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08.市井で見つけた髪の毛

報告書と一緒に透明な袋に入った髪の毛を見せられた。


現状を維持する魔術が施されているので、切ったばかりの頃と変わらない手入れされた綺麗な輝きのある金髪は長く、ひと目見て貴族令嬢の物だとわかる。


レティシアの髪の毛は背中の真ん中あたりから毛先にかけて緩くウェーブがかかっており、その髪の毛が風に靡くと妖精の尻尾(フェアリーテイル)のように見えていた。


レティシア自身も、その髪の毛を気に入っており、セシルにも褒められていた。


だから、髪の毛を切った時にセシルに泣かれ自分に力も財力も地位もないから護ることができずレティシアに辛い思いをさせてしまったと何度も謝られた。


セシルはたまに、今の短い髪に触れ『綺麗だ』とはに噛みながら褒めてくれる。


髪の毛を切った時は、持ち金を全て追いかけてきた男達に渡した。自分たちの命と引き換えに彼らの人質の命を助けること、それと、生活するために必要なお金を渡して義家族から逃れさせるために。





ーーーー忘れたい昔の記憶が蘇る





「美しい髪だろう?」


「それは、ヴィクトリウス侯爵令嬢の物なのですか?」


「そうだ」


愛おしそうに眺めるジルクハルトは、本当にレティシアを愛しているかのように錯覚する。今、自分がレティシアだと名乗れば愛されるのだろうか。


「それと、レティシアの事をヴィクトリウス侯爵令嬢と言うな。あの腐ってしまった家名の人間ではない」


(腐ってしまった家名?)


「失礼しました。では、レティシア様と」


「それでいい。レオン、お前もだ」


「はい」


レティシアとセシルが逃げ出した後、あの家に何があったのか。腐ってしまった家名という事はあの悍しい事が王家に暴露ているのか。


「レティシアから属性は水だと聞いていたんだ。それが、このレティシアの髪からは光属性の魔術痕が確認できた。水属性で高度な魔術を使えば光魔術に類似させることができるから知られないために水だと話していたのだろうな。若しくは、一緒に行方不明になった弟が光属性か」


ジルクハルトの想定通り、間違えて光魔術を発動させた時に咄嗟に隠すには水の属性持ちとしておくことで誤魔化せる。現に、士官学校では水属性と申告して誤魔化している。


「弟の名前を伺っても?」


「セシル、だ。残念だが私は一度も顔を合わせた事がない。二つ下と聞いている」


「レティシア様とセシル様は社交界デビュー前に姿を消したので知り合いもいないのでしょう。なら、匿う友人もいませんよね」


「唯一、レティシアの知り合いがいるのは王城に勤務する者と私の友人だ。全て調べたがレティシアと懇意にしている者はいなかった。街を歩いていても容姿を知られていなければ容易く隠れられる」


逃げる時、社交界デビューをしておらず婚約者としてのお披露目も学園へ入学する前に行われることになっていたことに感謝した。


多くの貴族は噂でしかレティシアの容姿を知らない。セシルのことは『そういえば嫡男がいたはずだ』という程度でしか認識されていない。


子供達の事が話題にならないくらい、両親が亡くなった後のヴィクトリウス侯爵家は隠し切れない醜聞が続いていたから。


「この髪の毛がレティシア嬢の物で間違えなければ一年から二年は市井で生活できる資金を調達したことになる。で、髪の毛を短くしたことで私たちが知っているレティシア嬢と印象が大きく変わったはずだ。今、髪の短いレティシア嬢の十七歳を想像した絵姿を描かせている。平民なら髪の短い女性もいるから紛れ込みやすくなっているだろう」


レオンからするとクロードの提案した絵姿は余計なお世話だ。髪の毛が短いだけで、ついでに美化されて描かれるので、ごめん被りたい。



(あーーーー、もう!想像した姿とか描かなくていいからっ!やめて!恥ずかしいじゃない!でも、肩下位の長さで切って良かったわ。まさか、その後に男の子に見えるくらい短くしているなんて想像もできないでしょうね)



