表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

第4話 楽しくて嬉しくて

 それから数日経って。

 最初はクラス中、次に学年中と、ヒトケタが強力なメソッドを手に入れたという噂が、知れ渡った。

 その影響で、喧嘩っ早い人たちが次々とメソッドバトルを挑んできたけど、全部時間切れの引き分けで決着した。

 そしてそれ以来、挑んできた人もこれから挑もうとしている人も、僕の『全てが偽になる』の攻略方法を見つけてやろうと躍起になっていて、とても居心地が悪い思いをしている。

「『全てが偽になる』を解除して、今まで通りに戻ればいいッス」

「ここまで来ると、それも怖くてね。あー、どうしたらいいんだろう」

 放課後の教室。九部くんに相談しているが、特に解決策は見つからないでいる。

 このメソッドを手に入れたときは、これで少しは学校生活が落ち着いたものになるかと思ったのに、蓋を開けてみたらその逆で、メソッドを持つ前より騒がしくなってしまった。

 それと、最近増えてきたのが、

「おい、お前俺のチームに入れ」

「なあ、俺とチームを組まないか」

「私のチームに入れば、今なら豪華特典が」

 こういうお誘いだ。

 今のところ全部お断りしているけど、盾役として優秀すぎるメソッドを逃してはならないと、みんな真剣に誘ってくるので、断り続けるのもなんだか申し訳ない気持ちになる。

 メソッドバトルにチームへの勧誘。メソッドを持つ前だったら考えられなかったほどに、いつの間にやらすっかり人気者だ。

「人気者だね」

「え?」

 考えていることを見透かすかのように突然話しかけられて、驚いて振り向くと、そこには同じクラスの山吹やまぶき 望美のぞみさんがいた。

「あ、ごめんね、急に」

「いや、大丈夫だよ。いきなりでちょっと驚いたけど」

「どうかしたッスか?」

「ううん。別に何もないんだけど、会話に混ざろうと思って。迷惑、だったかな?」

「全然。そんなことないよ。どうぞどうぞ」

「じゃあお言葉に甘えて」

 山吹さんが、近くの空いている席に腰を下ろす。

「最近の一ノ宮くんを見てると、他人事のような気がしなくって」

「山吹さんも?」

「うん。私も人気が高いメソッドだから」

「山吹さんのメソッドは『ナイチンゲール』。体力を回復するメソッドッスよね」

 回復系のメソッドか。確かに、いつでも普遍的に人気のあるメソッドだ。

 それはそうと。

「凄いね九部くん。どれだけ把握してるの?」

「そんなに言うほどでもないッスけど。まあ、学園全体の八割くらいは把握してるッスね」

「すごーい」

「それで言うほどでもないっていうところが、余計に凄いね」

「ボクの夢は、世界中のメソッドを全部記録することッスからね。学園程度の規模で漏れがあるようじゃ、まだまだッス」

「ちゃんと目標があるんだね。うらやましいなあ。私なんて、お母さんからメソッドを貰っただけで、このメソッドで何をするかなんて、考えてもないから」

「僕もそうだよ。父さんから貰ってまだ日も浅いし。これからのことなんて、なんにも決まってないよ」

「そうなんだ。一緒だね、私たち」

 そう言って、山吹さんは優しく微笑んだ。

 簡単なもので、メソッドを手に入れてからの面倒事も、同じ境遇の人がいるというだけで、少しだけ見方が変わった気がした。

「ところで、ねえ、二人とも、この後ヒマ?」

「うん。暇だけど」

「暇ッスね」

 即答する僕と九部くん。

 放課後の教室に残って雑談をしている二人が、忙しいわけがないのである。

「せっかくこうしてお話できるようになったんだし、どこか遊びに行かない?」

「いいね。行こう行こう」

「どこ行くッスか?」

「ゲームセンターとか、どう?」

「ゲーセンかあ。僕あんまり行ったことないや。九部くんは?」

「右に同じッス」

「えー、絶対楽しいよ! 行こ行こ!」

 山吹さんに押し切られる形で、僕たち三人はゲームセンターに行くことになった。

 山吹さんは、さすがに自分から行こうというだけあって、ゲームが上手かった。

 僕と九部くんは、そんなに上手くないけど、何もできないほどできないわけでもない、中途半端な感じ。

 僕らは、暫くの間、ゲームに興じた。

「じゃあまた明日、学校でね」

「うん。また明日」

 ゲーセンでの遊びを終えて、駅前で山吹さんと別れ、僕たち二人は帰路に着いた。

「楽しかったッスね」

「うん」

 バトプラ学園に入学してから、一番充実した一日といっても、過言ではないかもしれない。

 そんな満たされた気持ちに包まれて、僕は家に帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