112:Hide and "Kill"
遅くなりました、昨日投稿出来なくてすみません。
双眼鏡の先にある、橙色に染まった空に現れた特異点を見つめる。
「あれがライブラ……」
一『FIW』プレイヤーとして、ライブラのことは聞いていた。その内容は強さから残虐性まで様々で、自分から聞きに行かなくても耳に入る程だった。
その噂通りの容姿に、周りに漂っている黒い霧と飛び回っている生物達が合わさることで不気味さが際立ち、思わず息を飲む。
「これは、早く逃げないと……ひぃっ!?」
この距離だと双眼鏡があるこっちはともかく、向こうから見えるはずがない。それなのに……目が合った。
身体中に悪寒が走り、恐怖で反射的に双眼鏡を離す。その時、ふととある話を思い出した。『ライブラに目を付けられた女子は拷問の末、精神崩壊寸前まで追い込まれる』という、初めて見たときは目を疑うような内容だ。
だが目が合った一瞬に、あの愉悦に満ちた表情を見てしまっては信じる他無かった。
「ま、まずい……逃げないと」
このままいたら殺される……。早く、早くここから離れないと……。
だ、大丈夫、私だって隠密能力には長けてるんだから。《光学迷彩》!
姿を見えなくした後、急いでその場から離れる。この時、直ちにログアウトして脅威を根本から断つべきだった。だが恐怖から逃れようとする生存本能が勝り、それに気付くことは出来なかった。
そして、ライブラの他もう1つの敵の存在にも気付いていなかった――
「はぁっ……な、んで?」
おかしい、絶対におかしい。ライブラが現れたビルからひたすら離れようと走っているはずなのに、一向に離れる様子が無い。
不味い、このままだと……
日は沈み、既に夜を迎えている。
夜になると見通しが悪くなるので、向こうを認識しづらくなる。つまり最悪の事態となる可能性が極めて高くなるということだ。
とぼとぼとあてもなく歩いていた時、突然背後から声が聞こえた。
「みっけた」
「なん……え?」
ライブラだと思って恐る恐る振り返った。だがそこには、ピンク色の髪を後ろに1つに結び、白いセーラー服を着た少女が立っているだけだった。
「だ、誰ですか。あと、大丈夫です……か?」
「これで19、っと」
声をかけてもセーラー服の少女は応える素振りを見せず、私の首元に手を触れた後は振り返ってどこかに行こうとする。
「あの、待ってくだ……えっ?!」
追いかけるために走り出そうとしたが、足は極めてゆっくりにしか動かず、思い通り動かなかったことに驚いて転んでしまった。
不審に思って自分のステータスを見ると、2つの状態が付与されていた。
□□□□□
【宇宙の均衡】:物理攻撃威力増加(極大)、移動速度低下(極大)
【乙女の真心】:HP自動回復(中)
□□□□□
「な、何ですかこれ! それに、あなた何者なんですか!」
「効果見たんでしょ? 見た通りだよ」
ライブラの噂の中に、物理攻撃が効かないというものがあった。つまり今の状況において、1つ目の【宇宙の均衡】は移動速度低下(極大)の効果しか持たないことになる。
だが【乙女の真心】は回復の効果しかない。これによって、この人の意図が読めなくなっている。
「……ライブラの仲間なんですか」
「んー、違うかな。私がここにいるのはライブラ知らないだろうし」
「じゃあ何のために……」
「っと、私は次行くかな。それが解けるのは期待しない方がいいよ?」
去っていくような口振りだったので、せめてもと《鑑定》で相手の素性を見ようとする。
□□□□□
bnrlnr ku.28
go:1270/1270
□□□□□
鑑定結果を見ていると何の前触れも無く姿が消えた。
「なっ!? 本当何者なの……。結局何も分かんなかったし、というかなんで《光学迷彩》使ってたのに見つかったの?」
再度使い直してみるも、スキルは発動されている状態だった。
スキルは発動出来ても移動はほとんど出来ないので、逃げるのは諦めて路地の奥へと入り隠れることにした。
「っ、はぁ……はぁっ…………」
路地裏に入って1時間程、全く動けないままでいた。というのも、先程会ったセーラー服の少女に付けられたステータスの状態が無くならないのだ。正確には、効果時間が切れた途端状態を上書きを繰り返されている状態だった。
更に問題なのが外から聞こえる断末魔だ。最初は遠くだと分かっていたのだが、今はかなり近くから聞こえている。
「だ、っだいじょうぶ、なはず。見える訳無いんだから……。大丈夫大丈夫だいじょうぶ……」
「はぁっ……ここなら…………」
自己暗示で精神を落ち着けようとしていた時、路地裏へ誰かが逃げ込んできた。
「あら、それで撒けたつもりでしょうか?」
大丈夫、大丈夫、ライブラとはいえこれなら見つからないよね。……お願い、見つからないで……。
「いやあ゛あああっ!!??」
「あはっ! もっと苦しんで楽しませて?」
な、何あれ。これが本当に人間の所業なの!?
頭を抱えてうずくまりながら、横を見てライブラの様子を伺う。
そこにはライブラから何か長いものが伸び、それが女性の全身を何ヶ所も貫いている姿があった。
「…………っ」
だめだ、息を静かにしないと気付かれる……!
早く、早くどこか行って……
虐殺がすぐ隣で行われている中、ただひたすら脅威が去ることを祈り続けた――
「ふぅ。さて次は……」
やっと終わったのね……。こんなに時間が経つのが遅く感じるなんて。でも助かっ……
「次、あなたですね」
「あだぁぁっ!?」
頭に膝蹴りをされ、その拍子に横へ吹き飛んだ。
「なん……で」
「その程度で隠れたつもりなのでしたら甘いですね。……あら、良いじゃないですか」
髪を掴んで顔を持ち上げられて、ライブラと再び目が合った。
「ふふっ、始めましょうか」
「何……するつもりなの」
「1対1だけでやるのもつまらないですからね。面白いことですよ?」