見ているだけの私
私はずっと高杉君のことを見てきました。
初めて高杉君を見たのは、高校の合格発表のときでした。
凍えるように寒く、空気が澄み切った日だったことを覚えています。
高杉君は、貼り出された受験番号を見て、友人と喜び合っていました。
そのときに見たとびきりの笑顔で、私は恋に落ちてしまいました。
周りには沢山の人がいたはずです。
でも、私の目には高杉君しか映ってはいませんでした。
正門から出ていって姿が見えなくなるまで、私はずっと高杉君を見ていたのです。
高杉君のことを考え続け、その日は興奮して寝付くことができませんでした。
それから3年が過ぎました。
私は高校での3年間、高杉君に話しかけることができませんでした。
高杉君を前にすると極度に緊張してしまって、話しかけるどころではありません。
バレンタインでチョコを渡すことも、当然ラブレターを渡すこともありませんでした。
3年間、ずっと見ていたのです。
高校で高杉君はサッカー部に入部しました。
中学の頃からサッカーをしていて、全国大会にも出場したことがあるのです。
チームメイトからの信頼も厚く、2年生ではキャプテンを任されるようになっていました。
サッカーをしているときの高杉君は本当にカッコイイのです。
部活を行いながら、ハンバーガーチェーン店でバイトも行っていました。
勤務態度はお店での模範となるくらいで、爽やかな笑顔を振りまき、他のバイト仲間からもお客さんからも高評価を得ていました。
バイトを辞めるときには、泣いてしまう人もいたくらいでした。
私も涙せずにはいられませんでした。
見ているだけの私でしたが、影ながらは応援していたんです。
サッカー部の練習は毎日見に行っていましたし、大会の応援にも欠かさず行きました。
バイトのシフトが入っている日には必ずお店に行きました。
休日で出かけるときには、必ず後を付いていきました。
サッカーの大会で高杉君に怪我をさせた相手選手のことを調べ、メールとLineと手紙で「高杉君に怪我させたこと、絶対に許さない」と100通程送っておきました。
バイト中の高杉君に意味のわからないクレームを付けた男のことを調べ、その男の妻、近所、会社にその男の不倫について詳細に報告しました。
嫌がっている高杉君にしつこく言い寄るクラスメートの女には、下駄箱、机、鞄、自宅へと「高杉君から離れなさい」という赤い文字で書いた手紙を約1か月間毎日送り続けました。
高杉家は、高杉君を含めて五人と1匹という家族構成です。
小さな会社を経営している父親、専業主婦の母親、大学生の兄、小学生の妹、アメリカンショートヘアの猫がいます。
高杉君は父を尊敬していましたが、無口な父に対してどう接して良いか悩んでいるようでした。
母のことは口うるさくて、ちょっと面倒に思っているようでした。
兄とは仲が良く、特にサッカーの話題で盛り上がることが多かったです。
妹を溺愛していますが、最近あまりに構いすぎてちょっと引かれてしまい、寂しそうにしていました。
ソファーでうたた寝をする際には、猫を自身のお腹に乗せるというのを習慣としていました。
高杉君は高校卒業後、上京して大学に通うために都内で一人暮らしをする予定です。
父の仕事を手伝うためだそうで、経営学部のある大学を選択していました。
一人暮らし用のアパートは3階建てで、高杉君の部屋は2階にあります。
私の部屋の真下です。
また同じ教室で授業を受け、こんなにも近くで高杉君を見続けることができるかと思うと、私は興奮して寝付くことができませんでした。
――私はこれからもずっと見ています、高杉君。
お読みいただき、ありがとうございました。
「つまらなければ★1つ」「楽しければ★5つ」など、下記での採点をクリックして頂けると幸いです。
感想もお待ちしております。