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第7話 急なお誘い

「おいヒトケタ。なんか先輩が呼んでるぞ」

 試験の次の日。教室にいた僕に、なにやらお声がかかった。

 見ると、教室の入口に、見慣れない男の人が一人立っている。

 待たせては悪いと思い、僕は急いでその人のところに向かった。

「なんですか?」

「一ノ宮圭大くんだね? 私はメソ研の部長を務めている、三年の村瀬むらせ あきらという者だ。突然だが、キミ、今日の放課後、時間はあるかね?」

「勧誘はお断りしてるんですけど」

「勧誘ではない。キミのメソッドに興味があってね。少しインタビューさせてもらいたいんだ」

「それくらいなら、まあ、いいですけど」

「うむ。ありがとう。では、放課後、迎えに来るから、よろしく頼む」

「はい」

「それでは」

 村瀬先輩は、踵を返すと、さっそうとこの場を去っていった。

「何の用だったッスか?」

 自分の席に戻ると、様子をうかがっていたのか、九部くんから話しかけられた。

「なんか、メソ研っていう部活の部長さんだったよ。僕のメソッドについて聞きたいことがあるんだってさ」

「メソ研ッスか。メソッド研究部の略称ッスね」

「知ってるの、九部くん?」

「そんなに詳しいわけじゃないッスけど、メソッドのことに関することなら何でもござれ、というような部活らしいッス」

「活動内容が読めない部活だね」

「ボクのメソッドとの相性が良さそうな部活だから、ちょっと気になってたッス。一ノ宮くん、そのお誘い、ボクも付いて行っていいッスか?」

「もちろん。知らないところで緊張するだろうし、九部くんが来てくれるなら心強いよ」

 そんなわけで、僕ら二人は、揃ってメソ研の部室に行くことになった。


 放課後。約束通り、村瀬先輩がやってきた。

「お待たせした。おや? そちらのキミは、期末試験で一ノ宮くんと組んでいた」

「九部ッス。ボクも一緒に行きたいッス」

「もちろんいいとも」

 村瀬先輩は、昨日の一年生の期末試験を見ていたのか。それで、活躍した人に声をかけているという感じだろうか。

 だとすると、僕よりも羽田くんと山吹さんのコンビに先に声を掛けそうなものだけど。

「では行こうか。部室は部活棟の二階だ」

 三人縦に並んで、教室がある校舎の隣にある建物、通称部室棟を目指して歩く。

 ほどなくして、部室のドアの前に到着。

「ここだ。何のおもてなしもできないが、どうぞ」

 村瀬先輩がスライドドアを引き中に入り、僕ら二人を招き入れる。

 メソ研の部室は、思っていたより狭かった。六畳くらいだろうか。中央に長机と椅子があり、壁際にロッカーが並んでいて、部屋の奥に大きな窓がある。

 部室の中には、先に二人、人がいた。一人は、メガネを掛けた女の人。もう一人は―――。

「軽く紹介しておこう。部員の二年の桜井くんと一年の松本くんだ。他にも部員はいるが、幽霊部員だったり、色々あって、基本的に部室にいなくてな」

「よろしくお願いします」

「よ、よろしく」

「松本くん。部活やってたんだね」

 期末試験トーナメントでも対戦した、同じクラスの松本くん。部活をやっているようなタイプには見えなかったので、この場にいるのが少し意外だ。

「松本くんは入学した時に私がスカウトしたんだ。能力が活動にとても役に立つものだったのでね」

「『ノット・フィール・ア・サイン』が? どこで役に立つんですか?」

「情報収集する上で、自分の存在を悟られないということは大いなる武器になる、ということだ」

 視界の端で、九部くんが大きくうなずくのが見えた。

「さて、まあ腰掛けて楽にしてくれ。早速インタビューを始めさせてもらおう」

 僕と九部くんは、村瀬先輩と机を挟んで対角線の椅子に腰掛けた。

「さて、まずは―――」

 村瀬先輩が聞いてきたことは、ごくごくシンプルな質問ばかりだった。

 好きな食べ物は、から始まり、どうやってそのメソッドを手に入れたのか、とか、メソッドの発動条件は、とか、今までに受けた一番大きい衝撃は、とか、そういう感じだ。

 矢継ぎ早に飛び出る質問に、次々と答えていく僕。

 十問くらい答えた、その次の質問。

「では次、キミのメソッド、スーパークラスはあるのか?」

「ありません」

「そうか、ないのか。欲しいと思ったことは?」

「え?」

 ここに来て初めて、元の質問に追加する形で質問されたので、少し戸惑った。

「それは、あるならそれに越したことはない、と思いますけど」

「そうか」

「は、はい」

 なんだか押されているような雰囲気に、少したじろぐ。

「これは私の個人的な興味でもあるのだが、キミのメソッド、その可能性を見たいと思っている。だから、キミが自分のメソッドのスーパークラスを見たいというのであれば、ぜひ、その手伝いをさせてもらいたい」

 村瀬先輩は、熱のこもった言葉で、僕に言った。

「どうかな?」

「悪い話じゃないと思うッスよ、一ノ宮くん。ただでさえ強力なメソッドを、さらに強力にするチャンスッス」

 確かに。断る理由は特に思いつかない。

 いつまでも九部くんとコンビで戦えるわけじゃないし、メソッドを今より強くすることは、課題として常にあるものだ。

 僕の答えは、早々に決まった。

「ぜひ、お願いします」

「そうか。ありがとう。じゃあ、さっそくだけど、キミのメソッドを少し借りるよ」

「え?」

 借りる?

