもハイスペックです。


いつも自分なんてまだまだ、上には上がいるよって言ってますが、上ってその道のプロですよ?


それを生業にしている人と渡り合ってるんですから、もっと自信を持っていいのにといつも思います。


でも自信たっぷりの友哉さんは困りますね。


今でもアプローチしてくる女性が後をたたないというのに、これ以上増えると私も気が気ではありません。


そもそも私達が出会った合コンだって、最後は殆ど友哉さん狙いだったんですから。


彼は女性が怖かったらしくて、露骨なアプローチは逆効果です。


それこそ私がその時彼と話したのは、好きなご飯やデザートの話くらい。


出身地が同じだと分かってから、ようやく話が弾むようになったくらいですから。


男性相手には頭でも力でも無双できるのに、女性を前にしたら借りてきた猫みたいに、とたんに大人しくなっちゃいますからね。


まぁそこが友哉さんの魅力ですし、私も安心できる所ではありますけど。


私ですか?相変わらずですよ。


相変わらず女性にはモテモテです。


この間も新人の女の子から熱烈なアプローチを受けました。


まぁ今の私はちゃんと左手薬指に指輪をしていますからね。


変な虫は寄ってこないし、仮に寄ってきても超強力な殺虫剤が私を守ってくれますから安心です。


雪子さんの話は続きます。


「だけど、まさかあの子と結婚するなんて思わなかったな。

これが運命ってやつなのかな。

あんなに小さかった二人が大人になって、まさか結婚するなんて、あの時いた誰も思わなかったよね」


何の話でしょうか。


あの子というのが私なのはわかりますが、小さい?


ここにきた中学生の時の話でしょうか。


それにしては違和感がありますね。


それに二人ってことは、もしかしたら私と友哉さんはどこかで会った事があるのでしょうか。


いえ、同じ高校ですから、すれ違ったことくらいはあると思いますが、話した事はお互い記憶にありません。


それに高校生を小さいとはあまり言わないですよね。


「あのとき、お父さんが命をかけて助けてくれたあの子が、次の命を繋いでいく。

それって運命なのかな?

あなたが早くに亡くなって、お父さんとお母さんも逝ってしまって、私に残されたのは友哉だけだった。

だけど、私にはあなたとお父さんやお母さんが残してくれた思い出と、この場所があった。

だから、今まで…頑張れた…」


雪子さんの声を聞けばわかります。


おそらく泣いているのだろう、と。


そして、お父さん、つまり友哉さんのお祖父様が亡くなったのは、あの子に原因がある?


それは多分友哉さんではないと思います。


………たぶん、私です。


その後も雪子さんはご仏壇に報告をしているようです。


ですが、今の私はそれを理解する事ができません。


(私が、私のせいで、お祖父様が……)


内容をきちんと聞いたわけではないので、確実とはいえません。


ですが、おそらく間違いではないと思います。


(……私が、友哉さんと結婚するなんてできない)


本当に私のせいで雪子さんのお父様、友哉さんのお祖父様が亡くなられたのだとしたら、私はどんな顔をしてこれから二人に会えばいいのでしょうか…。


知らないふりをしてこれまで通りに暮らすなんて不可能です。


そして、友哉さんはこの事を知っているのでしょうか。


今さら謝ってもどうしようもありません。


ですが、私には他にどうすることもできません。


(……雪子さんは、何を思いながら、私といてくれたんだろう)


憎らしいと思われていたのでしょうか。


殺してやりたいと思われていたかもしれません。


自分の父親が死んだ理由を作った相手。


私なら、とてもじゃありませんがまともに相手をできないと思います。


(ウソ……だったの、今までのこと、全部……)


あの笑顔も、優しい話し声も、私のことで喜んでくれたことも、私を叱ってくれたことも……。


とにかくここから離れよう、そして謝ろう。


その後は結婚を解消して、とにかく贖罪をしよう。


そう思って動き出そうとしたとき、


「さくら?」


……私を呼ぶ声がしました。


いつもの優しい声で、いつもの優しい笑顔で。


目は少し腫れていますが、やはり泣かれていたのでしょう。


その原因なのは…きっと…。


「……聞いてた?」


「……はい」


ごめんなさい!


