第5話 期末試験
一学期の終わり。期末試験が行われる。
バトプラ学園の期末試験は、単純に学力を測るテストではなく、メソッドの強さを測り、それがそのまま成績になる試験だ。
どんなに頭が悪くても、メソッドが強ければそれでいいこの学園の成績の付け方に、救われる生徒も多い。
メソッドの強さの測り方は単純で、学年内でトーナメント形式のメソッドバトルをして、その勝敗で決まる。勝ち続ければ、それだけ成績も良くなるというわけだ。
「いつも通りなら個人戦ッスけど、今回は二人で一チームのチーム戦になるんじゃないかって話ッスよ」
「そうなの? 良かったぁ。九部くん、一緒に組もうよ」
「それは嬉しいッスけど、いいんスか? 一ノ宮くんなら、もっと強い人と組んで優勝も目指せるッスよ?」
「あんまり勝ちにこだわりすぎてギラギラした人と組むのは怖いし。その点、九部くんとなら気心知れてるしね」
「ボクのメソッドは戦闘の役には立たないから、単体じゃ最下位確定ッスからね。願ってもないことッス」
がむしゃらに一番を目指す人を否定はしないけど、僕はそういうタイプじゃない。
気疲れする赤の他人と一位を目指すより、親友と程よい位置をキープするほうが、僕の性に合ってる。
「程よく頑張るッス」
「だね」
熱い緑茶が似合いそうなくらい、落ち着いた空気。
トーナメントも、このくらい和やかな雰囲気で行われれば嬉しいんだけど、たぶん、そうはならないんだろうなぁ。
「なんか和んでるね」
「山吹さん」
呆けてるところを見られてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「二人は、期末試験で組む相手、もう決まった?」
「うん。僕と九部くんで組むよ」
「そうなんだ。相変わらず仲が良いんだね」
「山吹さんは? もう決まったの?」
「お誘いは何人かから来てるから、その内の誰かと組むことになると思うけど、まだはっきりとは決まってないんだよね」
「引く手あまたなメソッドで羨ましいッス」
「バトルじゃなくてメソッド当てクイズとかだったら、九部くんも優勝間違いなしなのにね」
「私はクイズじゃ全然駄目かも」
「クイズだったらいいッスねえ」
またも流れる、和やかな雰囲気。
「それじゃあね」
和やかな空気に染まり切る前に、山吹さんは友達に呼ばれて、僕らから離れた。
「チームが別だから、山吹さんとも当日は敵同士ッスね」
「うん。やりにくいね」
トーナメントの組み合わせ次第では戦わない可能性もあるけど、戦う可能性ももちろんある。
僕は、なるべくなら戦わないで済みますようにと、神様に願った。
そして、期末試験トーナメント当日。
期末試験は、自分の順番が来るまでは教室で待機して、開始直前に呼ばれたら、体育館に移動してメソッドバトルをするという流れで進行していくらしい。
バトル開始直前まで、相手が誰かもわからない。どうか、強い相手とは当たりませんように。
そんなことをぼんやり考えていたら、僕たちの出番になった。
「それじゃあ、行くッス」
「うん」
僕と九部くんは、体育館に移動した。
体育館の中は、いくつかのパーティションで区切られ、それぞれの場所でメソッドバトルが行われていた。
僕と九部くんも、僕たちのバトルが行われる場所に着く。
会場には、既に対戦相手が先に来て待っていた。
「相手は佐藤くんと鈴木さんッスか。厄介な組み合わせかもしれないッス」
「どんなメソッドなの?」
「佐藤くんのメソッドは『伸びる腕』。その名の通り、最大5メートルまで両腕を伸ばせるというメソッドッス」
「それだけ?」
最近までメソッドすらなかった自分が言うのもなんだけど、大した事なさそうだ。
「問題は、もう一人の鈴木さんのメソッドッス。鈴木さんのメソッドは『この手にする』。半径10メートル以内にあるものを、何でも手の中に引き寄せることができるメソッドッス」
それはなんだか、使いようによっては凄そうなメソッドだ。
「組み合わせて戦われたら、どうなるかわからないッス」
何をしてくるかはわからないけど、こちらの『全てが偽になる』で相手の攻撃を防いで、隙きを突いて九部くんが攻撃するという基本戦術に変わりはない。
「お互い準備はいいか?」
審判役の先生の声がかかる。
それぞれのチームに、緊張が走る。
「メソッドバトル。始め!」
こうして、期末試験トーナメント、その初戦が始まった。
まずは、九部くんを守りつつ、様子見をする。
開始早々、佐藤くんが自身の『伸びる腕』を伸ばして直接攻撃をしてきた。
幸い、腕が伸びる速度はそれほど早くないので、問題なく九部くんを守れる。
最初は腕を真っ直ぐ伸ばしてきただけだったけど、5メートルという長さを生かして、上から横から後ろからと、多彩な角度で攻めてくる佐藤くん。でも、これも問題なく防ぐ。
向こうの攻撃がこちらのダメージにならないのはいいけど、これだけ距離を取って戦われると、こちらの攻撃も向こうに届かない。
考えてみれば、今までの戦いでは相手が僕らに近づいて来てくれてたから、僕らはその場を動かないでも戦えていたんだ。
今回は、戦い方を変える必要がありそうだ。
「九部くん。あっちの攻撃は僕がガードするから、どんどん前進して、なんとか二人のどちらかに一撃加えよう」
「ラジャーッス」
作戦は決まった。
あとは、それを実行するだけだ。
『伸びる腕』を潜り抜けながら、徐々に佐藤くんと鈴木さんとの距離を詰める。
思っていたより順調に事は運んだ。もうまもなく、九部くんが攻撃できる距離まで近づくことができる。
そう思った刹那。
「一ノ宮くん! 上ッス!」
近づいた二人の方に気を取られた一瞬。九部くんの声で慌てて上を確認すると、そこには佐藤くんの伸びた腕があり、そこから何かが降ってきているのが見えた。
僕は、慌てて九部くんに覆い被さるようにして、その何かと九部くんの間に割り込む。
間一髪、その何かは九部くんには当たらず、僕の体に当たり、滑るように地面に落ちた。
地面に落ちたそれを見てみたら、それは陸上競技で使う砲丸だった。
「鈴木さんの『この手にする』。自分だけじゃなくて他者の手に持たせることもできるッスか」
さすがの解析力で、九部くんが今起こったことを教えてくれた。
佐藤くんの『伸びる腕』の先端に『この手にする』の能力で、どこかから砲丸を引き寄せた。ということだろう。
びっくりさせられたが、何とか乗り越え、気づけば二人は目の前。
「九部くん。攻撃!」
「行くッスよ!」
これまでずっと僕の後ろに控えていた九部くんが、その場所を離れ、二人に向かっていく。
「えい、やあ」
そして、二人に対して、この上なく軽い一撃を見舞う。
貴重な、そして決勝の一撃だ。
その後、時間切れまで九部くんを守り通し、僕たちは試合に勝った。