 どういうことだろう。

「一ノ宮くん、聞いたことないッスか? 村瀬さんのメソッド」

「うん。ごめん、僕そういうの全然知らなくて」

「村瀬さんのメソッド『神の見えざる手』は、左手で触れた相手のメソッドをコピーして右手で発動するという、特殊なものッス」

「何故か、私の家系は代々自分の型を切り替えられる特異体質でね。そのおかげで、こういうメソッドを扱うことができるんだ。このメソッドの力を使えば、それだけでスーパークラスの発動条件が判明したりするんだよ」

 それぞれの人が生まれ持つ、イントかキャラ(と、ブール)という『型』が合わないとメソッドは受け渡せないというルールがあるが、それを無視できるということだろうか。

 それは、すごい特異体質だ。

「それじゃ、ちょっとこっちに来てくれるかな」

 村瀬先輩が座っている椅子から立ち上がり、机の横の、少し開けた空間に僕を手招いた。

「キミは、そのままそこにいてくれればいいからね」

 何をされるのかわからない不安から、少し緊張気味の僕に優しく語りかける村瀬先輩。

 そして、村瀬先輩が左手で、僕の肩に触る。

「よし、ありがとう。もう大丈夫だ」

 もう終わったらしい。

 特に何の感触もなかったのが、拍子抜けだ。もっと何か、例えば吸い込まれるような感じとか、あると思ったんだけど。

 借りる、と言っていたから、メソッドを持ってかれて、僕の方は発動できなくなるのかと思ったけど、そんなこともなかった。

 試しに『全てが偽になる』を発動してみたけど、特に問題なく発動できた。

「これが、なるほど、うむ、これはすごい」

 村瀬先輩が、僕のメソッドを吟味している。

 なんだか少し恥ずかしい。

「よし、わかったぞ」

 数秒の時間をかけて、村瀬先輩がそう告げる。

「ど、どうですか?」

 恐る恐る、僕は聞く。

「うん。わからないということが、わかった」

「へ?」

 思ってもなかった言葉に、、間抜けな返事を返す僕。

「何も把握できなかった。こんなことは初めてだ。一ノ宮くん、キミのメソッド、思った以上に特殊なものだね」

「そうなんですか?」

 普通じゃない自覚はあったけど、こうして言葉にされると重みが違う。

「まあ、ここでわからなかったからといって、手がないわけじゃないさ。ゆっくりやっていこう」

 今日のところはここまでだ、という風に、村瀬先輩が僕から離れる。

「終わったッスか? それじゃ村瀬さん。いろいろ聞きたいことがあるッス」

「うん? いいよ。なんなりと聞いてくれ」

「じゃあまず、そのメソッドについてッスが―――」

 メソッドのこととなると真剣な九部くんが、手の空いた村瀬先輩に、あれこれと質問をする。

 僕はというと、特にやることもなくなってしまったので、手持ち無沙汰に壁に貼られたポスターを眺めたりしている。

「気を落とさないでくださいね」

「え?」

 桜井先輩に急に話しかけられて、驚いて桜井先輩の方を向く。

「メソ研のメソッドにかける情熱は、生半可なものではないです。部長なら、きっとそのメソッドの謎を明らかにできるはずです」

「謎、ですか」

 僕のメソッドの謎。スーパークラス。

 自分のことながら、まだ見ぬ可能性に、少しわくわくする。

「一ノ宮くん。この部活は思ってたより凄いッスよ。ここに入れば、ボクのメソッドの記録も、今以上に捗るかもしれないッス」

 村瀬先輩との会話を終えた九部くんが、興奮気味に詰め寄る。

「一ノ宮くんも一緒に入るッスよ」

「うん」

 最初は僕のメソッドについてのインタビューがしたいという形だったけど、事ここに至って、メソッドの研究をしていくということなら、出入りする数も増えるだろうし、確かに、部員になるほうが自然な流れではある。

「じゃあ二人で入ろうか。いいですか? 村瀬先輩」

「もちろんだとも。歓迎するよ」

 一学期もそろそろ終わるというタイミングで部活に入るというのも変な話かもしれないが、この流れに乗るのは、きっと僕の今後に役立つはずだという、妙な確信があった。

「それでは、これが入部届だ。クラスと名前を書いてくれ」

 村瀬先輩の差し出した紙に、二人揃って必要事項を記入する。

「それと、ここでは私は部長で通っているんだ。二人も揃えてくれて構わないよ」

 村瀬先輩改め、部長。

 不思議なことに、呼び方を変えただけで、部の一員になったという気持ちが、より一層強くなった。

 それからは、授業が終わるたびに、メソ研に顔を出してスーパークラス発現に向けて修行をする日々が始まった。

 ちなみに、父さんに聞いてみたが、今までの歴代の『全てが偽になる』保持者で、スーパークラスを発動できた人は、一人もいないらしい。

 それもあってか、部長は研究に熱心で、その結果生まれる、部長の考案したスーパークラス発現計画を僕が試すというのが、部活動の中心になった。

 その他は、椅子に座ってみんなで雑談。桜井先輩や松本くんとも、それなりに親しくなった。

 他の部員にはまだ会ってないけど、それでも、だいぶメソ研に浸透できた気がする。

 そして、一学期が終わり、夏休みが来る。

 僕にとって忘れられない夏休みになるのだが、それはまだ後の話だ。

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