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118:交渉という名の脅迫

2ヶ月半以上投稿空けてようやく再開したのにまた2週間以上空ける人なんています?


……私です。すみませんでした。大変お待たせいたしました。

 食堂棟に入り自動ドアを2つ潜ると、100個程の机が規則的に並べられた広間に出る。辺りを一瞥するが、目に入るのは机の上に逆さに置かれた椅子や壁全面の窓ガラスが見えるだけで人影は無く、魔物の方も居ないようだった。


 「ここからは居なくなったのかな……。多分見たっていうのも少し前のことだししょうがな……」


 引き返して別の場所を探しに行こうとした所、上の方から微かに人の話し声が耳に入った。一部が吹き抜けになっていることと、他に空調の音がする程度だったためこの場所でも聞こえるらしい。


 いや、居るね。この感じは男女合わせて3,4人かな。

 この広間に来るまでに階段は無かった気がするけど……。まぁ、吹き抜けから直接行けばいいか。


 吹き抜けから上昇してすりガラスのフェンスの向こうを見ると、10代半ばから後半くらいに見える男3人と女1人が、奥に見える通路側を向いて椅子や床に座っていた。この場所は本来は歓談用スペースになっているらしく、そこで弧状になって談笑している。


「にしても、こんな所でリンカに会うとは思わなかったな」


「そうですよ、ダンジョンに行く時は僕達と一緒に行ってたじゃないですか。何かありましたか? それだったら言ってもらえたら……」


「みんなのお陰で私Lv.21になれたじゃない? レベル上げを手伝ってくれて、試練をクリアする簡単な方法もアレク君から教えて貰って……。これなら私1人でも戦えるんじゃないかと思ったの」


「なっアレク、お前! あー、えっとリンカ? それはな……」


 何なんだろうか、この4人の関係性が謎だ。知り合いではあるらしいけど。後は黒髪ロングストレートの女の人がリンカで、左端の赤茶色の短髪の男の人がアレクではなくて……まぁ名前はどうでもいいか。

 恐らく探してる相手は男3人の方だろうね。じゃ、行くかな。


「でもやっぱり魔物が来ないか緊張するね。今は4人でいるけど……」


「大丈夫ですよ、ここへの道は1つだけ。つまりそこを見ていれば心配な――が、ごふぁっ!」


「ひぁ……、ウォロく……」


 両肘をフェンスにかけた状態で、白い双剣『変幻自在』を赤茶髪の男の首へ伸ばす。瞬く間に伸びた刃は首の中央を貫き、刃の根元から血が滴る。

 男の体から力が抜け、死亡によって消滅したのを確認したところで、刺した刃を鞭のようにしならせて戻しながら、残りの3人に声をかける。


「どうもこんにちは、もしよければ私とも()()しませんか?」


「っ……ライブラ!? やっば、リンカ逃げろ!! 《電牢》」


「ここは僕達で止めますから! 《浮遊水泡》!」


 スキルによって色黒金髪の男が周囲360°に雷の格子を、黒髪黒メガネの男が2m大の水の球を出現させる。その2人の後ろに、覚束無い足取りで逃げようとするリンカの姿が見えた。


「逃がすはずがないでしょう、っと!」


 雷の格子の隙間と2人の間を縫うようにリンカの足元へと刃を伸ばし、それと同時に破裂した水球を避けるように霧化する。

 男2人は避けられるのは予想していたと言わんばかりに、すぐに振り返ってリンカのもとへ駆け寄る。


「ちっ、この程度じゃ駄目か!」


「危ない! リンカさん!」


 だが、霧化の直前に剣は真っ直ぐ投擲されたことで、剣は霧化すること無く脚へと飛翔していた。

 剣先は左の腿に突き刺さり、その拍子にバランスを崩して転倒する。


「へっ、きゃぁぁっ!?」


「リンカ! 今そっちに行――」


「はい、捕まえました」


「なっ、何?! やめっ――!」


 左脚に剣が貫通して転倒したリンカのもとで霧化を解除し、髪を掴んで身体を翻して仰向けにさせる。


 ……ふむ、今すぐ手を出したい所だけど、先にあっちだ。とりあえず逃げないようにだけさせてもらおうか。


 薄緑色のTシャツを少しまくり上げて素肌が顕になったのを確認し、下腹部へと肘打ちを一発叩き込む。


「お゛えぁっ! …………げはぁっ、かはっ……」


 顔の方に目をやると白目を剥いて口からは液体がこぼれているのが見えた。気絶まではしていないことを確認すると、脚に刺さっていた『変幻自在』を引き抜いて黒い双剣『極悪非道』に持ち替え、傷の無い右脚に突き立てる。

 突き立てた剣の上に浮遊状態で足を乗せて2人の方に向き直ると、こちらを攻撃しようとするもリンカがいるため攻めあぐねている様子が目に入る。


「さて、改めてお話でも致しま――」


「リンカにそれ以上手を出すんじゃねぇ」


「……何を仰っているのかよく分かりませんね」


「リンカをそれ以上傷付けるなと――」


 2人がこちらを睨みつけながら色々と言っているが、殆どが聞く必要も無い戯言だったため聞き流す。


 それにしてもこの人たちは一体何を考えてるんだろう。このリンカが大事な存在だと思ってるのは分かるけど、まさかそれを承諾するとでも?


