夜道に魔法少女が行き倒れていたので助けようとしたら、いきなり押し倒されたんですけど
俺はブラック企業で働く社畜である。
最低賃金同然の安月給で、毎日夜遅くまで働く現代の奴隷──はさすがに言い過ぎかもしれないが。
まあとにかく、俺は明るい未来みたいなものとはどうにも縁のない、うだつの上がらない毎日を送っていた。
それでも俺はまあまあ真面目なので、それなりに頑張って働いてしまう。
今日も夜遅くまで働いて、家に帰る──その途中で起こった出来事だった。
夜の住宅街。
最寄りの駅を出て、もうすぐ我が家に着こうという頃。
ほかにひと気のない夜道を歩いていると、行く先の横道からふらりと、一人の少女が姿を現した。
奇抜な格好をした少女だった。
一昔前のアイドルのような、フリルたっぷりの衣装。
年の頃は中学生ぐらいに見えるが──
「ダメ……もう……魔力、が……」
その少女は、俺が見ている前で、力尽きたようにばたりと倒れた。
そのままぴくりとも動かなくなる。
「……おいおい」
周囲を見回しても、俺以外に人の姿はない。
無視をするわけにもいかないだろう。
俺はおそるおそる、少女のもとに歩み寄った。
「おい、大丈夫か? 救急車呼ぶか?」
「…………」
声をかけるが、返事はない。
というか、依然ぴくりとも動かない。
ひょっとして、死んだ……?
俺はひとまず揺さぶってみようと、奇天烈な格好をした少女の肩をつかんだ。
「んんんっ……!」
びくんっと、少女の体が跳ねた。
俺は慌てて手を引っ込める。
「な、なんだ……? 今の反応……」
「はぁっ……はぁっ……」
見れば少女は頬を赤らめながら、荒く息をついていた。
ぴくりとも動かなかった先ほどまでよりは、マシになったと見るべきだろうか。
「お、おーい、大丈夫か?」
ぺちぺちと頬を叩いてみる。
すると──
カッと、少女の目が見開かれた。
かと思うと、次の瞬間には少女は起き上がって、俺につかみかかってきた。
「は……?」
完全に予想外の展開である。
しかも少女の力は驚くほど強く、俺はその子の手であっという間に地面に押し倒されてしまった。
俺に馬乗りになった少女は、その目をギラギラと輝かせて俺を見つめてくる。
「はぁーっ……はぁーっ……魔力~……魔力ぅ~……」
怖い。
すげぇ怖い。
いや、めちゃくちゃ美少女なんだけど、目が怖いし表情が怖い。
今にも獲物を食いちぎらんとする獰猛な野獣のような顔。
人生終わったと思った。
何だか分からないけど、俺はこの奇怪な美少女に食い殺されて人生最後のときを迎えるのだと覚悟した。
少女の顔が、俺の顔に近づいてきて──
「んむぅっ……!?」
チューされた。
唇ぷにっとしてて柔らかっ、とか、そんなこと思っている場合じゃない。
何これ、逆ナントカ?
俺の身に何が起こっているの?
自慢じゃないがこの社畜、彼女いない歴イコール年齢の二十四歳である。
女子とチューしたことなど人生で一度もない。
「……ん?」
やがて疑問の声を上げたのは、少女のほうだった。
野獣のようだった少女の瞳に、理性の光らしきものが宿り始める。
目をぱちくりさせる少女。
その頬が急速に真っ赤に染まった。
「んなっ……!?」
少女は慌てて唇を離して、俺から離れるように跳び退った。
目の錯覚か、ひとっ跳びで何メートルも離れたように見えた。
「うそ……ファーストキスだったのに、こんなの……」
少女はそうつぶやき、うっすら瞳に涙を浮かべながら、手で唇をごしごしと拭っている。
何だか分からないが、それは俺に大変失礼なのでは?
