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第10話 覚醒

 夏休みが終わり、目前の行事は、9月末にある体育祭。

 バトプラ学園の体育祭は、競技の種類自体は他の学校と大差がないけど、競技中のメソッドの使用が許可されている点が、他と大きく異なる。

 各競技の点数は学年対抗で集計され、総合点を元に勝敗が決まる方式なので、同じ学年は競っていても味方同士となる。

 そこへきて、最大の加点が行われるのが、目玉と言って良い最後のプログラム、学年対抗メソッドバトルだ。

 各学年それぞれ3人ずつのチームを作り、バトルロイヤル形式で対戦する。

 今日は、その選手決めの会議の日。

 各学年ともに3クラスあるので、それぞれのクラスから1名代表者を出して、それで3人のチームを作るのが通例らしい。

「それじゃ、僕たちのクラスの代表者だけど」

 学級委員長が、壇上で会議を回す。

「一ノ宮くんということで、どうだろう」

 そして、なんだかあっさり、僕が候補になった。

「僕? もっと、林くんとか、攻撃力が高い人のほうが良いと思うんだけど」

「他のクラスもその考えで選出してきた場合、防御面が疎かになってしまう。その点、一ノ宮くんは一人いるだけで防御面の不安を消せるから、適任だと思う」

 一家に一台、みたいな理論だ。

 その後、特に反対意見も出ず、1組の代表者は僕に決まった。


 後日、各代表者の顔合わせの日。

 2組の代表者は、予想通り羽田くんだった。3組の代表者は、あまり馴染みのない人で、僕らは戦力の把握も含めて、お互いに自己紹介することにした。

「1組の一ノ宮圭大、です。型はブール。桁は1。メソッドは『全てが偽になる』。自分に向けられた攻撃を全て無効化できるから、盾役は任せて」

「2組の羽田だ。型はイント。桁は50。メソッドは『喧嘩上等』。攻撃を食らえば食らうほど自分の攻撃力が上がって、その上がった攻撃力を手や足に乗せて利用できる。よろしくな」