そう言おうとしたときに、


「鍵は開いてる、入っておいで?」


そう言われました。


私は玄関へと廻り、中に入ろうとしたときに、


「さくら?」


優しい声が聞こえました。


大好きで、ずっと一緒にいたくて、だけどもう一緒にいられない。


「どうしたの?そこ、母さんの部屋だろ?」


「……はい、ちょっと、呼ばれて」


私の顔色を見て心配してくれたんでしょう。


何かあった?と聞いてくれます。


だけど何も答えることができません。


あなたのお祖父様を殺してしまったのは、私だよ。


とても言えるはずもありません。


友哉さんはおそらく知らないと思います。


知っていたら、私のことを憎んでいてもおかしくないから。


「何やってんの、早く入りなって」


玄関を開けて雪子さんが出てきました。


「友哉も居たんだね。

ちょうどいいから二人共おいで?」


もう、逃げ道はなくなりました。


二人で部屋に入ると、中は雪子さんの趣味の道具が乱雑に積んであります。


「……母さん、少しは掃除しなよ」


友哉さんは呆れながら部屋の奥に進んでいきます。


「さて、と。

先ずは順に話をしようか。

その前にあなた達も挨拶していって」


お仏壇には3枚の写真が飾ってあります。


一組の男女が右側に、一人の男性が左側に。


たぶん右側がお祖父様とお祖母様で、左側が雪子さんの旦那様、友哉さんのお父様なのでしょう。


今の友哉さんがもう少しだけ年をとったらこうなるんだろうなといった方です。


私は目をつぶり、お参りしますが、このあとに言われることが怖くてたまりません。


私の震える手を握ってくれたのは、やっぱり友哉さんでした。


暖かい熱が伝わり、私の震えが少し和らぎます。


二人で雪子さんの方に向き直ります。


「さて、話をしたいところだけど、その前にさくら、ちょっとこっちにおいで?」


……何を言われるのでしょうか。


いつもの笑顔で、いつもの声で呼ばれます。


私は言われるまま雪子さんの横に座りました。


『べチッ!』


まさかのデコピンが飛んできました。


「さーくーらー、あんた、盗み聞きするなんてどこで覚えてきた!

私はそんな子に育てた覚えはないよ!

ほら、何を聞いた!?どこまで聞いた!?

早く言いなさい!

じゃないと、さらに強い一発を喰らわすからね!?」


デコピンはいつも以上に痛かったです。


オデコがヒリヒリします。


ですが友哉さんの前で、盗み聞いていたことをばらされてしまったので、正直に答えるしかありません。


私は聞いた内容を恐る恐る話しました。


「まぁそんなとこだろうと思ったよ。

これは窓開けっぱなしにしてた私のミスだね」


…なんだか、思っていた反応と違います。


「友哉、あんたは覚えてるんじゃないの?」


「あぁ、まぁ、なんとなく?」


「じゃあ、答え合わせしようか。

友哉、あんたが覚えてること言ってみて?」


「えーっと、かなり昔だからうろ覚えだけど、じいちゃんたちとみんなで、どっかの河原でバーベキューしてて…」


「うん、それで?」


「……小さい女の子がいて、その子が川で溺れて、じいちゃんが助けに行って…」


……川で…溺れて……。


記憶にはないけれど引っかかります。


私は泳ぐ事ができません。


水に入ることにかなりの恐怖心を覚えてしまいます。


小さい頃はお風呂も入れなかった時期があったそうです。


「……普通に戻ってきて、それから…」


あぁやっぱり普通に戻ってきたんですね…。


……戻ってきて?


「バーベキューしながら、濡れた服を乾かしてたかな?」


ちょっとそこらへんは私の想像と違いますね。


「そんときにじいちゃんが怒られてて、怖かった」


あぁ、やっぱり怖かったんですね…。


それは目の前で身内の、しかもおじいさんが…。


おじいさん怒られてるんですか?