だが人生の終わりは避けられたのかもしれない。
奇天烈少女に物理マウントを取られた状態から脱した俺は、のそのそと立ち上がった。
少女を見れば、彼女は気まずそうに俺から視線を逸らしていた。
俺は言葉がまとまらないままに、少女に声をかける。
「あー、えーっと……」
「じ、事故です! 今のは、いわゆる一つの事故ですから!」
「お、おう」
少女から、よく分からない主張が飛んできた。
とりあえず分かるのは、どうやら向こうも混乱しているらしいということ。
俺と少女は、夜道でじっと睨み合う。
街灯の光だけが、暗闇の中に明かりを落としていた。
互いに相手の出方を見るような、緊迫した時間が過ぎ──
やがて少女は、少しためらうような素振りを見せてから、俺に向かってこう言ってきた。
「あ、あの……! 無理は承知でお願いがあります。今夜、あなたの家に泊めてもらえませんか?」
「は……?」
俺があっけにとられたのは、当然のことだったと思う。
***
しばらくの後、俺と少女は一軒のボロアパートの前にいた。
いろいろとすったもんだありつつも、結局俺は、彼女をうちに連れていくことにしたのだ。
俺が住んでいるのは、最寄り駅から徒歩十五分の場所にある二階建てのボロアパートだ。
二階に上がって鍵を取り出し、二〇三号室の扉を開ける。
「ほら、ここだ。汚いけど我慢しろよ」
「お、お邪魔します……」
少女がおずおずと、俺の部屋に入る。
フリルたっぷりのアイドル衣装らしきものを着た中学生ぐらいに見える女子が、こんな夜中に、冴えない独身サラリーマンの部屋に連れ込まれている。
この場面を見ていた人がいれば、高確率で事案を疑うことだろう。
部屋の明かりをつける。
安月給の男が一人暮らしをしている部屋だ。
ワンルームの狭い部屋で、ろくな家具もない。
俺はお茶を淹れるためポットで湯を沸かしつつ、少女には一つしかない椅子に座るよう促す。
少女はぺこりと頭を下げると、おとなしく椅子に腰かけた。
俺は急須に茶葉を入れつつ、少女に問いかける。
「さて、すでにひととおり話は聞いた気はするけど、もう一度確認させてくれ」
「はい」
「キミは、異世界から来た魔法使いである──だったな?」
「はい。いろいろと補足すべきことはありますけど、こちらの世界の人なら、ひとまずはその認識で大丈夫だと思います」
少女はアイスブルーの瞳で俺を見つめ、そう答えた。
ちなみに髪も似たような色だ。
初見では衣装ばかりに意識が向いたけど、冷静に考えればこっちも普通じゃない。
それはさておき。
本題は彼女の外見ではなく、もっと根っこの部分──「彼女が何者であるか」だ。
彼女は自らを「異世界」から来た「魔法使い」だと称した。
外見は「魔法少女」とでも呼んだほうがしっくり来るが、そこは重要ではないのでひとまず置いておく。
ちなみに彼女の言語は、魔法によって自動翻訳されているらしい。
俺は湯が沸くのを待ちがてら、彼女のほうを向いて話を続ける。
「で、キミは元いた世界から、とある犯罪者を追いかけて俺たちの世界まで来た」
「はい」
「その犯罪者はどうにか退治できたけど、そいつとの戦いで『魔力』を消耗しすぎたキミは、元の世界に帰れなくなった。帰るためには一定量まで魔力を回復させて、所定の場所で異世界へのゲートを開く魔法を使う必要がある──ここまでは合ってる?」
「はい、大丈夫です」
少女はこくんとうなずいた。
そこでお湯が沸いたので、俺は二つの湯飲みにお湯を注ぎ、少し冷ましてからそれらを急須に移し入れる。
──どうも彼女は、「魔法犯罪捜査官」と呼ばれる、特殊な治安維持組織の一員らしい。
魔法を使った重大犯罪に関して単独で捜査する権限を持つと同時に、犯罪者の独断での逮捕、それどころか「退治」まで認められているという。
野蛮とも思えるが、そのあたりは彼女の世界なりの事情もあるのだろう。
彼女は元いた世界でとある魔法犯罪者を追いかけていたが、あと一歩のところで異世界に逃げられ、そのあとを追いかけた。
そしてたどり着いたのが俺たちの世界だった──と、彼女はそう語った。
ちなみに、俺がこんなファンタジーな話を手放しに信じているのは、もうどうとでもなれという気持ちからである。
これは夢かな?