「俺は3組の高倉たかくら 浩二こうじだ。よろしく。型はイント。桁は40。メソッドは『アイスクライマー』。両手から氷を出せる能力だ」

「氷を出せる?」

「なんかパッとしない能力だな」

「まあそういうなよ。これでなかなか、汎用性が高くて使える能力なんだ。例えば、ほれ」

 高倉くんが羽田くんの足に向けて手を向けると、手の先から氷が伸びて、羽田くんの足に命中した途端、羽田くんの足を氷が包みこみ、ガチガチに固めてしまった。

「うお。なんだこれ。動かねえぞ」

「ほらな。他にも、つららを作って、それを相手に向かって投げるみたいなこともできる。飛び道具だな」

 これは確かに、汎用性が高そうだ。

「ずっと固めておけるの?」

「最長5分だ。俺が出す氷は5分すると、自然に消滅する。普通の氷と同じで、強い力が加われば割れるから、いつまでも動かないようにするっていうのは、難しいな」

「へー、どれどれ」

 話を聞いた羽田くんが、足に力を入れてみたり、氷の隙間に手をねじ込んで引っ張ったりしたら、羽田くんの足を固めていた氷は剥がれ落ちた。

「なるほどな。まあ牽制に使えるくらいか」

「ああ。どの能力にもいえることかもしれないが、要は使い所だ」

「飛び道具になるのは良いね。僕が守る後ろから一方的に攻撃できるよ」

「ああ、そうだった。一ノ宮、それなんだけどよ」

「え?」

「俺のメソッドは、守られてたら意味がないメソッドだからよ」

「確かにそうだな」

「そこで作戦なんだけどよ。試合が開始したら、二手に分かれるっていうのはどうだ?」

「二手に?」

「ああ、お前ら二人は、まず二人で二年のところに向かって、3人倒す。その間、横からちゃちゃ入れられないように、俺が一人で三年を止める。どうだ?」

「確かに。二年生と三年生に同時に攻めてこられたら、僕も守りきれないかもしれない。けど、一人で大丈夫?」

「なめんなよ。俺一人で三人倒してやるよ」

 大言壮語に聞こえる言葉も、羽田くんの溢れる自信にかかれば、できるかもしれないと思えてしまう。

「作戦は決まりだな」

「うん。じゃあ、当日はよろしく」

「おう」


 そして、体育祭が始まる。

 体育祭は、有利なメソッドの存在が明暗を分ける競技が多く見られた。

 例えば、玉入れは、期末試験で戦った1年2組の佐藤くんと鈴木さんのコンビのメソッドが凄まじい活躍を見せた。

 佐藤くんが『伸びる腕』をカゴの上に伸ばして、その腕に、鈴木さんが『この手にする』で玉を持たせ、次々カゴに入れていくという、正しくチートな戦術で、圧勝だった。

 そんな具合に、他の競技も適格な能力者がいるクラスが圧勝するシーンが多く見られた。

 そして、各学年の点数差が開かないまま、最後のプログラムに駒が進む。

「作戦通り行くぜ」

「うん」

「やってやりますか」

 出場者の気合は十分。

 3つの学年の代表者が、校庭の端っこに、それぞれ待機する。

「メソッドバトル、始めてください!」

 放送席からの合図で、試合が始まった。

 『全てが偽になる』のスイッチも、同時にオンにする。

 僕らは、作戦通り、羽田くんを三年生に向かわせて、二年生の方を叩きに行く。

 二年生の三人も三年生の三人も、その場を動かず、様子を見ているようだ。

 特に何の問題もなく、僕と高倉くんは、二年生三人と対峙する。

「九部くん。あの人達の能力って」

「九部?」

 後ろに向かって話しかけても、そこに九部くんがいるはずもなく、困惑した表情の高倉くんがいるだけだった。

 僕は、反射的に取った行動に、自分でも驚く。

 今までのメソッドバトルでは、九部くんに相手の能力を確認してから戦うというのが定石だった。

 だけど今、ここに九部くんはいない。

 つまり、相手の能力がわからない。

 考えてみれば、それは当たり前のことで。

 僕は、今までどれだけの恩恵を受けていたのか、ここで初めて理解して、同時に慌てた。

 相手は三人。それぞれがどういう能力かもわからない?

 いや、冷静になってみると、三人の内一人は見覚えがあった。

 確か、春に羽田くんと校庭で戦ってた先輩だ。確か、能力は『フィンガーファイア』。飛び道具のメソッドだ。

 二年の先輩三人―――便宜上ABCとする―――の、一人だけでも能力が判明したのは大きい。

 『フィンガーファイア』の先輩Aの動作には注意を払う。離れたところからでも、いつ攻撃が飛んでくるかわからないからだ。

 絶妙な距離を保って対峙する三人対二人。

 先に動いたのは、二年生の三人だった。

 先輩Aが『フィンガーファイア』を飛ばしてくる。

 これは、問題なく防いだ。

「高倉くん。反撃!」

「おうよ!」

 僕の後ろから、氷の玉を作っては、相手目がけて放つ高倉くん。

 遠くにいる先輩AとBには当たらないが、こちらに近づいてきてた先輩Cには直撃する。

 でも、先輩Cの体力は全く減らず、代わりに先輩Bの体力が減っていく。

「防御系のメソッドか。どうやら、向こうはこっちと同じような作戦みたいだな」

 先輩Bのメソッドは、ダメージを肩代わりするメソッドということか。

 そうこうしているうちに、先輩Cが手の届く距離まで接近する。

 どんな攻撃でも、僕の『全てが偽になる』なら、無効化できるはず。

 そう確信して、先輩Cの伸ばしてきた手に触れた、その瞬間。

 僕は、空を見ていた。

 な、何が起きたんだ?

 僕は慌てて体を起こすと、そこには体力がゼロになった高倉くんと、先程までと同じダメージの二年の先輩ABCがいた。

「起きたか。一ノ宮」

「高倉くん」

「どうやら、眠らされてたみたいだ」

 眠らされる。それが先輩Cの能力、ということだろうか。

 まんまと眠らされて防御が疎かになったところを、攻め込まれたということか。

 僕の『全てが偽になる』。害あるものに反応して無効化するメソッドだけど、ダメージがないメソッドの攻撃は通してしまうのか。

 今まで盤石だったメソッドに対する信頼が、少し揺らいだ。

「俺はやられちまったが、お前はまだやれる。なんとか頑張れよ」

 激励の言葉を残して、高倉くんが退場者の控え場所に向かう。

 そうだ。寝ている間も『全てが偽になる』が発動していたおかげで、ダメージは受けてない。

 これならまだやれる。のか?

