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第13話 素晴らしい日々

 期末試験の日。

 僕は、新しく身に着けたスーパークラス『やがて真になる』のおかげで連勝街道を驀進した。

 この模様は、単純すぎるので割愛。


 冬休みに入って、12月24日。クリスマスイブの日。

 僕は、山吹さんと、自宅から数駅先の駅にあるデパートに来ていた。

 明日、部室で行われるクリスマスパーティーの、プレゼント交換会で出すプレゼントを選ぶためだ。

 最初は九部くんと来るつもりだったけど、山吹さんのほうがセンスが良いと言われ、確かに、と納得した僕は、山吹さんに助力をお願いした。

 せっかくの交換会なのに、同じ参加者に手伝ってもらうのか、という声が聞こえてきそうだけど、許してほしい。

 そのくらい切羽詰まるほど、何も思い浮かばなかったんだ。

「どうしたの?」

「あ、ごめん。なんでもないよ」

 二人でいるのに、ボーッと考えことをしてしまっていた僕は、慌てて山吹さんに向き直る。

「予算千円から、高くても三千円くらいで買えると嬉しいんだけど」

 バイトもしていない高校生のこづかいなんて、たかが知れてるのである。

「千円から三千円ね。オッケー、任せて」

 頼もしい。

 その後、山吹さんのおすすめの店を何件か周り、僕はクリスマスプレゼントを選んだ。

 そのどれもが予算内かつセンスの良いものばかりで、山吹さんにお願いして大正解だと思った。

「うーん」

「どれにするか、決まった?」

「いろいろ見せてもらった後で申し訳ないんだけど、やっぱり最初のお店で見たスノードームにしようかな」

「最初の店ね。うん、良いと思う」

 僕らは、最初の店に戻り、買い物を済ませた。

「どんなプレゼントが当たるのかドキドキする楽しみが一つ減っちゃったけど、こうやって二人でプレゼントを選ぶのって、楽しいね」

「うん。今日はありがとう。山吹さん、この後ヒマ? 買い物で思ったよりお金を使わなかったから、今日のお礼に食事くらいなら奢れるけど」

「あ、じゃあ、ちょうどこの近くのクレープ屋さんの新作が気になってたから、それを奢ってもらっても良い?」

「お安い御用だよ」

 山吹さんご指定のクレープ屋さんは、人気なのか、結構な行列ができていた。

 僕らは、最後尾に並んだ。

「ふふ。楽しみ」

 本当に楽しそうな山吹さん。余程、甘いものが好きなんだろうなというのが、伝わってくる。

 かくいう僕も、甘いものは好きだ。

 山吹さんと他愛もない話をしながら、僕らの番を待つ。

 30分くらい経って、ようやく僕らの番が来た。

「私、ストロベリーレアチーズケーキで」

「僕は、バナナチョコクリーム」

 注文して数分後。僕らの頼んだクレープを受け取った。

 店内の椅子は埋まっていたので、僕らは店を出て、軒先で立って食べることにした。

「わー、おいしーい」

「ホントだ。ここのクレープ、美味しいね」

 普段コンビニなんかで買うお手軽スイーツとは一線を画す食感と味。

 僕なんかの表現力じゃ表現できないくらい美味しい。

「こっち、一口食べてみる?」

「え? あ、いや」

 それは、間接キスというやつになるのでは。

 山吹さんは、全然気にしてない風だ。

 僕ばっかりドギマギするのも、おかしいだろうか。

「早く、クリーム垂れちゃう」

 僕は意を決して、山吹さんの持つクレープにかじりついた。

 一口分食いちぎり、咀嚼する。

 正直、山吹さんのことが気になっていて、味どころではなかった。

「うん。美味しい」

 なんとか、言葉を絞り出す。

「そっちも一口ちょーだい?」

 これはなんのイベントだ?

