78:現実世界からの波
「ところでさ、これから4日は何するの? 月華のことだから一日中入り浸ってそうだけど」
「そうなんですよ、お陰で時間を持て余しているんです」
「あはは、やっぱり。勉強の方は……と、言いたいとこだけど、その言い方からするに大丈夫なんでしょ?」
「そうですね。次の試験の分まで目を通してありますから、問題ないですね」
「普通は目を通しただけで解決しないって……。私は講習にも複数出てるっていうのに月華は……あれ? 明日と明後日の英語の講習、全員参加じゃなかったっけ」
「…………そうでした、忘れてました。助かります」
何も興味無い講習だけど、何もしないよりはいいか。
「ところでさ! 今日は何してたの? また大量殺人?」
「いえ。今日はですね、面白い女の子で遊んでたんですよ」
「面白い女の子? 『で』って言ってるのは突っ込まないけど」
「あのゲーム年齢制限15歳以上でしょう? それなのに小学生のような子がいまして。話し方が不思議でしたし、反応も好みだったんです」
「月華? 月華も誕生日まだだから15歳でしょ、つまりゲーム内で最年少。いる人は必ず同い年か年上だよ。『あの子』は変じゃない?」
「面白かったのでそこはいいんですよ」
「ふふっ、それもそっか! それで、どんなことしてたの?」
「それはですね――――」
それからしばらく雑談を続け、キリのいい所で通話を終えた。
莉桜が言うには『ゲーム内掲示板以外のSNSにも色々な情報が出回ってるから、見てみるといいよ』とのことで、只今パソコンでネットサーフィンの真っ最中である。
掲示板では聞かないような話もこちらでは多く出回っていた。
『FIW内で学校設立計画』ね……。現実時間1時間で1日の授業が済ませられる、と。運営の『overcommon』は体感時間の改変技術を他に利用するつもりは無いからって、ゲーム内に作るのね。
ここの運営は本当謎が多い。この技術があれば色々出来るだろうに、わざわざ作ったのがゲームだし。
『忍者同好会会員募集中』……これ現実でもやってたのね。『忍者の現実・架空の戦い方をFIWゲーム内で――創設者:松陰寺時雨』。スルーでいいか。
『悪の蔓延る無法地帯に鉄槌を!』現実での犯罪行為を行う人達に罰を与える、ねぇ。人を騙して金を騙し取ったり弄んだり、人を苦しめて殺したり、そんなことをする人達を止めよう、とは言ってもね。
止められるのなら勝手にやってどうぞって感じだ。
とりとめもなく様々な内容の記事が乱立している中、気になる見出しが目に入った。
「『VRゲームで拷問、トラウマなど現実世界への影響は』か」
そのネットニュースの記事を開き、中身を読み進める。
『有名インフルエンサー「ソフィア」氏のフルダイブVRMMO「FIW」に関するレビューが話題になっている。ソフィア氏によると、事務所よりFIWのレビューを依頼されてプレイをしていた際、とある1人のプレイヤーに暴行を加えられたという。』
へぇ、そんなことがねぇ。
『その内容は酷く凄惨で、拷問と評して違いない、このゲームの現実感を悪用した非常に悪辣なものであった。そのプレイヤーや内容についての詳細は、当人のSNSにて語られている。--リンク-- 専門家はこの件について、「このような行為は利用規約にて認められている上、法整備が未だ整っていないこともあるため、これによる立件は難しい」と話している――』
リンクから『ソフィア』のSNSへと移動する。そこには『非常に悪辣』だという内容が書かれていた。
『まず出会ったら全身が恐怖に包まれましたわ。それで動けなくなった後は、腕を刃物で貫かれたり、水を限界まで飲まされ吐かされの繰り返しでしたの。あの時の痛みや苦しみは忘れられませんわ、お陰で水がトラウマ気味ですの……。相手の見た目は黒のドレスと眼帯に銀髪の――』
……うん、完全に私だね。
それにしても、あの件がここまで広がってたなんて。ソフィアって有名人だったのね。
ソフィアのプロフィールに飛ぶと、フォロワーが7桁に届いていた。お嬢様言葉の小柄な幼女だが年齢は21……
「21!?」
完全に小学生体型なのに成人済みという事実に声が出たが、それはスルーして重要な方に目を向ける。
「フォロワー110万ね……」
この数から考えてソフィアは相当人気な人物であることが伺える。そして、これを見る人数は拡散力のことを考えると少なくとも数十万はいる。
更に、これに付けられたコメントを見る。
『極悪非道が過ぎる』
『控えめに言って犯罪』
『FIW買ったからソフィアちゃんの敵討ちしてくる』
等々、この件の犯人、即ち私へ向けて非常に多くのヘイトが向けられている。
FIWそのものには、恐怖と興味が半々と言ったところだった。
この件でゲーム内では、少なくない人数が私に向かって来るようになるでしょうね。それを返り討ちにした上で、ソフィア本人には…………ふふっ。
「面白いじゃないの」
ありがとうソフィア、あなたが色々な所に拡散してくれたお陰で私はこの先がもっと楽しみになってきたから。
ああ、早く4日後にならないかな……




