マフグ 〜テトロドトキシン〜
マフグの肝臓を食べてみた感想です。
まずはじめに「有毒生物」と聞いて思い浮かべる生物はどんなものがあるだろう?
時に人を死に至らしめる程の強烈な毒を持つスズメバチや、毒性の強さで有名なトリカブト、あるいは身近な存在と言える毒キノコなど、様々なものが出てくるだろう。
特に「食」に関わる毒物は深刻な健康被害をもたらし、法による規制すら入る場合もある。そのため、大抵の場合はそもそも入手不可能だったり、中毒したという知らせもニュースなどを通じての伝聞でしか聞こえてこない。
実際に食ったらどうなるのか?どのような症状が出るのか?といった所はまず体験することのない安全な世の中となった。
しかし、それではつまらない。折角生き物が生産している物質である。体験してこその生物屋なのではないだろうか?
そう思い、様々な有毒生物と出会う度に可能な限り食べてその毒を体験した綺談をここに綴ろうと思う。
ここに書くのはあくまで一体験談であり、個人の感想であるので人により受け取り方や毒への感受性は異なるということを頭に入れて貰いたい。
また、毒には「量の概念がある」ということも併記しておく。水や醤油も飲みすぎると毒であると考えるとイメージしやすいだろう。
〜マフグの肝臓〜
まずはマフグという生物について。
マフグは卵巣、肝臓、皮膚、腸にテトロドトキシンを溜め込む猛毒魚である。見た目は枯れ草色のフグで、胸ビレと背びれの付け根に黒い斑点模様がある為用意に見分けがつく。生息域はほぼ日本全国と言って差し支えないだろう。
今回入手した個体は函館の津軽海峡にて釣れた、25センチ程の個体である。
実は以前にも苫小牧で釣れたことがあり、その際は血抜きして持って帰っているが有毒部位は全て植木鉢の腐葉土に埋めて処理した。条例によりゴミとして廃棄できないという話を聞いたためである。
さて、折角の鮮度のいいマフグである。フグには血液が有毒な種も存在する上、産地により有毒部位が異なることもある。毒の強さは個体によっても異なる。まずは生臭さが移ることを防ぐためにもキッチリと血抜きをし、クーラーボックスで冷やして持ち帰ることとする。針から外す際にはその頑丈な歯には注意が必要である。
持ち帰ったマフグは内臓を出し、皮を剥ぐ。フグの仲間は靴下を脱がすように綺麗に皮が剥がれるので気持ちが良い。あとは頭を落としてしまえば身欠きフグの完成。皮にも毒が含まれるのでまな板の洗浄はこまめに行うこと。こうなるともう売られている姿と変わりない。
さて、身の方は通常のフグと同様にして食べることができる。しかし一般にイメージされるトラフグよりかは水っぽい。刺し身よりも火を通すことで旨味を引き出すことができるのでシンプルに塩焼きとしていただいた。
問題の肝である。
先も述べたように、フグの代表的な毒であるテトロドトキシンが含まれている。
しかし、フグの肝は仲間のカワハギの肝がそうであるように極めて美味でえるとして知られる。この毒は餌から摂取するものなので、無毒な餌を与え続けて完全養殖すれば食べられるものが仕上がる。その場合の無毒なフグは仲間に噛み付くなどの異常行動を示すようになるらしいが…。
話を戻そう。
毒には量の概念がある。少量なら致死或いは後遺症等の致命的なことにはならない。あくまで自己責任。安全な範囲で実食することとする。
肝のほんの一欠片、端っこの方だけを齧って口の中で転がし味わう。
これは確かに旨味の塊で、非常にコクがあり美味である!
毒さえ無ければ魚の肝が好きな人には直球ストライクで受け入れられそうな程に深い味わいであった。
しかし問題は口の中で味わっているその瞬間から起きていた。
舌先からじわじわと感覚が無くなっていくのだ。麻痺状態に陥ってきた。
食べたのはほんの僅かな量だが、ばっちりテトロドトキシンは機能しているようだ。
この時点で食べるのを止めた。
幸いにも舌先だけの麻痺で済み、症状もすぐに消えたが、小指の咲き程度の量でもここまで毒が含まれていることがわかるテトロドトキシン恐るべき。
やはり青酸カリの80倍とも言われる毒の実力は伊達ではなかった。
余談だが、テトロドトキシンを使うとトリカブトの毒を相殺できる。トリカブトは細胞内にあるナトリウムチャネルという部分の物質を受け取る側の蓋を開きっぱなしにしてしまうように作用する毒だ。それに対してテトロドトキシンはそこに蓋をしてしまうタイプの毒である。作用が真逆のため一応は相殺できることになっているが…どちらも毒性が強すぎる。毒と薬は紙一重というわけだ。
ふぐ特の中毒はそのほぼ全てが素人料理によるもので発生している。ドキドキしながら食べても美味しくないので、是非お店で安全なものを食べてほしい。フグの王様トラフグは皮も出してくれるお店があり、コラーゲン豊富で非常に美味。一見の価値有りである。
そんなわけで、フグは自分では捌かないようにと念を押して今回は終了したいと思う。
フグ毒って強烈なんですよ!食べすぎると呼吸困難に陥りますので、絶対にマネしないで下さい。
毒への感受性は個人によって異なりますので、同じ量でも強烈に作用することもあります。
「何かあったら病院」というのは自己責任とは言えませんので、病院は最終手段として可能な限り自己解決できるようスタンバイして行っています。
一度でも病院のお世話になるようなことがあれば即辞めます。
こんなアンダーグラウンドな作品誰が読むのかとは思いますが、自己満足のため暇なときに続き書きます。
次回はバイケイソウとかいかがでしょうか?