第4話 楽しくて嬉しくて
それから数日経って。
最初はクラス中、次に学年中と、ヒトケタが強力なメソッドを手に入れたという噂が、知れ渡った。
その影響で、喧嘩っ早い人たちが次々とメソッドバトルを挑んできたけど、全部時間切れの引き分けで決着した。
そしてそれ以来、挑んできた人もこれから挑もうとしている人も、僕の『全てが偽になる』の攻略方法を見つけてやろうと躍起になっていて、とても居心地が悪い思いをしている。
「『全てが偽になる』を解除して、今まで通りに戻ればいいッス」
「ここまで来ると、それも怖くてね。あー、どうしたらいいんだろう」
放課後の教室。九部くんに相談しているが、特に解決策は見つからないでいる。
このメソッドを手に入れたときは、これで少しは学校生活が落ち着いたものになるかと思ったのに、蓋を開けてみたらその逆で、メソッドを持つ前より騒がしくなってしまった。
それと、最近増えてきたのが、
「おい、お前俺のチームに入れ」
「なあ、俺とチームを組まないか」
「私のチームに入れば、今なら豪華特典が」
こういうお誘いだ。
今のところ全部お断りしているけど、盾役として優秀すぎるメソッドを逃してはならないと、みんな真剣に誘ってくるので、断り続けるのもなんだか申し訳ない気持ちになる。
メソッドバトルにチームへの勧誘。メソッドを持つ前だったら考えられなかったほどに、いつの間にやらすっかり人気者だ。
「人気者だね」
「え?」
考えていることを見透かすかのように突然話しかけられて、驚いて振り向くと、そこには同じクラスの山吹 望美さんがいた。
「あ、ごめんね、急に」
「いや、大丈夫だよ。いきなりでちょっと驚いたけど」
「どうかしたッスか?」
「ううん。別に何もないんだけど、会話に混ざろうと思って。迷惑、だったかな?」
「全然。そんなことないよ。どうぞどうぞ」
「じゃあお言葉に甘えて」
山吹さんが、近くの空いている席に腰を下ろす。
「最近の一ノ宮くんを見てると、他人事のような気がしなくって」
「山吹さんも?」
「うん。私も人気が高いメソッドだから」
「山吹さんのメソッドは『ナイチンゲール』。体力を回復するメソッドッスよね」
回復系のメソッドか。確かに、いつでも普遍的に人気のあるメソッドだ。
それはそうと。
「凄いね九部くん。どれだけ把握してるの?」
「そんなに言うほどでもないッスけど。まあ、学園全体の八割くらいは把握してるッスね」
「すごーい」
「それで言うほどでもないっていうところが、余計に凄いね」
「ボクの夢は、世界中のメソッドを全部記録することッスからね。学園程度の規模で漏れがあるようじゃ、まだまだッス」
「ちゃんと目標があるんだね。うらやましいなあ。私なんて、お母さんからメソッドを貰っただけで、このメソッドで何をするかなんて、考えてもないから」
「僕もそうだよ。父さんから貰ってまだ日も浅いし。これからのことなんて、なんにも決まってないよ」
「そうなんだ。一緒だね、私たち」
そう言って、山吹さんは優しく微笑んだ。
簡単なもので、メソッドを手に入れてからの面倒事も、同じ境遇の人がいるというだけで、少しだけ見方が変わった気がした。
「ところで、ねえ、二人とも、この後ヒマ?」
「うん。暇だけど」
「暇ッスね」
即答する僕と九部くん。
放課後の教室に残って雑談をしている二人が、忙しいわけがないのである。
「せっかくこうしてお話できるようになったんだし、どこか遊びに行かない?」
「いいね。行こう行こう」
「どこ行くッスか?」
「ゲームセンターとか、どう?」
「ゲーセンかあ。僕あんまり行ったことないや。九部くんは?」
「右に同じッス」
「えー、絶対楽しいよ! 行こ行こ!」
山吹さんに押し切られる形で、僕たち三人はゲームセンターに行くことになった。
山吹さんは、さすがに自分から行こうというだけあって、ゲームが上手かった。
僕と九部くんは、そんなに上手くないけど、何もできないほどできないわけでもない、中途半端な感じ。
僕らは、暫くの間、ゲームに興じた。
「じゃあまた明日、学校でね」
「うん。また明日」
ゲーセンでの遊びを終えて、駅前で山吹さんと別れ、僕たち二人は帰路に着いた。
「楽しかったッスね」
「うん」
バトプラ学園に入学してから、一番充実した一日といっても、過言ではないかもしれない。
そんな満たされた気持ちに包まれて、僕は家に帰った。