53:第1回公式イベント-6
あれから1時間、船後方の高台に居座り続けていた。プールに近付いたプレイヤーが恐怖を受けて鬼が狩る構図は保たれたままだ。
そうしている間に私は、あの鬼の鎧武者について1つの仮説を立てていた。
もしかしたら、鬼は一定の知能を持っているのではないか、ということだ。勿論操作は人間ではなくAIによるものなのだろうが。
1つ、ここまでの2時間、私は利敵行為になり得る行為を続けていた。2つ、私は鬼に攻撃態勢を向けられていないこと。3つ、これは推測だが、鬼の行動規範はプレイヤーの討伐数である。
これらのことから、私は鬼に利があると判断されて襲われてない。鬼にはそれを判断する知能がある。
って、鬼がこっち見て………………あ、スルーした。
「確定かな」
と言っても、私のすることは変わらないし、残り1時間になれば骸は無くなって私を残す意味も無くなる。そうなれば襲われるようになるだろうから……まあその後は頑張ろう。
「ふぁ…………」
暇だ。下を眺めるだけで何も変化が無いから飽きてきた。第1Rの時みたいに動き続ける必要があるのも辛いけど、動く必要が無いのも逆に辛い。
残り時間は1時間20分、人数は979人。もう1回くらい特殊イベント来ないかな。外に出てくる人もほぼいなくなってるし、ゲームに変化があっても……
――特殊イベントが発生しました。残り時間1時間より、客室フロアとその他エリアが隔離され移動が不可能になります。鬼は両エリア共4体ずつ、各種2体ずつとなります――
なるほど? でも客室フロアに行くメリットはあるの? フロアは多くても狭いし……
――また、客室フロアは全ての客室の扉の鍵が解放され、ランダムな10部屋に特殊勝利ボタンが設置されます。このボタンを押すとこのラウンドはその時点で勝利となります。ただし、1つの部屋に5分以上滞在すると鬼に位置が通知されます――
「はぁ……」
つまり、客室フロアは多少危険だが早く終えることも出来るエリアということか。でも10部屋でしょう?全部で500部屋は超えてるけど。割合で言うと2%以下、1時間で探すには無理がない?
こういう客船の部屋はちょっと見てみたくはあるけど、勝利優先だ。今回のイベントもスルーしよう。
それにしても2回目の特殊イベントはメリットもあるけどデメリットもある、って傾向が見える。次のラウンドに行った時のために覚えておこう。
さて、あと20分で骸は消えて鬼は私を狙いに来るようになるし、どこに行くか位は考えておこうか――
「そろそろか」
残り時間1時間2分。私は今いる船後方の高台から動く準備をしていた。
ラウンド開始から前の高台か後ろの高台にしかいなかったし、そこに鬼が寄ってくることも考えると動く方がいいよね。鬼もさっきの考察からして、そのくらいの知能は持っていると思う。
この後はカジノエリアに移動することにしている。すぐ外に出たからあんまり中見てないし、折角だからついでに観光でもしようかな?
――特殊イベントが終了しました。屋外プールから足場と骸が消失します。解放された骸は0体です――
――残り1時間になりました。客室フロアとその他エリアの間に障壁が出現しました。客室フロアのランダムな客室内に鬼が3体出現しました、3分後に動き出します。エレベーターが使用不能になりました。これより情報は2エリア分表示されます――
残り1時間を切ったことを確認し、私は《自由飛翔》で屋外プールの傍に降りる。プールサイドからは人がいなくなっていたので、《密殺術》で姿を消す必要はなかった。
《恐怖の瞳》はもう必要ないので眼帯を付け直す。
すれ違った人に不用意に恐怖を与える意味もないからね。鬼に効かないのは確認済だし問題ない。
「あっ、あなたは……」
女子中学生らしき人がいた。
見たところ初期装備だから初心者かな?いや初心者は私もだけど。
「何の用でしょうか?」
「用という訳ではないですけど。屋外プールでの集団恐怖からのMPK、あれあなたがやったことでしょう。それについて思う所があるだけですよ」
「そうですか、確かにあれは私がやりました。それで何か?」
「私の知り合いとここで知り合った人が何人もあれに巻き込まれてたんですよ。あの方たちならもっと上のラウンドにも……」
「知りませんよ。私が鬼を増やさせたくないのでやっただけで、他人の都合なんて二の次です。それに、あれで動けなくなるのはその人の力不足のせいでしょう。私に責任を押し付けないで貰いたいですね」
「あなたがMPKをしたのに変わりはないでしょう!」
はぁ…………鬱陶しい。あれはルール違反でも何でもないって言うのに。このまま《恐怖の瞳》使って置いていってしまおうか……
「――第一同じ敵から逃げているのにどうして協力せず……」
「五月蝿いですね、何をもって私に説教を垂れてるんですか。このゲームは自由なゲームです、あなたが私の行動を縛る権限は無いでしょう」
「それでも常識が……」
「はぁ……めんどくさいですね。もういいです、あなたはここで震えておいてください」
眼帯を外して《恐怖の瞳》を使う。
少々苛立っていたので、無意識に少し強めにして…………
ついうっかり恐怖を強にしてしまっていた。
「ひぁ…………ぁっ…………」
「邪魔なので精々ここで震えて…………」
腰を抜かして立てなくなっている。それじゃあ行こ……
「ぁ…………かひゅっ………………」
え?あれ?
震えて暫く動けなくする程度のつもりだったのに、死んでしまったらしい。死体が消えて無くなっていた。
…………あっ。強にしてた。無意識って怖い。
「まいっか」
攻撃含めPK出来ない筈のルールで何故殺せたか、とかこの後のイベント参加に影響はあるのか、とか色々気になることはある。けど考えても何も出ないので気にしない。
さて、今度こそカジノエリアに行こう。
因みにそのエリアを選んだ理由は大してない。ただ広さと障害物がありそうな所から適当に選んだだけ。
カジノエリア前の扉前に辿り着いた。
やっぱり現在地の分かる地図があると迷わなくて済んで助かる。では、いざカジノへ!




