04.妖精の尻尾
お久しぶりです!
少しでもと思いアップしました。
ジルクハルトの専属護衛となる二番隊の制服は黒にグレーの刺繍が施されている。
毎年、配属者が必ずいる部隊ではないので用意されている騎士服にも限りがある。
レオンを専属の護衛として二番隊に配属させる。その決定を聞いたクロードは眉間に皺を寄せていた。
警護班に配属されたままでも問題はない。
が、
ジルクハルトの側に仕える『特別な騎士』であることを騎士団の人間や王城で働く貴族達に理解させるための最も良い方法であることをクロードへ伝える。
その二番隊の制服は数が少なくサイズにも限りがある。
一番小さいサイズを用意させたが、警護班から入手したレオンの採寸表と見比べると合わない。レオンのサイズの方が少し小さい。
直ぐにでも二番隊の制服を着たレオンを見たいジルクハルトは思案する。
(今すぐに動くことができて用意させるのに相応しい者たちは・・・)
準備が整うまでに他の貴族たちに知られないように、かつ、腕のある者を、と考えると限られる。
(相応しいのはやはり・・・)
指で合図を送り部屋の隅に控えていた侍従を呼びつける。
レティシア付きとなる針子の人数を確認し、そこから針子長に何日で用意が可能かを確認した。
一着なら数時間で、複数着なら数日、納品するのに日を分けてよければ出来た都度になる。ジルクハルトは確認して直ぐに針子達を執務室へと呼び採寸表を手渡した。
一着のみ本日中に昼にはジルクハルトの元へ届けるように、と。
お針子達は表情を変えず指示を受け取り場を後にする。
レティシア付きとなるお針子達は、今はジルクハルトの服の管理や夜会や茶会、制服の準備以外では大きな仕事を抱えていないこともあり、直ぐに動き出すことができた。
それでも昼までに騎士服を指定されたサイズで用意しなければならず、元の服から糸を解いたりと大忙しだ。
もちろん、二番隊の特徴的な刺繍の位置を変えずに、そのままでサイズダウンをしなければならない。針の入れ方次第では刺繍をやり直す必要があるのだ。
そんなお針子達の大変な思いをジルクハルトは知る由もない。
厨房ではお針子達とは違う慌ただしさだ。ジルクハルトの命により苺をふんだんに使ったケーキや菓子を用意している。
小さめのケーキを数種類とゼリーやマカロン、普通サイズのケーキに苺にチョコをかけたものなど種類豊富に用意するのに準備時間が足りない。
パティシエ達は厨房を右往左往しながら慌ただしく準備を進める。
侍女はジルクハルトの部屋を整え、いつでもティーセットを用意できるように隣の部屋へと準備する。
その日は珍しく朝から王城のレティシア付きとなる侍女とお針子が忙しくしていた。
ジルクハルトの些細な変化に気付いた貴族はおらず、侍女とお針子、厨房の人間だけが慌ただしくしていたのだ。
元々、ジルクハルトに専属の護衛をつける話は出ていたことから王城へ来ていた貴族も、その関係だろうと深く考えることはなかった。
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「ジルクハルトまで同じ試験を受ける必要はあるのか?」
途中、侍従や侍女へ指示を出し、合間に急ぎの書類を片付けながらジルクハルトはレオンと同じ試験を受けている。
どうしても同じ時間に同じ試験を受けたい、レオンだけに受けさせるのではなく主となる自分が受けることで難易度を把握できるからだ。
「執務に支障のない範囲だ。それにもうすぐ終わる」
報告をするために入室しているクロードがジルクハルトを待ちながら書類に目を通している。
カリカリカリと紙をペンが走る音が響く。
カチャ----
試験を終わらせたジルクハルトは湧きたつ湯気にかぐわしい紅茶の香りのするティーカップへ口をつける。口に含むとかぐわしい紅茶の香りが鼻腔を通り心の奥底から気持ちを和らげる。
たっぷりと淹れたミルクで口の中がまろやかだ。
幼い頃の茶会でミルクを注いで飲みティーカップから離れた口元が弧を描き綻ばせていたレティシアの顔が思い浮かぶ。
彼女の周りに春が来たかのように花が咲き誇ったような優しさを感じていた。
「それで?ここへ私の様子を見にきたわけではないのだろう?結果はどうだった?」
紅茶のかぐわしい香りを楽しむジルクハルトは、クロードにここへきた目的を確認する。
ジルクハルトが問うているのは昨日ジェイドからもたらされた髪の毛の鑑定結果だ。
クロードが手にしている布に包まれたモノに視線を移したジルクハルトは口の端を上げ楽しそうにしている。
「店主の言い値で買って来た。髪の毛を管理していた男は留守のようでね。女店主からは、男から言付かっていた言い値でなら渡せると言われてな」
「ほぅ?管理していた男の所在は?」
「髪の毛を売りに出してからは来てないそうだ。忙しいらしい」
男の所在や購入について簡単に説明しながらクロードはジルクハルトの机に布を広げる。布を広げると美しい金色の髪の毛が透明な袋に大切に仕舞われていた。
「で?」
男の所在など興味がないようで鑑定結果を促す。この髪の毛の主は誰なのか、どうして高値で取引されるのか、、、
「光属性の魔術痕が確認できた。それとレティシア嬢の髪の毛で間違いない」
やはり。と、ジルクハルトは嬉しくなる。
仮定が確信となる。
レティシアは生きている。
自分の髪を売って生き延びていた。
そして今、自分のところへ戻って来たのだ、と。
「ジルクハルト、それは流石にやめた方がいい。頼むから他の者の前ではするな」
クロードはため息を溢しジルクハルトが髪にキスをするのをやめるよう促す。いつの間にか透明な袋から出して髪の毛を撫でてもいる。
いくら現状維持の魔法がかけられていてもご令嬢の髪の毛だ。おかしくなったと思われても仕方ない行為だ。
「嬉しくてな。やっと私のところへ戻ってきたのかと思うと衝動を抑えきれなかった」
やれやれとクロードは溜息をついてから昼からの動きを確認する。
もうすぐ試験を終えたレオンが王城へ来る。
先に確認した結果は優秀でジルクハルトに侍ることが決まっている。
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