「さくら、あんたは盛大に勘違いしてるみたいだけど、私の父、つまり友哉の祖父は別にあんたのせいで亡くなったわけじゃないわよ?」


えーーっと、どういうことでしょう。


「ちょっと目を離した隙に、さくらが川に流されて、もう少し遅ければ、死んでいたかもしれないのは本当よ」


えっと、もしかしたら死んでたかもしれないのはわかりました。


すいません、頑張って理解しますので続きをお願いします。


「それに気づいた私の父が、走ってあんたを助けに行って、あんたは少し水を飲んでたけど、助かったの。

救急救命の資格も持ってたし、意識もしっかりしてた。

まぁ怪我と言えば、父が岩で足を切ったくらいかしらね。」


「それは……ご迷惑おかけしました。

それで、なんでお祖父様は怒られることになったんですか?」


「そりゃ子どもたちの面倒見るって自分で言い出して、結果その子供が流されて、挙句の果てに自分の足を怪我するんだもの。

逆に怒られない理由ある?」


はい、返す言葉もありません。


「まぁ、はい、そう、ですね」


すいません、私を助けてくれたお祖父様、フォローができないダメな私を許してください。


「まぁでもそれは、私達大人全員が反省すべき事だったのよ。

二人もいる小さな子供を、元気とは言えお父さん一人に任せちゃったんだからね。

だけど、問題はそこじゃないのよ」


まだあるんでしょうか。


はっきり言ってこの先が怖いです。


「次の日も、泣きじゃくってたさくらを一生懸命励ましていた友哉をみたお父さんが、いきなりこの二人は結婚するんじやないかって言い出したの」


あれ?話が変な方向に進み出しましたよ。


「周りは何言ってんだって顔してたけど、何しろ言い出したら聞かない人でね…」


あぁ、なんとなくわかります。


私の前にも、その血を色濃く継いだ人がいますから。


「それで、熱くなっちゃって、周りの人達が言ったのよ。

子供の未来を大人が勝手に決めるな!ってね。

それでお父さんは……


『だったら賭けるか!?

この子達の未来は必ず自分たちで決めさせる!

大人は余計なことはしない!

もしこの誓いを破った場合は、罰金100万!

それは二人がそれぞれ結婚するときに半分ずつ渡す。

そしてもし、どっかでこの二人が出会い、結婚した場合はこの場にいるもの全員が100万の祝儀を出す!

どうだ、のるか?』


って言っちゃったのよ。

お酒の影響が無かったとは言えないけれど、みんな熱くなってたから話に乗ってね。

私はお父さんを正座させて説教したわ。

宮崎さん夫婦と夫は笑ってたけどね。

そんな未来があってもいいんじゃないかって」


「じゃあ…もしかして今日来てた人たちって……」


「えぇ、その時の参加者よ。

相田くんはまだ小学生だったけど、お父さんが参加しててね。

今日はお父さんの代わりに預かってきたそうよ。

その時まだ修行中だった天草くん、自衛官になりたてだった家守くん、語学留学に来ていたエレナ、まだ秘書見習いだった山里くん、パティシエになるためにフランス留学したいって言ってた蜜香ちゃん、今日は来られなかったけど、駆け出しの映画監督だった相田くん。