まあこの際、夢でも現実でもいいから、なるようになれ──そんな感じだ。
そんな投げやりな気持ちだから、こんなファンタジー美少女に俺の家に泊めてほしいと頼まれても、はいはいオーケーオーケーとなったわけである。
でも一応、最低限の常識は守りたい所存。
もうどこから最低限か分からなくなってきているところはあるが。
「で、俺にいきなり襲い掛かった理由が──何だっけ?」
俺が急須から湯飲みに茶を注ぎながら聞くと、少女はびくっと震えた。
何とも言えない顔で、額からだらだらと汗を流しはじめる。
「え、えっと……それは、ですね……だから……自衛的に、と申しますか……魔力飢餓状態で、頭がぼーっとしていて、我を忘れてしまっていたといいますか……」
しどろもどろに説明しながら、目を泳がせる少女。
一応、悪いことをしたという自覚はあるようだ。
「つまり、飢え死にしそうでふらふらなときに、無意識的に店先の食べ物を盗って食べてしまうみたいな?」
「そ、そう! それです!」
我が意を得たりとばかりに、びしっと俺を指さしてくる少女。
俺はジト目を彼女に向ける。
「ふーん。で、俺の魔力はおいしかった?」
「……おいしかったです」
申し訳なさそうに言いつつも、ごくりと少女の喉が鳴った。
どうやらまだ食べ足りないらしい。
彼女の言い分はこうだ。
魔力──彼女らの力の源──が枯渇しそうなほど消耗したとき、彼女たち「魔法界」の人間は「魔力飢餓状態」に陥るという。
その状態では、体はまともな活動力を失い、頭は熱に浮かされたようにぼーっとする。
魔力が完全に枯渇すると、命にもかかわる事態となる。
彼女ら魔法界の人間にとって、魔力とは力であり、生命維持の源でもある。
ところがこちらの──俺たちの世界は、大気中に含まれる魔力の量がきわめて希薄なのだという。
魔法界にいれば自然に回復していく魔力も、こっちの世界ではほぼ回復なし。
それどころか著しく消耗した状態では、重病人が生命力を失っていくのと同じように、時間を追うごとに魔力を失っていってしまうのだとか。
そんな瀕死の状況下にあった彼女が出会ったのが、俺だった。
彼女曰く、俺はとてつもない量の魔力の持ち主だという。
こっちの世界の人間でもわずかな量の魔力は持っているものらしいが、俺みたいな莫大な魔力の持ち主は初めて見たと。
まあそんなことを言われても、俺にはまったく自覚がないのだが。
ともあれ、魔力が大きい人間から魔力を分け与えてもらえば、彼女は自らの魔力を回復することができる。
そのためには、魔力が大きい人間のすぐ近くにいる必要があるという。
距離が近ければ近いほど効率的な魔力回復が可能で、もっと言ってしまえば(ピーッ)をするのが最も効果的らしい。
「あのさ、もう一回言わせてもらっていい?」
「はい、何でしょう」
「それ何てエロゲ?」
「よく分かりませんけど、仕方ないじゃないですか。与えられた環境に文句を言うばかりでは何も解決しませんよ?」
「その解決のために俺に襲い掛かったやつが言うな」
俺は彼女の頭に軽く拳骨を落としつつ、お茶を淹れた湯飲みを渡してやる。
少女はてへっと舌を出して見せつつ、湯飲みを受け取ってふーふーしはじめた。
少女はおそるおそる湯飲みに口を付け、ずずっと啜ると、ホッと息を吐いて何とも幸せそうな表情を見せる。
クッソかわいいなこいつ……。
腹立たしいがかわいい。卑怯だ。
なお彼女、とある事情によりこんな外見だが、実際には二十歳を超えているという。
いわゆる合法ロリである。卑怯だ。
さておき──
「それで、魔力回復のために今日一晩だけ俺の家に泊めてくれって、そういう話だったな」
「はい。厚かましいのは分かっています。その代わりに、私にできることなら何でもしま──何でも言ってください。検討します」
「今、『何でもします』って言いかけた?」
「検討します」
チッ。俺は心の中で舌打ちをした。
鎮まれ俺の下心。
「でもさ。家に入れてから言うのもなんだが、年頃の女性が見知らぬ男の家に泊めてほしいとか、危ないと思わないの? そっちの世界だと常識違うの?」
「……むぅ。背に腹は代えられないから、仕方ないじゃないですか。あ、一応はっきり言っておきますけど、『そういうこと』の同意じゃないですからね? あくまでも魔力回復のためですから。ほら、何か要求があるなら早く言ってください。『そういうこと』以外で!」
