第15話 学園最強
そして、卒業式の日。
つつがなく式が進み、部長達三年生が卒業証書を受け取るところを目にした後、全校生徒が校庭に集合した。
バトプラ学園名物、卒業メソッドバトルを行うためだ。
三年生およそ百人対一年生二年生連合およそ二百人の、大規模メソッドバトル。
それが、今から始まる。
制限時間は30分。三年生は赤色、一年二年は白色のゼッケンを身につける。
「メソッドバトル、始め!」
校長先生の号令で、全校生徒の人波が、盛大に動き始めた。
これだけの規模となると、もはや誰かを守るなんて動きもできない。
作戦も何もない。ぶつかり合いだ。
とりあえず、僕は九部くんと山吹さんを後方に残し、一人前線に向かう。
前線では、わかりやすく攻撃系なメソッド同士が能力を披露しあっていた。
その攻撃の波の中に踏み込み、流れ弾を一身に受けて回る。
スーパークラス『やがて真になる』で使うエネルギーを溜めるためだ。
ある程度エネルギーが溜まったら、赤ゼッケンの人に向かって放つ。
地味だけど、これが僕にできる最善の策だ。
「いた! 一ノ宮!」
「?」
急に呼び止められて振り返ると、そこには体育祭の時に戦った三年の先輩Cの姿があった。
「悪いけど、足止めさせてもらうよ。『パペット』!」
その三年の先輩Cがメソッドの名前を叫んだ瞬間、体全体が何かに触られたかのような違和感に襲われて、指先一つ動かせなくなった。
「体育祭じゃ披露できなかったけどね。私の『パペット』は相手に自分と同じ動きを強要するメソッド。このまま戦闘の外まで連れてってあげるよ」
三年の先輩Cが歩くと、自分も同じように歩かされる。
体が、人の手のようなもので何かに動かされている感覚。端的に言って、気持ち悪い。
でも、どうしよう。打開する策がない。
僕にダメージがないからか、『全てが偽になる』で無効化することもできないみたいだ。
そう思って、ぎくしゃく歩いていると。
「おらあ!」
三年の先輩C対して、豪快な飛び蹴りをかました人の影。
三年の先輩Cが吹っ飛び、その瞬間、僕は体の自由を取り戻した。
人影は、羽田くんだった。
「体育祭の時は世話んなったなあ先輩」
体育祭の時。一人で三年生と勝負しに行ったときのことだろうか。
「あん時は手も足も出なかったけどな。今なら違うぜ」
「『パペット』!」
羽田くんが、パペットの餌食になる。
「二人いるからどうにかなるって? そこの一ノ宮はエネルギーが溜まってなければ何もできないじゃない。それとも何、自分が犠牲になって逃がすために来たの?」
「そんなわけねえだろ。俺だってちょっとは考えてるっつーの」
羽田くんを追いかけて、この場にもう一人、人が来た。
「最大『ためパンチ』だおらあ!」
「林くん!」
林くんの拳が、三年の先輩Cにクリーンヒットする。
さらに追撃を受け、三年の先輩Cのライフメモリから体力ゼロの音が鳴った。
「あ、ありがとう林くん」
「つまんねえとこで足止め食ってんじゃねえよ。おら、行くぞ」
羽田くんと林くんと一緒に戦線に戻る。
かつてない心強さに包まれて、僕は戦いを進めた。
そして、僕はこの戦いの中心地に辿り着く。
その場所では、一分ごとに爆発が起きていた。
見れば、爆発の中心に体育祭の時に戦った三年の先輩Aの姿があった。
「番長のおでましだ」
羽田くんが、真剣な表情でつぶやく。
ウチの学校、番長いたんだ。と、素直な感想を抱く僕。
「メソッドも強いが、あの人はあの人自身がやたらと強え」
「そうなんだ。メソッドは、どんなメソッドなの?」