懐かしいわね、あの頃はみんな若かったわ」


雪子さんはしみじみ言ってますが、皆さん実際に今日来ていただいた方たちです。


そして聞き捨てならない事も言われましたが、聞かなかったことにしておきます。


「じゃあ、もしかして、私の問題を解決してくれたのって……」


「えぇ、もちろん私よ。

最初会った時は驚いたわ。

だけど私は、さくらだってすぐにわかった。

あなたに関わる気はなかったんだけど、会ってしまったし、私のことも気づいてなかったから、まぁいいかって思ってね。

だけどあなたの話を聞いてから考えが変わったの。

すぐに電話してあなたの両親を呼び出して、思い切り叱ってやったわ。

あなたと友哉に関する事には手を出さないけど、子供の痛みに気づかない親がいるか!ってね。

まぁこれは自分にも言えることだけど」


「でもなんで、私の両親はあんな奴とくっつけようとしたんでしょうか?」


「あぁ、それはね、あなたが生まれた頃は、宮崎家は小さなアパートに住んでいたの。

そして、あなたが生まれたことで今の家を買ったのよ。

それが塩崎家との付き合いのはじまり。

小さい二人はまるで兄弟みたいに育ったそうよ。

だけど、気弱だったあなたを心配した両親が、塩崎家の男の子に守ってやってくれってお願いしたみたいらしいの。

学校の中までは目が届かないし、頼りになりそうな友達に親が頼むのは別に不思議ではないから。

だけど、それは間違いだったのね。

相手は大人の顔色を見ながら裏でコソコソするタイプ。

元々ずる賢かったんでしょうね。

そしてあなたのこともよく見ていた。

他人には告げ口しない、両親にも相談しないってね。

そこからあなたの運命は変わってしまったのよ。

それこそ、勇気を振り絞って私に相談するまではね。

太一くんも律儀な人でね、わざわざお父さんに報告しに来たわ。

娘には守ってくれる相手ができたかもしれない、自分達は娘が幸せになれるよう応援していくってね。

お父さんは、気にするなって笑ってた。

子どもたちの将来は子どもたちが決めるのが一番だって。

だけどそのときに言われたはずなのよ。

くれぐれも相手をよく見ろよって。

目が曇って、ワシの孫を傷つけたら承知しねえぞってね。」


「……孫?」


「えぇ、お父さんの口癖だったのよ。

このアパートにいるやつはみんなワシの子供だ、そいつらに子供ができたらその子はわしの孫だってね。

だから私達は、この中では皆家族なの。

私達の時には一番年上は相田くん、次が山里くん、家守くん、私、天草くん、太一くん、蜜香ちゃん、エレナの順でね。

だけど別に誰が上で誰が下ってことはないの。

みんな同じ、みんな家族。

だから誰かに何かあったら助けるし、助けてもらえる。

それがお父さんが決めた、たった一つのルールなの」


知らなかったです。


ちなみに雪子さんが言った太一くんというのは、たぶんお父さんのことです。


どうやら友哉さんも詳しいことは知らなかったみたいで、びっくりした顔をしています。


「……え、じゃあ、あのとき溺れてた女の子が、さくら?」


え?そっからですか?


そこに驚いていたんですか?


いやいや、もっと驚きポイントいっぱいありましたよね?


それに気づいてますか?


この流れでいうと、このあと私達、とんでもないもの渡されてしまいますよ?


「それで話を戻すけど、あなたが私に相談してくれて、あなたのご両親と話をして、その場に塩崎夫婦も来てもらったの」


え、それは初耳です。


てっきり私の両親とだけ話していると思ってしまいました。


「そこで、私から出した条件は一つ。

それは宮崎さくらに関わらないこと。

もしこれが破られたら、現在契約している私名義の土地や建物、私が仲介した企業全てが、現在の契約満了後手を引くってね。

あの夫婦はすぐに了承してくれたわ」


雪子さんは悪い笑みを浮かべます。


そんなところも絵になります。


「あとはご存知の通り。

大人の話はこれでおしまいよ。

なにか聞きたいことがある?」


「…じゃあ、わたし、友哉さんとこのまま結婚してもいいんですか?」


「「は??」」


二人の息がピッタリ揃いました。


「だって、私のせいで、お祖父様が亡くなったと思ってて、だから、私ここにいちゃいけないと思って……」


「いや、あんたは私の話をちゃんと聞いてたの?

お父さんがなくなったのは単純に老衰。

普通に病院のベッドでみんなに看取られながら逝ったわよ?」


友哉さんもウンウンと頷いてます。


「……だって、さっき、雪子さんが泣いてて、それで…」


友哉さんは『は!?マジで!?』って顔をしてますけど、それどころじゃありません。


「いや、それは……」


少し口ごもったあとに恥ずかしそうに、


「……そりゃ、可愛かった息子と、可愛い娘が結婚してくれるんだもの。

私だって嬉しくなって泣くこともあるわよ……」


だんだん声のトーンが落ちていきます。


「…なんで俺は過去形なんだよ…」


横では友哉さんが拗ねています。


私は安心して大泣きしながら雪子さんの胸に飛び込みました。


「ったく、変な心配かけちゃってゴメンね。

でも大丈夫、あなたが嫌だって言うまでは、私からは離してあげないからね?」


うわーーん、もう大好きです、超大好きです!