ふと、その髪の毛をどうするのか気になった。手掛かりがわかっても追跡まではできないだろう。売った場所から離れて暮らすと考えるのが普通だ。


「あの、その髪の毛はどうされるのですか?」


自分の髪の毛だ。行末が気になって仕方がない。


「考えていなかったな。私の私室にでも飾っておくのがいいだろう」


「髪の毛を飾るのですか?」


昨日からジルクハルトの性癖紛いのことに驚かされっぱなしだ。義妹のような庇護欲を唆る女性が好きなのかと思っていたが、男色のような行動、女性の髪の毛を飾る気持ちわる……いや、おかしな趣味。一体、どれが本当の彼の姿なのだろうか。思案したところで、付き合いの薄かったレティシアには解らない。


「飾り方によっては後ろ姿のように思えるかもしれんな」


「ジルクハルト、頭がおかしくなったと勘違いされるから飾るのはやめろ。せめて私室の何処か見えないところに置いておけ」


クロードの意見には賛成する。誰にも見られないだろう所に隠して、隠した事を忘れて欲しい。


どうしてだろう、この二日でジルクハルトが解らなくなった。この人は元々こうなのか、それともレティシアが行方不明になった事で頭がおかしくなったのか。


否、レティシアがいなくなってプライドが傷つけられたのか?


そうだ、そうでなければ、こんな奇怪な行動はしないはずだ。


「市井で髪の毛が売られていたので捜索範囲を変更する。市井での聞き込みと周辺都市へと広げることにした。それと地方の孤児院と教会も捜索対象とする。ただし、レティシア嬢も大掛かりな捜査をされるのは本意ではないでしょうから大々的には行いません。捜索していることに気づかれないようにします」


クロードは、何とも難しいことを言ってのける。大々的な捜索はしないが聞き込みをするとなると市井の住人になり、世間話で情報を収集しなければならない。


ジェイドは捜索チームと合流してから詳細な説明を受けることになった。



昨日付で近衛の二番隊への配属になったが、着ている制服は、当初、支給された紺色の警護班のものだ。


二番隊は黒にグレーの刺繍がされた専用の制服があり、これから支給するので着替えるようにと指示を受けるが近衛の詰所ではなく別の場所に用意しているという。


それも、ジェイドは捜索チームの部屋に、レオンは別室になるからジルクハルトに着いて行くようにと。嫌な予感がする。二番隊も詰所内に専用スペースがあり更衣室も用意されているのに、一体どこで。


着替えるなら更衣室で問題ないはずだが、クロードに指示されてジルクハルトの後を着いていくと執務室区域から離れ居住区内へと移動していた。奥にある階段を登る。


この階段は登ったことがある。レティシアが着替えるため、夜遅くまでいた時にあてがわれた部屋が三階にあった。でも今は四階、王族のプライベート区域だ。


「あの、どちらへ向かっているんですか?」


違っていて欲しいと心の底から願いながら確認する。


「…………」


ジルクハルトは何も答えず、ただ振り返ってレオンを見ると直ぐに前を向き直し歩を進める。


四階の最奥に到着した。扉の前には護衛が二人。一階にあった部屋や執務室とは違う重厚で大きな扉が目の前に。


護衛が扉を開けジルクハルトが中へと進むので、躊躇するが入るなとは言われていないので護衛に頭を下げて中へと進む。


明るい日差しの入った部屋には一級品の家具が揃えられている。


奥は衣装室か寝室へ続く扉だろうか。

ジルクハルトは足を止めることなく扉の奥へと姿を消した。



(えっと……これは気にせず後をついて行った方がいいのかしら?男同士と考えれば醜聞ではないだろうけど)



キョロキョロと部屋を見渡していると、奥にいるジルクハルトの声がした。

 

「おい、こっちに来い」


「は…はいっ」


手招きされたので慌てて奥の部屋へと向かうと寝室へと繋がっていた。その奥に、いくつか扉が見えるので衣装室や浴室へと繋がっているのだろう。


そこで渡されたのは近衛の二番隊の黒い制服、ジルクハルトを慕う騎士達の憧れの色ーーーーー

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