「はぁ、何を勘違いしていらっしゃるんです? あなた方がこの人を守ろうとしているのは分かります」


「っ、なら……!」


「だからそれを私のすぐ手の届く場所に置いているんです。この意味が分からないとは言いませんよね?」


 今の圧倒的優位差を理解させた上で、暗に人質を取って脅迫しているのだと告げる。

 少しの間の後、無言で頷いたのを確認した所で本題に入ろうとしたが、突然足元から第三者――リンカが息も絶え絶えに口を挟んでくる。


「っ、はぁっ……ふぅっ……。あなた、何をしたいの、そもそも何者なの……?」


「見て分かりませんか? あなたを人質に、このお二人にお話を持ちかけているんですよ」


「……それでアルタ君達が従わなければ、私を殺すつもりなの?」


 男達の方もそうだったが、こちらの方もどうしてそんなことを言っているのか分からず思わず首を傾げる。


「もしかして、あなたの命に価値があるとでも思ってますか? そんなもの微塵もありませんし、私も興味ありませんよ」


「なっ、何なのその言い草は! それじゃあ何がしたいって言うの」


「何ですか、分かりませんか。そちらのお二人ならお分かりになられます?」


「……拷問紛いの行為でもするつもりだろ。掲示板を1回でも見たことがあれば、お前が快楽殺人狂で拷問狂なことは嫌でも知ってるよ」


「そういう事だったの、それなら無駄よ? 私の痛覚設定は0%、だから幾ら痛めつけられてもあなたの望むような反応は得られないから」


「そうです、今やろうとしていることが無意味だと分かりましたか? 分かったのなら諦めて彼女を――」


 なるほど、さっきまで切ったり肘打ちを入れたりしても反応が薄かったのはそういうこと。


「はぁ……あなた方は一体何度私を呆れさせれば気が済むんですか。その程度で優位に立てたつもりになられても……」


「へっ、ちょっと、何するつもり!?」


 そう言いながら上体を起こしかけていたリンカの背後に回り込み、腕にぶら下がるように真下に引っ張る。その状態のまま腕を真上に持ち上げることで肩の関節を外し、両手足の自由を奪う。


「痛覚0%と言いましても、他の感覚ははっきりと残ってる訳です。例えば触覚ですね、体の表面だけでは無く内部にもその感覚は残ってます」


「……それが何」


「そんな状態でこれを打ち込まれたらどうなるでしょうね? 自分の体内に次々異物が侵入してくる感覚、一体いつまで保つんでしょう。ふふっ、勿論あなたを殺すつもりは毛頭ありませんので安心して下さいね」


 《インベントリ》から第1回のイベントの時に手に入れた釘を数本取り出し、指の間に挟んでそれを見せる。


「所謂五寸釘という物ですね。彼女の精神を壊されたくないのなら、()()していただけますね?」


「……何が望みだ。要求には応えるからそれ以上彼女に傷を付けるな」


「分かっていただけたようで何よりです。では、私からのお話に入りましょうか。と言っても単純な話ですね、私が望む、もしくは私にメリットのある情報を渡して下さい。充分だと思った時点で止めてあげます」


「何の情報が欲しいんだ?」


「教えませんよ。そんなの面白くないじゃないですか」


「っ!? この卑怯者が! 《霹靂――」


 黒メガネの方の男が手に電気を纏わせ、顔に怒りを滲ませながら駆け出してくる。

 それを見て手に持っていた金槌を一度インベントリに仕舞い、双剣『変幻自在』に持ち替える。スキル《死の波紋》を使ってリンカの両脚の腱を切り裂く。すると、スキルの効果で血飛沫の衝撃波が発生し、黒メガネの男の、そして連鎖によって金髪の男の右脚の腱が切り裂かれた。


「クソがっ……! さっきから偉そうに――」


「はぁ……まだ分かりませんか。私は今すぐにあなた2人を殺すことも、この人をこの場から連れ去ることも出来ます。でもそれをしないのは私なりの温情なんですよ?」


 腱を切られて立てなくなり歯噛みしている2人を見下ろしながら話す。


「そろそろ状況を理解出来たでしょうし、始めてください。次何か手を出したらさっき言ったように連れ去りますからね。後、壊すのは精神だけにしようと思ってましたが気が変わりました。このリンカさんは大変大切な方なようですので……」


「何だ、まだ何かするつもりか」


「そうですね、精神と一緒に尊厳も壊しましょうか。そんな姿を見たくなければ頑張って下さいね?」


「「――――――?!」」


 2人の顔の焦りの色が一層強くなり、それと同時に左脚へ1本目の釘が打ち付けられ始めた。

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