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惹けぬ弱者の世迷言  作者: 殴始末
諸日編
4/31

3「時として我々は生き急がされる」

「ごらあああああああああああああああああああ!!!!」



 実践形式で学ぶが為に広い校庭に出てきたところで、それは起こった。

 昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴り響き、五限が始まるのと同時に轟く怒号。

 本日二度目だ。耳をつんざき、雄々しく響き渡る音源は目前に。


「どうしたの?ニテちゃんご乱心?」


「違うわボケ!貴様授業中だと言うのにまた懲りずに!」


「なによ。ご飯食べてちゃいけないの?」


「当たり前だろう!礼儀というものを知らんのか!?」


「知らないわよそんなもの!」


 その音源は、今まさに現れたもう一つの音と衝突していた。

 にらみ合うそれらを周りは、娯楽かのようにさざめきながら見物していた。

 その空気に紛れ込むのは、テスタの服の裾を摘んだマロックの声。

 普段の自信に溢れた声とは程遠い、か細い声が漏れていた。


「姉さん…やめてくれ…」


「マロック!ほら、いつもの言ってやりなさい!」


「ほう!マロックよ。貴様は【この状況で】私に何か言いたいことがあるとでもいうのか?」


「いや、俺は別に…」


「今マロックに圧掛けたわね!?我が家の教育方針は自由をモットーにしてるのよ!不用意で無責任な干渉しないでくれるかしら!」


「なっ…!元はと言えば貴様が彼を巻き込んだのではないか!責任転嫁も甚だしいぞ!それでもリックラックの娘か!?恥を知れ!」


「あの…だから…」


「あー!今こいつパパの名前を出したわ!卑怯よ卑怯!」


「クハハハハハ!この程度で卑怯とな!見てるかリックラック!貴様の娘はとんだ小心者だぞ!」


「なによ!じゃあもうモーテリアに言いつけるんだから!」


「貴様それは卑怯というものだろう!」


「……」


 流るるままに巻き込まれてしまったマロック。

 彼の視線が、離れた地に座る僕とラパンを交互に巡る。

 悲壮感漂うマロック。いつも強気な彼は、人に頼ることなく物事を解決しようと躍起になる癖がある。


 そんな彼が助けを求めているのだ。行かない手はないだろう。

「行きましょうか。ラパン。」


 隣のラパンがはぁ、とため息をつきつつ、やれやれといった様子で腰を上げる。


「そうですねー、まったくみんなして世話のやけるー。」


 呆れたようなその言葉の裏には、優しさと愛情が垣間見える。


「いいじゃないですか。似たもの姉弟で。」


「皮肉ですかー?」


「いえいえそんな。羨ましいだけです。」


 ほんとかなー?ほんとですよ。と交わして、未だいがみ合うテスタらの下へ。


「テスタ、ガーラ先生。授業も押しますし、そのくらいで…」


「しつこいわねぇ、だって仕方ないでしょ!?アルがやっと魔力を使えるようになったんだもの!泣いて喜ぶに決まってるじゃない!」


 場が静まり返る。それと同時に、ここにいる約四十名の視線が自分に収束していくのを感じる。

 それと同時に、とてつもない悪寒が液と化して背筋を伝う。


「ま、まだ可能性というだけで確信では...」



「アールっ!」



 突然肩にかかった腕の力強さに、思わず平衡感覚を失う。


「おいおい大丈夫かよ。」


 倒れた僕に、きっと心にもない言葉を平然と吐き捨てる男。


「お前一応、然門とこのお偉いさんの一人っ子だろ?それがこんなんじゃ親もさぞ困るだろうよぉ…」


 燃え盛る炎のように赤い瞳を持つその男…バルテミアは、あたかも、僕が悪いかのように一方的に話を続ける。


「でもそんな出来損ないも遂に魔力を使えるようになったらしいな。儀式のロウソクに火をつけるくらいはできるかなぁ?」


 非常にわかりやすい挑発だった。でも大丈夫。言われ慣れてる。乗らずにいられる。このまま無視し、授業の進行を促して…



「ねぇ。バルテミア。」



 これもまた本日二度目だ。バルテミアによる挑発と野次馬達の興奮で熱気に満ちていた空気が、瞬時に凍りつく。

 振り返るまでもなくそこにいるのはテスタ。


「流石にしつこいんじゃないか?」


 まるで凪のように静かに、感情の込もったマロックの声が続く。


「これが覇制四流派のうち二角を占める彼らの弟なーんて信じら

れないよねー。」


 話しながら、要所要所に魔術的な節を織り交ぜるラパン。


「お、おいおい。お前ら流石にまずいんじゃねーのか?」


