プロローグ
深く深く、落ち沈み染まりゆくその感情。
人はそれを、"絶望"と呼ぶ。
期待を煽り、進歩を促す一筋の光。
人はこれを、"希望"と呼ぶ。
まだ見ぬ世界との邂逅。
人はこれを、"救済"、また"執着"と呼ぶ。
解を求め彷徨う時間。
人はこれを、"生"と呼ぶ。
記憶と身体の喪失。
全生命からの忘却。
人の"生"はその二つを以て、完全な"死"と成る。
よってここを、"死"した彼の、終着点とする。
そしてここが、"救済"されず"執着"し続ける彼の、出立点である。
しかし。
これから刻まれる彼の時間だけでは、何かが変わることは決してない。
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(私は目覚めた、次はお前の番だ。)
頭上から声がひびく。
聞きおぼえのない声だ。
少し鼻につくような、ふゆかいな感じ。
「目覚めるって?」
おそろしく端的な発言。
その真意をさぐるべく問いかける。
(そのままさ。眠れる自分を呼び起こすんだ。)
よくわからない。あ、そうか。
(……………………………いや………うん。そうだな。言い方が悪かった。すまない。)
倒れたからだをムクリと起こす僕をみて、彼はあわれむような、悲しむような声を送ってくる。
「じゃあもうわからないよ。」
彼のいいたいことがわからず足をなげ出す。
しかしなぜだろう。変に体がかるい。
投げ出したあしがそのまま飛んでいってしまいそうなくらいに。
それに頭がぽやぽやする。
まさに、夢のなかのように。
(…そうか。まぁ近いうちにわかるだろう。)
「近いうちっていつ?」
(近いうちは近いうちだよ。明日か、明後日か、はたまた一ヶ月後か一年後か。未来は見えないからないが、それくらいだろうさ。)
口ぶりから見るに、彼にとっての一年とはみじかいものなのだろう。
それなりに歳をとっているのだろうか?
ふと気づく。
まだ彼のかおを、見ていないことに。
顔を上げ、むかいにたつ彼に目線を向ける。
脚からじゅんに、腰、胴、首、口、鼻、目、髪と視野にはいっていく。
真っさおな顔に、くろいかみ。
それは、どこか懐かしさを、かんじさせる姿で。
そこで、彼の顔に、おどろいた表情がうかぶ。
(お前まさか、覚えていないのか…?)
おそるおそるといった様子できく、彼の青白いかおは、どんどん朱く、そまっていく。
あたまの中が、どんどんぬけてゆくような、浮遊感を、こらえて、ことばを、ひねりだす。
「なにを?」
まさに、望んでいた、かいとうそのもの、だったのだろう。
僕のことばを、きいた彼のかおには、光が、さす。
あぁ、でも、もう、だめだ。
しこうが、
(いいかよく聞け。)
まとまらなく
(お前は__________________