69:第1回公式イベント-19
「はぁ……何だか飽きてきましたね」
「俺は全然飽きないし落ち着かないですけどね……」
飽きるのは当然だと思う。だって、《恐怖の瞳》で恐怖させて逃げる。これだけなんだもの。
「それに出会う人が男ばっかりなのもそれに拍車をかけてますね」
「そ、それは触れないでおきますけど……。俺としては後5分は早く終わって欲しいんですけどね! 一緒にいるとメンタルが持ちませんから!」
「なら後5分、さっさと逃げ切って終わりますよ」
「分かりました、これが最後ですかね……」
視界正面に鬼が現れていた。
逃げるとしましょうか。《狂風》《自由飛翔》!
――第4Rが終了しました。残り人数は28人です。元のエリアに転移します――
今回も今まで通り交流エリアに戻ってきた。
やっぱり人が多いのは変わらないのね。とりあえずタブレットから運営の話でも見てましょうか。
『第4R勝者の皆様おめでとうございます! 勝ち残りましたのは全20エリア合わせて1662名、8割がここで脱落ですね』
『ここで脱落した皆様もお疲れ様です。協力の難しさが身に染みて分かったのではないかと』
『ヤエさん、あれは協力ではなく縛りプレイというのでは?』
『そうともいいますかねー。まぁ、冗談は置いておいて、このラウンドは人数をふるい落とすためでもありましたから。因みに最終ラウンドは10エリアで行いますので、観戦者の皆様はお楽しみに!』
『第5Rのルールを改めてお伝えしましょうか。これまでの制限時間制と違い、勝利条件は各エリアの残り10人になること。6時間経つというのもありますが……これは起きることはないでしょう』
『次は今までと違い、他者を蹴落とすのが勝利に近付く一歩になりますから。中々苛烈な戦いになりそうで楽しみですね――』
次は《恐怖の瞳》強で行こうかな。殺せるのは何度も確認してるし、私も全力で蹴落として勝ちに行こう。
そういえば開始前にも殺せるのかな? 特に制限がある感じでもなかったけど。
――って、何これは。私は見世物じゃないんだけど?
色々と考えて事をしていたら、いつの間にか周りに人の輪が出来ていた。それも少し距離を取った上で。
鬱陶しいので《無形の瘴霧》と《自由飛翔》使って、ジェットコースターのレールの最高地点まで飛んで逃げた。
ここなら中々来れないでしょう。全く、人を何だと思ってるの。続きでも見ながら待ちましょうか――
『――さて、次は公式掲示板に寄せられた質問の返答コーナーと参りましょうか。適当に答えていきましょう』
『はい、まずは「これはどういう経緯で実施したイベントなのか」ですか。強敵から逃げる、他人と協力する、制限の元で立ち回る、等を観戦エリアから見て覚えてもらう為ですかね。では次』
『「なんでPK出来てるんですか、てか良いんですか」と。このイベントの制限は「ダメージを与えられない」というものなので、ダメージを伴わない殺害方法なら使えます。善し悪しについては、全く問題ありません。このゲームはルール無用と言って差し支えないですから――』
最初の方はまともな質疑応答だったのに、時間が経つにつれ内容が雑になってきてる。緩いにも限度があるでしょう、これは……
『「強スキルはどうすればとれますか」、頑張れば取れます。「ミトさん彼氏いる?」、彼女がいます。「空を自由に飛びたいなぁ」、スキルを手に入れましょう。それに道具も作れないことは無いですよ。「力が……欲しい……」、そうですか。魔法の深奥、本質まで辿り着けばいいんじゃないですかね。次――』
……ん、ちょっと気になる言葉が出てきた。『魔法の深奥』ね。
一体何だろう、強くなるのを目指すならそれを求めてみるのもいいかもしれない。
確か魔法の属性は火・水・氷・雷・風・地・光・闇の8つだけど、そもそも私の『狂気』とか『恐怖』ってどれなんだろう。闇かな?
