37:決闘と後悔
「――そうだ、イベントの情報ってもう見た?」
「ここに来る途中に見ましたよ、参加登録もしておきました。コスモスさんも?」
「うん、してあるよ。楽しみだけど、残れるかな……自信ある?」
「そうですね……結構自信ありますよ。隠密系だったり移動速度上昇系のスキルがありますし」
「そっかぁ、私移動速度上昇スキルは1つだけあるけど弱いんだよね。あんまり使わないし。プレイスキルで頑張るしかないんだ」
「1ラウンドでも多く勝てるように祈りましょうか」
「そうだね、負けた後も交流エリアに行けるし、そこで情報集めて今後に備えるのもいいよね」
「確かに交流にも良い機会ですね。ところで、鬼の鎧武者はどう思いますか?」
「耐久力が凄い高いことと攻撃が強いだろうことしか分からなかったんだよね。スキルも分かんないし……」
「あの4スキルってやっぱり持ってる人居ないんでしょうか」
「公式掲示板でも情報が行き交ってるけど、スキルは無いみたいだね」
「そうでしたか、あれに関しては…………後で話しましょうか」
「そう? それでこの後だけどダンジョン行かない? 博物館型のなんだけど」
「良いですね、是非行きましょう」
「そろそろ出ようか、ご馳走様でした!」
「はい、美味しかったです。ご馳走様でした」
会計を済ませた後、また秋川さんに着いていき、博物館のダンジョンに到着した。
「魔物は出なかったね」
「そうですね、初戦闘はダンジョン内に持ち越しですね」
ダンジョンに入ると広めのロビーがあり、受付には例の宝玉がある。
そこそこ人いるんだね、3~5人の集団が3つか。とりあえず登録しようか。
そうして登録を済ませるとその直後……
「ようコスモス、今日は妙な格好の連れがいんのか」
「妙って何エゼル、似合ってるでしょう」
「似合ってないとは言ってねぇけど、ドレスに眼帯ってのはな……」
「確かに似合ってはいるが、浮いているし、中二病なのかい?」
「ライブラさんは中二病じゃないから!」
「似合っていると言って頂けるのは有難いですし、浮いているのも否定しません。ですが中二病というのは断固として否定いたします」
「じゃなんで眼帯してんだ。『私のこの漆黒の邪眼を解き放つ……』とか言うためか?」
「確かにそれは聞いてなかったね、ライブラさん何で眼帯してるの? それは普通の物って言ってたし」
「言いませんよ、それ前も言われましたね。何なんですかそれ。コスモスさん、それはですね……」
「なぁおいあんた、とっとと帰ったらどうだ?ってか帰れ。そんなふざけた格好して、そんな体型のお前がここで戦える訳もねぇ。それで俺らの邪魔するくらいなら出ろ」
はぁ……? いきなり何こいつ。エゼルとやらの集団とはまた別っぽいけど、突然出てきて何を言ってるんだろう。
「はい? それは何を見て言ってるのでしょうか?」
「見た目以外あるか。そんな中二病ごっこしてるあんたを守ってくれる男はここには居ねぇぞ?」
こいつ、喋り方が一々腹立たしいな。マナーはこいつが先に破ってるし無視無視、《鑑定》。Lvは…………17? こんな偉そうなこと言っておいて?