結局今回のことは私の勘違いでした。


……とても恥ずかしいです。


そして心配していた通り、眼の前にお札の束が出てきました。


友哉さんも目をそらしてます。


……気持ちはわかりますが現実です。


とりあえずこれは雪子さんに預けて、いずれ生まれてくる子供のために取っておくことにしました。


それからお父さん、ちょっと後で話があります。


お酒を飲んでいる場合ではありません。


逃げないでくださいね?


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その後に起きた話をしましょう。


Epi1 ある日の朝


ある日起きると、雪子さんがウンウン唸っています。


どうしたのか聞いてみたら、脛がすごく痛いそうで、病院に行くか悩んでいるとのこと。


あーこれはあれが原因ですね。


私の顔を見た雪子さんは、なにか知っていると思ったのでしょう。


わざわざ関節を極めながら聞いてきました。


別にそんな事しなくても教えますよ。


それは昨夜のことです。


うちの双子ちゃん(3歳、天使)がテレビを見ていたら、知っている人が出てきました。


それは最近さらに体の厚みが増した家守さんです。


家守さんはバラエティー番組の企画で、ローキックでバットをへし折りました。


子どもたち、大喜びです。


それを見た雪子さんが、自分でもできると言いだし、とりあえず家にあったバット2本をローキックでへし折りました。


子どもたちはまるでヒーローを見たかのように大はしゃぎ。


気を良くした雪子さんは、さらにバットを要求します。


だけど、普通の家にはバットなんてそんなに何本もありません。


そこで何を思ったのか、雪子さんは裏手に積んであった角材を用意し、それを次々とへし折ります。


もう子どもたち大歓喜。


もう一回!もう一回!の掛け声に気を良くした雪子さんは休み無くへし折り続け、仕事から帰ってきた友哉さんが止めるまで続けました。


痛みはおそらくそのせいです。


記憶がないのは、友哉さんに怒られてやけ酒したせいです。


そこら辺に転がっている日本酒の一升瓶4本が証拠です。


それを伝えると、


「ならいいか」


と言いながら、元気に子どもたちとお散歩に行ってしまいました。


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Epi2 私の名前は


うちの双子ちゃんが1歳くらいの時です。


雪子さんは子どもたちに一生懸命言葉を教えていました。


だけど、パパとかママより先にユキコちゃんって教えるのはどうかと思います。


どう考えても難易度高すぎです。


だけど、そこはさすが我が子。


辿々しいながらも、なんとか


「ゆったん」


と喋ってくれました。


私と雪子さん大歓喜です。


雪子さんは住民の方たちを叩き集めました。


そして高らかに宣言します。


「今後、私のことを間違えてゆったんなんて呼んだ日には、恐ろしい罰を受けさせる」と。


なんでも雪子さんの中で、『ゆったん』は子どもたちだけの特別なんだそうです。


住民の皆さんごめんなさい、いつものアレです。


皆さん最近は慣れたものでハイハイと言いながら、引き上げていかれます。


いつもうちの義母が申し訳ありません。


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Epi3 落ち込むこともあります


最近パパの元気がありません。


仕事は相変わらず忙しいようですが、それにしても落ち込んでいますね。


こういうときは私の役目!


さりげなーく理由を聞いてみます。


ふむふむ、なるほどね。


子どもたちが自分じゃなくて雪子さんとばかり遊んでいる、と。


割とどうでもいいことでした。


それよりも愛しの奥さんがあなたの帰りを待ってたんですよ?


ちょっとくらいこっちをかまってもいいと思いませんか?


え?それは夜に?


ふふ、仕方ありませんね。


ほーら天使ちゃんたちー、パパだよー。


パパが帰ってきたよー?


そうそう、上手上手。


そう、今のうちです!


雪子さんは私が抑えておきますので、今のうちにめいっぱい愛でるのです!


あと私のことも忘れないように!


忘れて寝てたら、今後は協力しませんからね?