「人にモノを頼む態度じゃないんだよなぁ……」
「う、ぐっ……! あ、相手の弱みに付け込んでそういうの、どうかと思います!」
「じゃあ『要求』一つ目。そうやって俺が悪いみたいに言うのやめて?」
「うーっ……! 理不尽だぁーっ!」
湯飲みを手にしたまま、頭をぶんぶんと横に振って悔しそうにする少女。
困ることに、仕草もかわいいんだよな。
「まあいいよ、分かった。俺が一晩、美少女が同じ部屋で寝ていてムラムラする状況を耐えきればいいだけだろ」
「ほう、美少女。お兄さん、よく分かっていますね。合格点をあげます。でもその美少女の前でムラムラするとか言うのはダメです。赤点です」
「お前だんだん図々しくなってきてない?」
「えへへーっ」
褒めてない褒めてない。
けどかわいいな。ちくしょう。
「あ、あとお兄さん。一応言っておきますけど」
「ん、なんだ?」
「万が一、夜這いでも仕掛けてきた場合には半殺しにしますので、よろしくお願いします」
「お、おう、分かった」
……そう。
さっきつかまれたときの力の強さからも分かるとおり、そもそもこの魔法少女モドキ、暴力に関しては男の俺よりよっぽど強いのである。
こいつがその気になれば、俺をボコボコにして動けなくして、自分の思うとおりにすることだってできたはずだ。
そうせずに、一応こうして下手に出て頼み込んでくるのは、こいつも曲がりなりに良識人の端くれだってことだろう。
もちろん犯罪捜査をする立場のやつがそうじゃなかったら困るのだが。
「じゃ、俺は床で毛布に包まって寝るから、お前そっちのベッド使って寝ろ」
「……マジですか。優しすぎません? 今までとキャラの整合性大丈夫です?」
「うるせぇ。人の厚意はおとなしく受けろ」
俺が頭にチョップを落とすと、少女はてへっと舌を出す。
「はぁーい。ありがとうございます、お兄さん♪」
そして俺に満面の笑顔を向けてお礼を言ってきた。
俺はちょっと恥ずかしくなって、視線を逸らしてしまう。
図々しいけど、悪いやつじゃないんだよなぁ。
図々しいけど。
そんなわけで、俺は魔法少女モドキと一晩だけ、一つ屋根の下で眠りにつくこととなった。
ドキドキして眠れないかと思っていたがそんなことはなく、今日も仕事で疲れていたせいもあってか、わりとすぐにまどろみに落ちた。
そして翌朝──
***
朝、目覚ましの音で目を覚ます。
ベッドの上、布団の中から手を出して、手探りで目覚ましを止める。
眠い……珍しく寝覚めが悪い。
俺はそんなに朝は弱くないほうのはずなのだが。
「やべ、起きねぇと……」
俺はのそのそと布団から出ようとして──違和感に気付く。
俺の体に、柔らかいものが抱きついている。
密着状態だ。
布団の中で、俺に抱きついている『何か』がいる。
「んぅ……もう朝……? もうちょっと、魔力ぅ……」
その『何か』が布団の中から顔を出す。
アイスブルーの髪と瞳を持った美少女。
薄く開かれていたその瞳が、徐々につぶらになり──
俺と目が合った。
鼻と鼻がくっつきそうな距離。
少女がぱちくりと、まばたきをする。
俺はその瞬間、背筋が凍った。
まったくどうしてこの状態なのか分からないが、俺は理不尽な死を目の前にしているのだと覚悟した。
だが一応、言い訳をしてみる。
「ま、待ってくれ! 俺には何一つこうなった記憶がない! きっと何かの間違いだ!」
一方で少女は、きょとんとしていた。
そして次には「ああ」と納得したような言葉を漏らすと、にへっと微笑んだ。
「ご安心を、お兄さん。この状況を作ったのは私ですから。お兄さんは無実です」
「は……?」
俺があっけにとられていると、少女は少しだけ頬を赤らめつつ、布団から出てベッドから下りた。
今の少女はパジャマ姿だった。
それが一瞬光り輝いて、例のアイドル衣装のようなふりひら一張羅に変化する。
「うん、やっぱり距離を縮めて正解だ。魔力、ほとんど全快してる」
少女はボクシングのようなポーズをとって、虚空に向かって素早く連続パンチを繰り出す。
文字通り、目にも止まらぬ速さだ。
唖然としている俺に、少女はにっこりと微笑みかけてくる。
「お兄さん、たくさんの魔力、ごちそうさまでした♪ とてもおいしかったです」
「いや、待て待て。お前には説明の義務がある。なんだこの状況は」
どうやら再び生命の危機は回避されたようだが、わけが分からない。
