表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/127

103:禁じられた領域

 テトラポッドの群れに近付くと、全ての個体が震え出しながら紫色の霧を噴射し始めた。そして、霧は瞬く間に立方体の全域に拡散する。群れの中心まで飛ぶ際に、霧が濃い所は《無形の瘴霧》で回避し、薄い所は気にせず通る。

 体の芯から震えるような感覚が襲うが、到底戦えなくなる程ではない。


 この震えが慟哭のせいなのか恐怖のせいなのかは知らないけど、その程度で3番目の『眷属』なの?



「これでよし、それじゃあ……」


 群れの中心に辿り着くと、テトラポッドの中心にある眼球目掛けてクロスボウでアルミの矢を放つ。

 だが傷のようなものは一切無く矢は弾かれた。


「ああもう……。見た目で判断するのは無意味だって……」

 さっきの異形……『冒涜』の時もだけど、見かけ上の弱点はほぼ無意味なんだよね。つまり考えるべきは相手の戦闘方法からもたらされる弱点か。

 異形が四肢を落とすのは、四肢を使って体を引きずり込むから。仮面が刺突なのは、あの形状への衝撃の伝わり方の問題なんだろうね、多分。


「だとすると、十中八九あのメガホンの中……だよね」


 今度は眼球ではなく周りのベージュのメガホンに向けて矢を放つ。


「効いて……る?」

 メガホン内部が黒い闇で奥が見えないから判断がつかないけど、見た感じ効いてなさそうかな。

 だとするなら……直でやるべきか。


 多少距離を取っている所から更に近付きメガホンの縁の上に乗る。『変幻自在』の刃を伸ばして中に突っ込むと、何かに突き刺さった感覚が手に届く。

 中を覗くと闇の奥の刃が全く見えなくなっていた。奥がどうなっているかには若干目を逸らしつつ、刃を伸ばし縮みしたり幅を調節したりすることで攻撃を図る。


「あっ」

 中で何か弾けた? それなら……。


 刃の可動域が突然広がったように感じ、刃を元の長さに戻して引き抜く。

 すると間も無く、メガホンが霧散して消滅して眼球だけが残される。


「これなら!」


 『極悪非道』に闇を纏わせ、ゆっくりと落ちていく眼球へ一目散に飛んでいく。

 眼球を手に持ち、刃を瞳の部分に突き刺すとあっさりと消滅した。


 なるほど、これでいいのね。倒し方は分かった。残りも同じように倒してしまおう。

 それにしても内部で刃を動かして思ったけど、どう考えても見かけの空間より明らかに広かったのは何だったんだろう……。


「まあいいか。次だ次」



 その後、4体目のテトラポッドと戦っている時、ある1つの違和感に気が付いた。


「何か……見られてない?」


 というのも、テトラポッドの中心にある眼球、正確には違うのだろうけど。それに一瞬たりとも目を離されていない気がしたのだ。

 1度周りを見回して、それから姿を消したり高速で移動したりした。だが、それでもこちらを見る目は離れなかった。


 さっきまでで分かった通り、目の形をしていようが目のように軟らかい訳ではないし、目そのものでは無いはず。それでもこちらを見るような動きをしているのは、何か意味がある気がしてならない。

 今は幸い耳の機能が完全に死んでいるので、集中して考えられる。


「今考えてみると、仮面も異形もずっと私を見てたよね」

 単に私に向かってきたとも考えられる。でも中心に眼球があるテトラポッドもこっちを見てる訳だから、その線は薄いか。瞳をこっちに向けずとも迫って来られる訳だし。


 相手の攻撃手段が叫び声と霧しか無いため、最早回避を考える必要も無い。今まで見聞きした『深淵』に関することを総動員して考える。



 深淵――闇属性の魔法の極点、深奥の領域。支配者――闇属性魔法、状態異常を司る存在。この場所、即ち不可侵領域――侵してはならない領域のこと。ここで死ぬと【侵食】を受ける。闇属性の使徒と眷属が存在し――


 しばらく考え続けて他愛も無い、自分では他愛も無いものだと思っていた1つの結論に至る。


「深淵は場所、支配者は生物として実在する……?」

 経典にあった書き方からして、両方とも資格とか概念的なものだと思ってた。だけど、実在するとしたら? ……あっ!!


 スキルの中の1つ、《沸騰する狂気》にあったある文字列の存在を思い出す。

 そこにあったのは『tfotf uif xjmm pg nbeoftt bsdipo』。訳すと『狂気の支配者の意志を感じる』となる。


 意志があるということは、ほぼ間違いなく生物かそれと同等のものだろう。

 1つ目の結論はこれを以て確定なものと位置づけた。


「ここからは完全に推測だけど……」

 深淵と支配者が実在するとなれば、支配者は深淵にいるものと考えるのはおかしくないと思う。そして、支配者が私に意志を抱いているということはつまり、深淵からこちらを見ていることになる。

 ならどうやって見ているのか。


「この『眷属』を通して見ている……とか」

 このテトラポッドとかフォルムが明らかに目だし、眷属自身が見てるんじゃなければ、他の何かが見ているということ。その()()が支配者なんじゃないかと考えた。

 最初の人形から今のテトラポッドまで、全部こちらを見ているような形態だし。


 後はこの不可侵領域も思うところはあるけど……


「流石に飛躍し過……」


――スキル《禁忌-遖√§繧峨l縺滄伜沺縺ォ隗ヲ繧後◆閠》を獲得しました――


 今までとは違う、歪んだ機械音声のようなアナウンスが流れる。最初と最後以外の文字は聞き取ることが出来なかった。



 その後すぐ、立方体の全ての面に無数の眼球が現れる。

 そして、見えるもの全ての色が反転した。


「――――え?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「――――え?」←激しく同意.... [一言] 気付いてしまったようだな.....やべえよやべえよ
[一言] 称号みたいなスキルですね
[一言] 遖√§繧峨l縺滄伜沺縺ォ隗ヲ繧後◆閠 禁じられた領域に魅入られた・・・かな? 深淵を覗くとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ、みたいな感じか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