それに、前に戦ったボスの『六天-なんとかかんとか……』には何かしらありそうじゃない? 敵も3種類しか見てないけどまだありそうだし。
……あんまり戦いたくはないけど。
それにボスといえば、鯉の竜となら少しは戦えるようになったかな? 私も大分強くなって来たし……
『間もなく時間ですね。それでは第5Rスタートです!』
今まで通り、号令と同時に転移が始まった。
「なるほど……ショッピングモールの駐車場ね」
大型の3階建てのショッピングモール、その建物と繋がった立体駐車場、屋外駐車場が今回のエリアのようだった。
今私がいるのが、立体駐車場の2階。人数は166人、鬼は4体、開始までは30分ある。
とりあえず《恐怖の瞳》を強にして、殺せるか確かめましょうか。
眼帯を外して辺りを見回すと、1人の姿が確認出来た。姿を視界に入れたまま近付いて見ると……
膝から崩れ落ちた後、すぐに消滅した。どうやら開始前でも殺せるらしい。
「ふふっ……」
さて、手早く終わらせましょうか――
「気をつけろ! 見られたら死ぬぞ!」
「移動速度デバフ入ってねぇの?!」
「先視界潰せ!」
「消えるのに当たる訳ねぇだろ」
今は食料品売り場らしき所に隠れていた人を追いかけて狩っている。
第5Rまで進んでいるだけあって、逃走力や隠密力が非常に高い。
「はい、見つけましたよ」
「はぁっ!? うぁっ……がっ…………」
《心の目》の前には無力だけど。
これで30人目ね。というか、忘れそうになるけどまだ始まってないんだよね。私としては鬼がいない方が動きやすいから、寧ろ始まらない方がいいんだけど。
――第5Rが開始しました。残り136人です――
――特殊イベントが発生しました。屋外駐車場エリアの台座に鬼が10分ごとに1体ずつ追加されます――
これは……時間との勝負ね。鬼が増える前に出来る限り殺しましょうか――
――居た、ソファベンチのクッションの中ね。
クッションを双剣で切り裂いて中を覗く。
「うわぁっ!?」
――見つけた、フードコートの厨房の食器棚の中。
「きゃああああっ!」
――今度はここ……? 植え込みの土の中ね。
はぁ……。面倒ったらありゃしない。
手でどうにか土をかき分けて姿を確認する。
「は、なん……がぁっ!?」
開始後30分、プレイヤーの動き方はほぼ二極化していた。
時間中動き回って逃げ続けるタイプ、本気で隠れて動こうとしないタイプ、この2つだ。
前者はほぼ全滅させたけど、後者が厄介極まりない。軒並み全員もれなく隠れる場所が面倒過ぎる。
特にトイレにいたあの男、何をしたのかは知らないけど洋式トイレの中に小人化して入っていた。
流石に驚いた、というか気持ち悪かった。なんでわざわざ女子トイレに入ってたのよ。
「見つからな…………ってやばっ」
歩いていたら鬼と鉢合わせたので、急いで《狂風》と《自由飛翔》を使って離れる。
既に鬼は7体、一方プレイヤーは32人。かなり鬼に見つかりやすくなっているのに対し、《心の目》を使ってもプレイヤーを見つけられなくなっている。
「そろそろ逃げに徹しようか……」
自力で減らすのはここまでにして、鬼が減らすのを待つ方が良い気がしてきた。
どうか私が逃げられなくなる前に人数が10人まで減りますように……
「はあぁぁ…………頭痛い……」
あれから3時間《自由飛翔》と《無形の瘴霧》、時々《狂風》を使って逃げている。
コスパのいいスキルを使ってはいたが、MP回復薬も尽きてきた。使っていて気付いたが、MP回復薬は連続で使う程効果が薄くなるようだった。
それにしてもまだ終わらない訳? 残りは……11人。
後1人! 早く、誰でもいいから鬼か私の前に出てきて!
――残り10人になりました。第5Rを終了します。特殊エリアに転移します――
やっと終わった…………。疲れた。
今まで通り交流エリアに戻ると思っていたら、見たことの無いエリアに転移していた。
ホテルとかで見るパーティー会場のような部屋だった。
「うわ……いるし……」
「勝ってたんか」
「死神……」
ここにいるのは……30人。もしかして第5Rの勝者が集まってる感じかな?
周りの人たちは置いておくとして、とにかく無事に勝てた訳だ。今は休んでおこう。
あ、今のうちに掲示板でも確認しておこうか……