俺は昨晩、この少女にベッドを譲って、自分は床で毛布に包まって眠ったはずだ。
しかし起きてみれば俺はベッドで寝ていて、少女は俺に張りついていた。
何をどうしたらそうなるんだ。
少女は「うーん」と声を漏らして、考え込む仕草を見せる。
「あの、それっていちいち説明しなきゃダメですか? 私みたいな美少女に抱きつかれて幸せなひと時を過ごせてラッキー、じゃダメです?」
「相変わらずのおそるべき図々しさだな。通ると思うかそれ?」
「はぁ……しょうがないなぁ。面倒だけど説明します」
少女は大きくため息をついた。
この状況下でいちいち突っ込みどころを増やさないでほしいのだが。
「お兄さんとの距離が近いほうが魔力の回復が早い、という話はしましたよね」
「ああ」
「で、同じ部屋なら大丈夫かなと思ったんですけど、それだけだとどうも回復が追いつきそうになくて。仕方がないので、お兄さんを抱き枕にすることにしました」
「抱き枕」
「はい。眠っているお兄さんが目を覚まさないよう睡眠魔法で深い眠りに落とした上で、ベッドに運びました。おかげでたっぷりの魔力を回復することができました。ありがとうございます、お兄さん」
「どういたしまして……?」
いろいろ釈然としないが、理屈は分かった。
いや、理屈は分かったが──
「……それってお前的にはありなの?」
俺がそう聞くと、少女の笑顔がぴしっと固まった。
少女はあらぬ方を見て、視線を泳がせる。
「ま、まま、魔力回復のためだから、仕方なかったんです。あの、だから、その……か、環境に文句を言ったって、何も解決しませんから、私なりに考えての行動でありまして……もちろん、他意はゼロですよ?」
「ふーん」
「あーっ! 何ですかその反応!? もしかして、ううん、もしかしなくても『こいつ俺に気があるんじゃね?』とか思ってますよね!? とんでもない勘違いやめてもらえます!? 昨日初めて会ったばかりでそんなことあるわけないじゃ──」
「いや、別にそこまで具体的なことは何も。なんか噓くせぇなーって思っただけで」
「んがっ……!?」
少女が固まった。
俺はくすくすと笑うと、少女はぐぬぬと悔しそうにする。
一撃だけだがやり返せたようで、少し気分がよかった。
そんなことがありつつも、すぐに別れの時はやってきた。
少女は玄関口に立って、見送る俺に向かって微笑みかける。
「なんか、ちょっとだけですけど、楽しかったです。もう会うこともないと思いますけど──ありがとうございました、お兄さん。お元気で」
「おう、そっちこそな。じゃあな」
「はい。さようなら」
最後に少しだけ寂しそうな笑顔でそう言って、少女は我が家から出て行った。
……やれやれ。
何とも奇妙な体験だったが、俺も少し楽しかった気もする。
そして彼女がいなくなって、少し寂しいなとも。
「はぁっ……彼女欲しいなー。じゃなくて、俺も急がねぇと遅刻だ」
今日もまた、ブラック企業に出社だ。
……いや、ブラックは言いすぎかもな。
黒寄りのグレー企業ぐらいに負けておいてやってもいい。
いずれにせよ灰色の日常に逆戻りなわけだが、それでもあいつのおかげで、少しだけ元気が出た気もした。
俺もまた、彼女から「魔力」をもらったのかもしれない。
手早く朝食の準備をして、トーストをかじりながら携帯端末を弄る。
SNSでは「モンスターと戦う魔法少女」を撮影した昨日付けの画像がバズっていて、「嘘松乙」「加工頑張ったねー」などのコメントが付いていた。
その後、俺は軽くシャワーを浴びてから、馴染みのスーツに着替えて家を出る。
ボロアパートの二階から見える風景は、いつもより少しだけ彩りに満ちているように感じられた。
ちなみに、その日の夜。
俺が仕事を終えて会社から帰ってくると、アパートの俺の部屋の前では、アイドルのようなふりひら衣装をまとった少女が膝を抱えて待っていた。
俺の姿を目にした少女は、にへっと笑ってこう口にする。
「あの、美少女からの厚かましいお願いなんですけど──実は倒したはずの魔法犯罪者を取り逃してしまっていたようでして。もうしばらくお兄さんの家に泊めてもらえませんか?」
俺は苦笑して、部屋の扉を開けると、少女を中へと招き入れた。
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