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Epi4 呼び方


朝から雪子さんの機嫌が悪いです。


それに伴い、嵐を事前に察知した野ネズミのように、皆さん外出されています。


私は逃げることができません。


何故なら、私はオーナー担当に指名されているからです。


理由はわかっています。


昨夜、友哉さんがうっかり雪子さんのことをおばあちゃんと呼んでしまったからです。


雪子さんは自分をおばあちゃんと呼ぶことを非常に嫌っています。


少し前に遊びに来ていた山里先生が、うっかり


「これで、あの雪もおばあちゃんかー」


なんて失言したことで場の空気は凍りつきました。


なんと国会議員を正座させて、お説教したからです。


SPの方々は、『あぁ!?』の一言に威圧されて文字通り空気になっていました。


それ以来、このアパートでは雪子さんをおばあちゃんと呼ぶのは公然の禁止事項として認知されています。


ですが、ついうっかり友哉さんが破ってしまったのです。


高まる緊張感、予測される惨劇、皆さんの中に緊張感が走ります。


ですが天使たちの「バーバ?」の可愛さにさすがの雪子さんもKOされてしまいました。


どこで覚えたのかわかりませんが、首を少し傾げながらの威力は絶大です。


以来、このアパートでは『天使ちゃん達のみ可』という暗黙のルールが追加されました。


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Epi4 認知度確認


私は以前から気になっていたことを雪子さんに聞いてみました。


雪子さんのご両親は既に亡くられているのは知っていますが、旦那さんのご両親はどこにいるのか、と。


雪子さんはびっくりされていました。


鳩が豆鉄砲を食ったよう、という表現は、まさにこのことでしょう。


「どこも何も、昨日も会ってるんじゃないの?」


…どういうことでしょうか。


言葉の意味から、ご存命だということは理解できますが、私は会った記憶がありません。


聞いてみたところ、


「いや、昨日行ったんじゃないの?

ほら、ちょっと行ったところの中華料理屋さん。

あそこが、旦那の実家だよ?」


おぉう…。


全く知りませんでした。


友哉さんは知っているようでしたが、少なくとも私は初めて知りました。


どうやらお互いが伝えていると思っていたそうです。


だけど、今さらどう挨拶すればいいのでしょうか。


あのお店は名店で、炒飯が絶品です。


それこそ、私達が帰ってきてからは週一で通っています。


中国人の方が多く働いていて、本場の味なんだなぁなんて呑気に思っていたら、わざわざ弟子入りするためにこの店で働いていると教えられました。


道理で友哉さんとオーナーさんの仲がいいなぁなんて思ったはずです。


え?パーティーにも来てた?


私きちんと挨拶をしたのでしょうか……。


不安になってその日は眠れませんでした。


(次回お店に行くときに、今さら何て言えばいいのでしょうか…)


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Epi5 この先の未来


子どもたちを寝付かせた後の夫婦二人だけの時間。


「友哉さんは、やっぱり男の子も欲しいですか?」


双子ちゃんは天使ですけど、両方とも女の子です。


結婚する前から、友哉さんは男の子ができたらキャッチボールをしたり、キャンプに行ったり、大人になったら一緒にお酒を飲みたいって夢を語っていました。


だけど私にはわかります。


父親として、何よりも自分と同じような経験はしてほしくないのだってことが。


それもわかっていますが、今夜はあえて聞いてみます。


「もし、男の子ができたら、友哉さんは何をしたいですか?」


「うーん、今でもいっぱいいっぱいだからね。

男の子が欲しいとは思っていたけど、今は本当に幸せだよ?

それこそ、昔では想像もできないくらい。

まさか僕があのとき溺れていた女の子とこうして一緒に過ごせるなんて、想像もしていなかったから」


それは私も同じですよ。


もしあのとき同期のお誘いを受けていなければ、今こうして一緒にいることはできないはずです。


(私は、友哉さんのために何ができるのでしょうか)


そんな事を考えていると、


「さくら、こんな僕と一緒にいてくれて本当にありがとう。

頼りないかもしれないけど、僕はずっとさくらと一緒に居たいと思ってるんだ。

だから、これからも仲良くしてね」


なんてことを言われてしまいました。


ヤバすぎます、好きすぎます、まさにキュン死です。


なので私はお返しに取っておきのサプライズでお返しです。


「私を離さないでくださいね。

それと次は、男の子みたいです。

大好きですよ、私の愛しの友哉さん」

お読みいただきありがとうございました。


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[一言] とても良かったです 次回作も期待してます
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