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第3話 はじめて

 次の日。登校の時間にいつも通り九部くんに会った僕は、早速メソッドのことを話した。

「『全てが偽になる』。ふーむ、聞いたことないメソッドッスねー。ブール型の人間だけが使えるメソッドがあるという噂は聞いたことあるッスけど・・・。うん、面白いッスね」

「でしょ?」

「でも、良かったッスね。それだけ強力なメソッドを身につけられたのなら、もういじめられることもないッス」

「あ、そっか。確かにそうかも」

 九部くんに言われるまで気が回ってなかったけど、このメソッドを発現させていれば、どれだけ不良に殴る蹴るされてもどこ吹く風で、いじめられなくて済むかもしれない。

 学校に着いて、いつもの通り教室に入った僕は、いつもとは違い、メソッドを発現させていた。

「おうヒトケタ。パン買ってこいや。今日は金も出してやるからよ」

 席に着く間もなく、いつも僕をいじめている不良のはやしくんに買い出しを頼まれる。ささやかな優しさを見たが、僕は毅然とした態度で、拒絶の言葉を言い放つ。

「いやだ」

「あ?」

 自分の席にいた林くんが、ドアのところにいる僕のところまで歩いて近づいてきた。

「気のせいかぁ? なんか聞こえた気がすんだけどよぉ」

「いやだって言ったんだ。もうパシリはやらないよ」

 僕は、怖くてその場から逃げ出したい気持ちを必死に抑えて、林くんをまっすぐに見つめて、宣言した。

「随分威勢がいいじゃねえか、よっ!」

 語尾に合わせて、林くんの拳が僕に目がけて放たれた。

 だけど、その拳は僕の体に触れたところで動きを止めた。

「な、なんだ?」

 続けてパンチが一発、二発、蹴りが一発、二発と僕を襲うが、すべて最初の攻撃と同じように、意味のないものとしてその場に静止するだけで終わった。

「なんだこの気持ち悪い感触は? てめえ、何かしてやがるな?」

「僕はメソッドを手に入れたんだ。もう暴力には従わない」

 今度は震えずに、僕は林くんに言い放った。

「なんだ、この」

 林くんは、そんな僕を忌々しそうに睨んだが、先ほどの『全てが偽になる』の能力を思い出したのか、手を出してくることはなかった。

「もういいや。おい九部」

「な、なにッスか?」

「一ノ宮が使えないんじゃしょうがねえ。お前行ってこい」

 言うが早いか、林くんは手に持っていた小銭を九部くんに向かって投げつけた。

「ちょ、ちょっと待った」

 僕は慌てて、二人の間に入った。

「邪魔すんじゃねえよ」

「邪魔するよ。僕が駄目だったら次は九部くんなんて、そんなの見過ごせるわけないだろ」

「ごちゃごちゃ言いやがって、もう許せねえ。メソッドバトルだ!」

 林くんが号令をかけるのに合わせて、教室にいたみんなが机と椅子を端に寄せて、教室の中心に空間を作った。

「お前のメソッドがどういうものか知らねえが、まともにやったら勝負がつきそうにねえからな。ルール設定をするぜ」

 今更、メソッドバトルなんてやりたくないとは言えない空気だ。

 九部くんの様子を伺ってみたが、僕以上に状況が飲み込めていない顔をしている。

「制限時間を5分に設定する。こちらは俺一人、そっちはお前ら二人の変則チーム制だ」

 林くんの言葉が進んでいく。僕は聞き漏らさないように、言葉に集中する。

「負けたほうがパシリだ。いいな?」

 良いも悪いもないが、ここまで来て、逃げ出す選択肢はない。

「わかった」

「よし、開始だ!」

 こうして、メソッドを手に入れてから初めてのメソッドバトルが始まった。

 林くんは、今までの勢いのままに攻めて来るかと思いきや、冷静に距離をとっている。

「一ノ宮くん、気をつけるッス。林くんのメソッド『ためパンチ』は、力を溜める動作を続けただけ攻撃力が上がるメソッドッス。溜めの動作に要注意ッスよ!」

 ようやく状況が飲み込めたのか、九部くんが的確にアドバイスをくれた。

「それって、溜めている間は動けるの?」

「動けないッス。溜めを止めれば、そこまで溜めた力を保持したまま動けるッス」

「よし、それなら」

 制限時間付きのメソッドバトルは、制限時間内に決着がつかなかった場合、チーム内の残り体力の平均で勝敗が決まる。

 つまり、この場合、僕と九部くんは二人で合わせて100の体力が残っていることになる。僕はメソッドの力で攻撃は食らわないが、九部くんは攻撃されれば体力が減ってしまう。

 そこで、一つ作戦を考えた。

 林くんの攻撃を僕が一手に引き受けて、林くんの隙きを突いて一撃でも良いから九部くんが攻撃する。それができれば、制限時間が終わった時、残っている体力の差で僕らが勝てる。

「九部くん。どう? この作戦」

「いいッスね。それでいくッス」

「よし」

 僕たちは決意も新たに、目の前の林くんと対峙した。

 林くんは、僕らの作戦に気がついているのか、先ほどから一度も溜めの動作に入っていない。

「おらあ!」

 林くんが動いた。

 鋭く小さな動きで、九部くんを狙った攻撃を繰り出す。

「やらせない!」

 僕は二人の間に割って入り、九部くんへの攻撃を体で受け止める。

「えい」

 そしてその一瞬の隙きを突いて、九部くんが僕の脇をすり抜けるようにして、林くんに軽い一撃を見舞った。

 その一撃で、林くんの体力が少し減った。

「九部くんナイス!」

「溜め狙いだと決着がつかなさそうだったッスから、狙ってたッス」

 これで、僕たちは大きなアドバンテージを得た。

「やるじゃねえか」

 言うが早いか、林くんは溜めの姿勢に入った。

「こうなりゃ賭けだ。俺の最大出力の『ためパンチ』を、お前のその妙なメソッドが防げるかどうか、試してみようじゃねえか」

 林くんの少し後ろ手に引いた右腕に、風が渦巻いている。

 これが、力を溜めるということか。

 特に前知識のない僕にも、林くんの右手に対してエネルギーが凄まじく集まっているのがわかる。

「いくぞ! 歯ぁ食いしばれやぁ!」

 最大まで力が溜まった林くんが、動いた。

 誰の目から見ても明らかなエネルギーの塊が、僕に向かって一直線に走る。

「う、うわあ!」

 反射的に、僕は両腕で視界を覆い、その場に立ち尽くした。

 逃げ出そうにも、体が動いてくれなかった。

 そうこうしているうちに、林くんが僕に迫る。

 ・・・。

 長く感じたけど、たぶん一瞬の時間が過ぎ、僕は恐る恐る、視界を遮っていた両手を下げ前を見つめた。

 視界が開けたそこには、今にも僕に触れそうな距離で静止する、林くんの右手があった。

 どうやら、僕の『全てが偽になる』は、林くんの攻撃をしっかりと受け止めてくれたようだ。

「ちっ。これでも駄目かよ」

 静止した拳を動かし、ズボンの右ポケットにしまって、林くんは残念そうにつぶやく。

「もういい。降参だ。これ以上やったって意味はねえ」

 林くんが腕につけたライフメモリを操作し、降参の手続きをする。

 人生で初めてのメソッドバトルで、人生で初めての勝利が確定した瞬間だった。

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