「メソッド『フルドライブ』。一分間チャージを行うと、手足の先を爆発させることができるようになるメソッドだ。爆発を叩きつけて攻撃したり、足の先で爆発させた反動で大きく移動したりできる。とにかく爆発だ」
とにかく爆発か。
僕は、なんとなくそのとにかく爆発という響きが面白くなってしまい、笑いかけたが、そんな状況ではないことに気づき、身を引き締めた。
「あと、桁数は100だ」
「100!?」
世界中探しても数人しかいないと言われている桁数三桁の持ち主が、あの三年の先輩A改め番長だというのか。
話を聞く限りでは、まともにやったら勝ち目がなさそうな相手だ。
まともにやったら、だけど。
僕は、番長が起こす爆発で吹っ飛ぶ人を横目に、その爆発の発信地に向かって何気なく歩いていく。
僕の『全てが偽になる』なら、番長の攻撃も爆発も、なんのそのだ。
「一ノ宮か。お前とまともに戦うことになるとはな」
「僕は戦うというより、足止めするつもりできました」
僕が相手と解れば攻撃の手は止めるだろうし、そうしたら僕は攻撃手段がない、けど、その膠着状態を続けることで、この人をこの場に縫い留める。
戦況全体を見た時に、その効果は大きいはずだ。
「そうだろうな。俺が攻撃をしなければ、とお前は思っているはずだ」
「はい」
「だが、それは俺をちょっとなめてかかりすぎだ」
「え?」
「俺の『フルドライブ』は、普段は力を制限しているんだ。全ての力を解き放った最大規模の爆発に、果たしてお前は耐えられるかな」
「え? え?」
番長は、そう言うと、チャージの姿勢を取った。
番長の手足を覆うように、エネルギーの渦が回転を始める。
回転は徐々に速度を増していき、番長の表情もまた、それに合わせて険しいものになっていく。
ちょっと待って、怖いんだけど。
『全てが偽になる』には全幅の信頼を置いているけど、迷いが生まれる。
確かに、今までは吸収してこれたけど、吸収できる一回の量に限界がある可能性はある。
それこそ、体力100から一気にゼロにする攻撃があったとしたら?
それは、受け止められるかわからない。
というか、たぶん受け止められない。
そして、幾ばくかの時が過ぎ。
番長が、チャージを完了した。
「用意は良いか、一ノ宮」
今更逃げますとも言えない雰囲気。
「は、はい」
僕は、覚悟を決めた。
「この能力を使うのは、本当に久しぶりだ」
なんでもいいから早くやってください。
「行くぞ! 『フルドライブ・フルチャージ』!」
番長の突き出した拳が僕に触れる。
その瞬間、爆発的なエネルギーの渦が、僕を襲う。
いつもなら、無効化した衝撃は、無効化したこともわからないくらい、僕に対しては何ともないのに、番長の攻撃は違った。
莫大なエネルギーが、流れ込んでくるのがわかる。
このエネルギーに、『全てが偽になる』は、耐えられるのか?
その決着は、一瞬だった。
結論から言ってしまうと、『全てが偽になる』は番長の攻撃を全て受け止め、僕は微動だにせずその場に立ち尽くしていた。
「俺の全力でも駄目なのか。その能力、羨ましいな」
「すいません」
「やってくれ。悔いはない」
僕は、番長に向けて『全てが偽になる・やがて真になる』を発動した。
自分で放った衝撃波をそのままその身に受ける番長。
番長のライフメモリの体力がゼロになり、それは同時に、卒業メソッドバトルの勝敗が決した瞬間でもあった。
その後、ヒーローインタビューなどの一連の流れがあって、卒業式は終わった。
春休みがあり、新学期。
一年生の一年間は、正に激動と言って良い一年間だった。
これからの一年間は、せめてもう少し落ち着いたものになると良いな。
そんな風に思いながら、僕は新たなステージへの一歩を踏み出したのであった。




