31:出立の準備
一通りの確認を済ませた後、私は一度ログアウトして秋川さんと通話をしていた。
「秋川さん。私、無事にLv21になれましたので、会いに行く時期を決めようかと思うのですが」
「早っ!? あっ、おめでとう! 電車使えるようになるし京都エリアには来れるようになるけど、どうやって待ち合わせしようか?」
「一度会ってからでないとチャットは使えないですからね。それに時間も合わせないといけませんし」
「一旦互いにログアウトして、時間を合わせてから待ち合わせ場所に行ければいいかな?」
「そうですね、それがやりやすそうです。待ち合わせ場所は……無難に京都駅辺りはどうでしょうか?」
「うん、それが良さそう! ちょっと今遠くにいてそこ行くのに時間かかるかもだから……会うのはリアル時間の明日で良いかな?」
「はい、私も色々やりたいことがありますので。詳しくは明日にでもまた話しましょう」
「うん! また明日よろしくね!」
さて、京都駅までの路線を確認してからまたログインしようか。
「さて、一先ず最寄り駅に向かおうかな」
実際に会うのは明日だとは言え、早めに向かっておいて悪いことはないでしょう。
そういえばこのドレスを着て初めて外に出る。まだちょっと気になるけど、大丈夫だよね?
幸いこの辺りには人が居ない。《恐怖の瞳》に関しては、このドレスにこのスカーフは合わないと思って、思い切って外した。
そういえば駅はこっちらしいけど、この方面には来たこと無かったね。今回はまっすぐ進めばいいだけなので道に迷うことは無いはずだ。
「うわっっ!」
「ひぃぃっ!」
駅の方面となると人も増えてくるよね。人は出来るだけ目に入れないようにはしてるけど、どうしても多少は避けられない。
「あっ、コンビニ」
あるとは聞いていたが、初めてコンビニを見つけた。MP回復薬でも買い足しておこう。
中は…………普通だ。人は誰もいなさそう。
商品を見て、買う数をウィンドウで選択すれば出る時に会計が自動で出来て物は《インベントリ》に入るらしい。
万引き防止とゲームシステムの有効活用がよく出来ている。
――つい色々買ってしまった。MP回復薬の他、HP回復薬、低位状態異常回復薬もあったので買った。ゲーム世界らしいもの以外に、普通の食べ物飲み物なんかも売っていた。この世界で飲食はしたことなかったし、これも幾つか買った。
今まで相当魔物を狩ったけどお金は使うこと無かったし、多少は散財してもいいよね?
また暫く歩くと珍しい店を見つけた。
服飾用品店らしい。服とか帽子とか色々置いてある。せっかくだから見てみよう。
「いらっしゃ、ひぃぃいっっ……!」
店員らしき人がいた。流石にこれはまずい。
《インベントリ》からスカーフを出して片目に巻いておく。
「驚かせてしまいすいません。えっと、プレイヤーの方なのでしょうか?」
「は、はい…………裁縫が趣味で、ここなら色んなものが作れると気付いたので……」
そういえば、商売をするような人もいると聞いた気がする。そうだ、ここなら……
「あの、この店にこの服に合うような靴と眼帯は置いてあります?」
「靴と眼帯はありますが、どのような物がいいでしょうか」
「眼帯は何でもいいですが、靴は動きやすいものがいいですね」
「はい、少々お待ちください……」
今の靴は白いスニーカーで、正直合わないから変えたかった。戦う時に動きにくいものでなければいいかな。ハイヒールとかは論外として。
「はい、お待たせしました! こちらでどうでしょうか?」
眼帯は黒のシンプルな物だ、これは問題ない。靴は……ヒールに高さはない。パンプスとかバレエシューズみたいな……動きやすそうな靴だ、というかこっちも黒。
「試着してみてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
どれどれ…………うん、履き心地は良いね。少し動いてみたけど、問題なさそうだ。寧ろスニーカーの時より動きやすい。
「いいですね、購入させて頂きたいです。お幾らでしょうか?」
「はわぁ…………」
「あの……?」
「あ、はい! 購入ですね、ありがとうございます! えっと、2つで11000ネイですね」
うん、全然買える価格だ。
――購入手続きも終えて、早速装備してみた。
自分を客観的に見てみて気付いてしまった。黒眼帯、黒チョーカー、黒ドレス、黒シューズって。もしかして、見た目凄い中二病みたいになってない?
いや、ドレスは性能的に必要だし、眼帯も《恐怖の瞳》を隠すのに必要だ。靴は見た目を合わせただけであって。中二病では無い。断じて無い。
――そうして店を出てしばらく歩くと、駅に辿り着いた。
改札を通るために切符かICカードが必要だけれど、券売機が見つからない。
「こんにちは、もしかしてこちらの駅のご利用は初めてですか?」
「えっと、はい……」
スーツを来た女性だ…………どこかで見たことがあるような気がする。
「それでは私から説明いたします。この世界の電車は1ヶ所で登録頂ければ全ての場所で利用出来るようになります。改札のゲートに入ると入場手続きがされ、別の駅の改札のゲートから出ると退場手続きが行われ、代金の徴収が自動で行われます。また、所持金が不足していた場合、入場手続きをした駅に戻されますのでご注意ください。長距離移動の為の新幹線は手続きが必要ですので、各駅にいる私か、新幹線用ホーム手前で手続きをお願いします」
……うん、システムは分かった。だけど、1つ突っ込もう。
「『各駅にいる私』ってどういう意味でしょうか」
「私は各駅におります。その言葉の通りです」
「えっと…………??」
「私、キャザーはここにおりますが、隣の駅にもいます。そして、隣の駅のキャザーは私ですが私ではありません」
んん??
どうしよう、何を言っているのかさっぱり理解出来ない。というかそうだ、この人キャザーさんだよ、病院ダンジョンで見た覚えがある。
「これは理解なさらなくて構いませんよ。一先ず登録を済ませましょう……………………はい、出来ました。これで自由に電車をご利用になれます」
「は、はぁ…………そうですか。ありがとうございます」
「因みに、駅構内と電車内はセーフティエリアとなっております。また、改札を回避して駅から退出なさいますと通常料金に加え、違反金が徴収されますのでご注意ください。またどこかで会ったらよろしくお願いしますね。それでは」
いっちゃった。まぁ行こうか。
駅のホームは普通だった。電車のスケジュールを示すモニターにホームドアがある、それだけだ。
あ、電車来たね。それじゃあまずは東京駅に向かおうか。
とりあえず乗換駅には着いたけど、ここから…………
「どこ……?」
東京の駅というのは予想以上に複雑な構造だった。そして、ただの住宅街で迷う私が迷わない訳がなかった。
「わ、すごい…………」
「やばっ…………」
というか、何人かに遠巻きに見られている。予想はしてたけど、同じような服の人がいない。ヒラヒラのレースが付いてる訳じゃないけど、カジュアルドレスでも目立つのは目立つよね。
それにしても次どこに行けばいいの…………
それから、駅構内を彷徨い続け1時間が経過していた。