 口を開けた山吹さんが、僕の次の行動を待っている。

 僕は、震える手で、山吹さんの口へ自分のクレープを運ぶ。

 一口、食べられるのを、ただ見つめる。

「これも美味しいね」

「う、うん」

 恋愛経験のない僕には、刺激的すぎるイベントが、こうして終わった。


 次の日。僕らは部室に集まった。

「メリークリスマース!」

 ノンアルコールで乾杯。

 自主性を重んじるという方針で、普段の活動は放任で一切顔を出さない顧問の内田うちだ先生も、部室の鍵を開けたついでに、乾杯だけ参加した。

 テーブルの上には各自持ち寄ったお菓子が並んでいる。

 それと、この季節限定の飲み物があるだけで、見慣れた部室が一気にクリスマスムードになる。

 雰囲気って大事。僕はそう思った。

 やっていることは、部室に集まっての雑談だから、普段と変わらないはずなのに。

 そんなことを思いながら飲み物を飲んでいると、あっという間に時間が過ぎ、プレゼント交換の時間になった。

「よし、お待ちかねのプレゼント交換と行こうじゃないか。みんな、この箱にプレゼントを入れてくれ」

 そういって、部長はやたらとでかい段ボール箱を取り出した。部室が埋まる勢いのそれは、中にプレゼントが入るように大きな穴が開いている。

 こんなサイズじゃないと入らないようなプレゼントを持ってきた人なんているだろうか。

 そんなことを思いながら、用意していたプレゼントを箱に入れる。

 僕に続き、みんながプレゼントを入れ終わったところで、部長が号令をかけた。

「よし、では各自このくじを引いてくれ。数字が書いてあるから、少ない数の人から順にプレゼントを取ってくれ」

 僕らは、部長の手にあるくじを取り、番号を確認する。

 僕は3番だ。

「あっ。ボク1番だったッス」

「よし、じゃあ九部くんからだ」

 九部くんが箱に手を入れる。

「うーん? よし、これにするッス」

 九部くんの手が、プレゼントを掴み、箱から出る。

「あ、そ、それ。ぼくの」

 どうやら松本くんのプレゼントを引いたらしい。

「開けていいッスか?」

「いや、開けるのは家に帰ってからというのはどうだろう。そのほうが楽しみが長く続くからな」

 みんなが、なるほど、といった表情で部長を見る。

 その後、2番の桜井先輩が僕のプレゼントを引き、僕の番。

 おそるおそる、箱に手を入れる。

 箱の中には、普通くらいの大きさの物が二つと、妙に大きいものと、妙に小さいものがある。

 さて、どれを取るか。

 妙に大きいものは、たぶんこんな箱を用意したくらいだから、部長のだろう。これはなんか怖いから止めておこう。

 普通サイズの二つから選ぶか? いや、ここは少し冒険して一番小さいやつを取ってみよう。

 ということで、僕は妙に小さいプレゼントを手に取った。

「あ、それ私の」

 山吹さんのだったらしい。当たりだ。

 次は部長。桜井先輩のプレゼントを引いた。

 その次は松本くん。九部くんのプレゼント。

 最後は山吹さん。案の定最後まで残っていた部長の、妙に大きいプレゼントを引いた。引いたというか、押し付けられた。

 プレゼント交換も終わり、クリスマス会はお開きとなった。

 僕は家に帰り、早速プレゼントを開けてみた。

 そこに入っていたのは、一対のイヤリング。

 センスの良さが光るプレゼントだけど、僕がするのは、ためらわれる。

 とはいっても、貰っておいてしまっておくのももったいない気がする。

 何か台を買ってきて、観賞用にさせてもらおうかな。

 僕はそんなことを考えながら、山吹さんのプレゼントが当たったという事実を反芻していた。


 大晦日の夜。僕らは初詣のために学校の近所の神社に集合した。

 集合してそのまま、参拝者の列に並ぶ。

「しかし、寒いな」

「部長。薄着過ぎませんか? 何かマフラーとかつけないと」

「家の近くは、この格好でも大丈夫だったんだが」

「あ、甘酒配ってますよ」

 山吹さんの声に反応してテントの方を見ると、確かに、湯気が出ている鍋から甘酒をすくい上げて配る人の姿が見えた。

「取ってきましょうか。一ノ宮くん、九部くん、手伝ってくれる?」

「うん」

「お安い御用ッス」

 僕らは列を離れ、テントの方に向かった。

「すいませーん。六つください」

「はーい」

 紙のコップに、温かな甘酒が注がれる。

 僕らはそれを両手に持ち、列に戻った。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 みんな、配られた甘酒をすぐには飲まず、手で温もりを感じていた。

 部長だけじゃなく、みんな寒かったらしい。

 手が暖かくなってきたところで、一口飲む。

 暖かさが、喉を通り、胃に落ち、全身に広がっていく。

 甘酒って、こんなに温まる飲み物だったんだ。

「みんな飲みましたか? コップを貸してください。捨ててきます」

 桜井先輩の申し出で、僕らは桜井先輩の持つコップに自分のコップを重ねた。

 桜井先輩が列を離れ、ゴミ箱のところまで行き、戻ってくる。

 気がつけば、もう参拝の列の先頭に来ていた。

 僕は、賽銭を投げ入れ、鐘を鳴らし、手を合わせ目を閉じる。

 この一年。色々なことがあった。

 来年は、どんな一年になるだろう。

 そんなことを考えながら、僕は、来年も良い一年になりますようにと、願いを込めた。

 参拝を終えた僕は、参拝者の列を少し離れたところで、他のみんなを待つ。

「何お願いしたの?」

 同じく参拝者の列を抜けてきた山吹さんに聞かれ、僕は来年一年の無病息災を、と答えた。

「ふーん。なんだか、堅実だね」

「山吹さんは? 何か願い事したの?」

「え? ふふ、秘密」

「えー」

 人には聞いておいて自分は秘密だなんて。

 そう思ったけど、よくよく考えたらお願い事なんて、他人に知られたくないこともあるよな、と直ぐに思い直した。

「みんな、参拝は終わったかな。よし、おみくじを引こう」

 部長の号令で、僕らはおみくじを引いた。

「よし、大吉」

「大吉です」

 先輩二人は、大吉。まあ、お正月のおみくじなんて、大吉以外は抜かれてるって聞くし、この結果も当然―――。

「きょ、凶」

 当然じゃなかった。

「凶!? すごいね、松本くん」

 逆に希少価値が高い。

「ぼ、ぼくがおみくじをひ、引くと、いつも凶なんだ」

 松本くんが凶を引いたことで、どうせ大吉が出るだろうと弛緩していた場に、一気に緊張感が漂う。

「小吉ッス。まあ、凶よりはいいッスかね」

「吉だって。可もなく不可もなかったみたい」

 最後は僕の番。

 僕は慎重に、手元の紙を開いた。

「やった! 大吉!」

 何が出るかわからない状況下での大吉。これは嬉しい。

「一ノ宮くん、持ってるッスね」

「うん。大吉なんて、すごいね」

「ありがとう」

 僕らは、引いたおみくじを結び所に結んだ。

「よし。帰ろうか」

 こうして、僕らは初詣を終えた。

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