 ほんの一瞬の出来事に、


「名家であるメイエルの血筋の者が、ストレイシブ家の誇る期待の末っ子俺様に、よってたかって手を出そうだなんてよぉ…」


 と、それから透ける焦燥や困惑とは裏腹に勝ち誇ったような表情で自らの優位性を見せる。


「そんなの構うはずないじゃない。」


「構わん。」


「構わないよねー。」


 三者三様に答える姉弟ら。嬉しい回答ではあるが…


「チッ、これだから力しかねぇバカは嫌いなんだよ!」


 バルテミアが戦闘態勢に入る。

 まずい。このまま戦闘へと入れば、間違いなくバルテミアは負ける。しかしそこに家名が絡むとどうだろうか。

 どこからどう見ても、いじめそのものである現状。

 彼が負けたとして、ストレイシブ家が黙っちゃいないだろう。


 それは、僕を助ける代償としては大きすぎる。


 そこで争いが起きれば確実に大きな損失が生まれてしまう。

 特に気の短い者達であるが為に、すでに彼らが相対してしまった今。ここで止めても既に円満な解決は望めないところまで来てしまったのだろう。


 であれば、申し訳ないが。


「バルテミア、決闘しましょう。」


 その場に再び混乱と静寂を招く言葉だった。

 次第にバルテミアは、構えていた剣を下げ、口を裂き笑みを浮かべる。

 その姿に周囲は湧き上がる。


「ふーん、いいぜ。受けてやるよ。」


 慌てたように。


「そ、そんなのだめに決まってるじゃない!ねぇ!」


 テスタは両隣の弟たちに共感を求める。


「ああ!何を考えているんだ!?」


「そうだねぇ…それはさすがにねーえ。」


 想像どおりの反応だ。もとより彼らはこれを危惧して裏に隠してくれていたのだから。

 だが先のことを考えれば安いものだ。


「いいですよね。ガーラ先生。」


「ああ、無論だ。」


 何を思ってか、騒動を背に周囲を徘徊していたガーラ先生は無関心げに応じる。

 そこにテスタが食って掛かった。


「アルはまだそこまで魔力を使いこなせてないのよ!?バルテミアとだなんて差がありすぎるわ!」


 すると彼は持ってきていた冷蔵庫大の用具に手を当て、


「なにを言うか。私は徴轍員だぞ?生徒が自惚れず自らを正確に測る能力を養う為に導入されているんだ。忘れたか。」


 先程とは一風変わった低い声で語る男に、テスタは息を飲む。


「であれば今力を得た人間の相手により強きものをあてがうのは

当然だろう。」


「ッ!それなら私が!」


「抜かせ。それはバルテミアほどの脅威にはならないことを自供しているに過ぎん。」


「でも!」


 食い下がるテスタ、しかしそれにガーラ先生は。


「くどい。くどいぞテスタ!貴様の出る幕ではないということだ!大体貴様事実としても、力技術知識どれを取ってもバルテミアに劣るではないか!その程度でわがままを聞いて貰おうとは片

腹痛いわ!」


 額に青筋を浮かべ怒鳴る彼に、テスタは言葉を失った。

 しばしの静寂。咳払いをして、


「コホン、皆も自由にペアを組んで演習するように。えー、そうだな…一時間したら再度集合してもらおう。ではそれまで勝手にしろ。また、実戦形式で行う者は安全装置の確認を怠るな。その他質問があれば来い。」


 言ったきり彼は、座り込んでなにやら紙へ書き込み始めてしまった。

 次第に周囲がざわめきだす。そして、微笑みながらバルテミアが隣へとやってきた。


「じゃ、行くか!」


 猫のように首をつかまれ引きずられる。

 あまりの力量の差に、先が思いやられる。


「ちょっと、それはないんじゃないかしら!?」


 甲高く訴えるテスタにも、


「これは俺様とこいつの戦いなんだからてめぇが口出すことじゃねぇぜ。」

 と言い放つその口で、


「お前らもついてこいよ!いいもん見れるぜ!」


 他のクラスメートをも誘う。いったいどれほどの恨みがあるというのだろうか。こちらには心当たりはないというのに。


「いいじゃん!見に行くわ!」


 最初に声を上げたのはピートル・ピーター。バルテミアの友人だ。

 

「俺っちもいくと!」


と続けたのはミュータ・ノモルード。大商会の家系に生まれたこれもまたバルテミアの友人だ。きっとサクラだろう。

 だがそのサクラは絶大な効果を起こし、名前もしらないクラスメートたちは次々に名乗りを上げた。


「ほどほどに集まったな!それじゃあ行くぞ!」


 クラスメートの半数ほどが集まった頃、満足したように、これから僕にとって地獄となる戦場へと移動を開始するのだった。

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