 攻撃手段のない僕に、どれだけのことができるのだろうか。

 思案している僕は放っておいて、二年生の三人は三年生の方に向かった。

 僕も、その後を追うかのように二年生と三年生が戦い合う場に向けて、歩き出した。

 見れば、羽田くんの姿がない。控え場所に目を向けると、高倉くんと一緒になってこちらを応援している羽田くんの姿があった。

 このまま、二年生と三年生の戦いで二組の平均体力が33以下になってくれれば、それで僕らの勝ちになる。

 そんな甘い考えが浮かんだが、その考えはすぐに打ち消された。

 三年生が、体力を多く残したまま二年生を倒したからだ。

 こうなっては、僕が、やるしかない。でも、どうやって?

 今こそ僕のスーパークラスが開眼してー、なんて、都合の良い展開あるだろうか。

 いや、そうじゃない。

 自分で決めつけちゃ駄目だ。

 都合の良い展開、大いに結構。

 僕は、ここで覚醒する。

 強い気持ちを持って、僕は三年生三人のところに向かった。

「お前が、一ノ宮か」

 三年の先輩Aが、口を開く。

「目が死んでいないな。ここからまだ挽回する手があるのか?」

「わかりません」

 実直な受け答え。

「でも、あればいいなと、思います」

「そうか」

 三年生の三人は、僕に攻撃をしかけてくることはなかった。

 僕の方はというと、攻撃を繰り出す手段を模索していた。

 何か、できないか。

 考え抜いたその時、一つのアイデアが閃いた。

 閃きのきっかけになったのは、山吹さんのスーパークラスだ。

 治した体力を溜め込んで、攻撃に利用する。

 僕のメソッドでも、似たようなことができないだろうか。

 今までに受けた攻撃を使って、何かを。

 僕は、かつてないほど真剣に、自分の中の能力と向き合った。

 大事なのは、想像力だ。

 そして、見つけた。

 予想通り、僕のメソッドは、受けた攻撃をどこかへ消し飛ばす能力ではなかった。

 はっきりと、エネルギーの塊のようなものを、自分の中に感じる。

 消し飛ばすのではなく、吸収して溜め込む。

 それが、僕の『全てが偽になる』だったんだ。

 それさえわかれば、後は、このエネルギーを利用する方法を見つけるだけだ。

 エネルギー。指向性を持たせる。解き放つ。

 僕は、三年生の三人が立っている方向に向けて、手の平を向けた。

「行くぞ」

 溜め込んだエネルギーを、手の平に集め、一気に外に出す!

「食らえ!」

 その瞬間。とてつもない衝撃波の波が、僕の手の平から三人に向けて放たれた。

「何!?」

 突然のことになすすべもなく、三人は衝撃に飲まれる。

 そして、三人のライフメモリから、体力がゼロになったことを示す音が鳴った。

「『全てが偽になる』」

 僕は、僕の新しい力に、名前をつける。

「『やがて真になる』」

 学年対抗メソッドバトルは、一年生の勝利に終わった。そして、それは同時に、総合優勝も一年生になったことを意味する。

 学年対抗メソッドバトルを終えて、自分のクラスに戻ってきた僕を、みんなが祝福し、喜んでくれた。

「すごいッス。一ノ宮くん。土壇場でスーパークラスを閃いたッスね」

「うんうん。格好良かった」

「ありがとう、九部くん山吹さん。特に山吹さん。山吹さんのおかげで勝てたようなものだからね」

「私の?」

「うん」

 不思議そうな顔をする山吹さん。

 そんな彼女を尻目に、僕はクラスのみんなと勝利を分かち合った。

 そして、体育祭が終わる。

 秋も深くなり、次の大きな行事は、二ヶ月後の文化祭だ。

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