それに後ろの2人も16と20だ。こいつを止めてないんだから2人も同罪でいいかな。
「私これでも戦えますけどね? それほど文句を仰るのでしたら、1戦交えましょうか?」
「ラ、ライブラさん?」
「おいあんた!?」
正直こいつらのせいでキレそうだ。秋川さんもいるんだから邪魔しないで欲しい。
「はぁ? あんたが? はっ、笑わせんじゃねぇよ。そこまで言うならボコボコにしてやろうじゃねぇか」
「ところで後ろのお2人はどう致しましょうか?」
「は?」
「ん? 何だ?」
「どうせならあなた達もご一緒致しませんか? 3人同時でも構いませんよ?」
「ちょっとライブラさん!? 大丈夫なの?」
「すいませんコスモスさん。ここまで言われて少々腹立たしくなってしまいまして、必ず勝てますので、心配しないでください。それじゃあ、やりましょうか。丁度いい場所はありますかね?」
「随分舐めた口きくじゃねぇか、来いよ」
さて、さっさと殺ってしまおう。
暫く移動し、セーフティエリアすぐ外の広間らしい所に来た。
「ここですか。それじゃあ、開始の合図はエゼルさん、お願いしても宜しいですか?」
「お、おう」
「私達以外には互いに手出し禁止で、宜しいですかね」
「あぁ」
「それじゃあ、3数えて開始と言ってから始めてください」
因みにこいつらはLv20以下だが、互いの了解があり審判がいるため決闘という扱いに出来るらしく、攻撃に制限が無くなっている。
それに、秋川さん達は私の背後か斜め後ろにいるので、《恐怖の瞳》は遠慮なく使える。
「それでは、3…………2…………1…………開始!」
開始と同時に眼帯を外し、《恐怖の瞳》を遠慮なく強にする。スキルを使ったり武器を構えてこっちに来ているけど、気にせず立ったまま3人を見つめ……
「なっ?! ………………がっ……」
「ぐっ…………かはっ……」
3人が死ぬのを確認した。
「えっ……?」「な、何が起きた?」
そして、私は眼帯を戻し……
「お待たせしましたコスモスさん。うふっ……言ったでしょう? 必ず勝ちますって」
「う、うん……おめでとう? えっと今何したの?」
「一言で言いますと、スキルを全力で解放しました。折角コスモスさんとダンジョンで遊べると思ったんですが、邪魔が入って怒ってしまいまして。つい」
「そっか、ありがとう……?」
「それじゃあ、ダンジョン行きましょうか」
「おいテメェ、まさかチーターだったとはな? 通報はしたから覚悟しろよな?」
戻ってきたと思えば一体何を言ってるんだろうか。
「はい? 何をもって私をチーター呼ばわりしているんでしょう?」
「そんなんさっきのあれに決まってるだろうが! 何もせず即死にするなんざ……」
「あれのどこがチートなのでしょうか? 何もしていない訳では無いですし、そもそもあれは殺すためのものではありません。あなた達が弱いから死んだだけですよ?」
「好き勝手言いやがって……再戦しろ! 再戦! さっきの即死させるやつは禁止だ!」
「はい? 何を仰ってるんですか。まず私が再戦するか決める権限はあなた達にありませんし、それに禁止ってなんです? それがあるとまともに戦えないからとでも?」
「他に何が……」
「そんなこと言われても知りませんよ。あなた達の力不足の帳尻合わせを私にさせないで貰えます? そもそも、自分達の都合を押し通すことをおかしいと思っていないの最早滑稽ですよ。子供じゃあるまいし」
「こんんのクソアマァァ!!」
剣で切りかかってきた。そんな大振りの剣を見切れない筈が無いので私は軌道を完全に読み……
――ザシュッ!
左手の指1本を切らせた。
「はっ! 次は……」
「全く、実力もない上に頭まで悪いとは……」
《閃撃》を使い両脚を切り落とす。
「あ゛あ゛あああぁぁぁっ!!」
「あんなに遅い剣が当たる訳ないでしょう。それにあのスピードで頭を割れる筈ありませんし、一体どこを狙ってるんですか。それに分かりませんでした? 私のLvは21ですから、あなた達に了承無く先制攻撃は出来ないんですよ。さっきの決闘後には既にそのルールが適用されてたんですから、一撃で殺せば私はどうしようもないんです。それなのに私に反撃の理由を与えただけで、あなたは何も出来ていないまま。私に何かしたければ、せめてもう少し、言葉に頭と実力を伴わせてから来て下さい。ですので、今は殺されて私の前に現れないで貰えますね?」
私は話しながらこの男を切りつけ続け、最後に首を切った。間違いなく死んだので、消えるのを見ることもない。
そして、私は秋川さんとエゼルさん達の方を見て、深く頭を下げる。
「あの、この度はご迷惑をおかけいたしまして、本当に申し訳ありませんでした。余計な手間と時間をかけさせた上、不快な思いをさせてしまいましたことも重ねてお詫び申し上げます」
「い、いや、悪いのはあいつらの方で……」
「そうですよ、ライブラさんは悪くないと思いますし」
「コスモスさん……折角誘って頂いたのにこんなことにしてしまって本当にすみませんでした。楽しみにしていたのに、邪魔された事に腹が立ってしまい頭に血が上ってしまったみたいです」
殺した人達には別にどう思われてもいいけど、秋川さんに嫌われてしまうのは…………ちょっと嫌だ。
「謝らなくていいから! 私もあの人達に邪魔されて腹立ったし、ライブラがやってくれてスカッとしたから!」
「ですが……」
「このゲームは誰だって好きなことしてて良いんだから! だからライブラが何したって文句なんて私は言わないし誰にも言わせないから! ほら、行くよ?」
「あ、あの」
私は秋川さんに手を引っぱられて、ダンジョン内部に進んでいくことになった。




