03.予想外の専属護衛
スローペースで頑張ります(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*
ジルクハルトはクロードや護衛班のヴィンスが待つ部屋へと足速に向かう。
薬の効果が切れて充分に身体を休めることができた。さらに、混入させた犯人の処罰も決まり騒がしくしていた貴族達を黙らせることもできた。
薬の効果が切れてすぐ、ジルクハルトの寝室へクロードが訪ね、学園在学中に専属の護衛をつけると話があったばかりだ。
既に選定までは終わっており、ジルクハルトが決めるだけだと言う。
国王陛下と宰相が承認済みであり、王太子であってもジルクハルトに拒否することは許されない。
決定事項とされており学園長にまで話が通っている。他の貴族と同様に護衛や侍従のいない学園生活を楽しみ、今しかできない経験を得る予定であった。
口煩くてもダメだが何も言わないのも護衛とは言えない。王城で過ごしているのと同じように護衛に護られながら過ごすしかないのだ。
ジルクハルトは下唇を噛み自分の不甲斐なさに憤る。あの瞬間、あの一瞬、もっと早くに媚薬の混入にさえ気づくことができていれば、あるいは、普段から毒の無効化を癖付けてさえいれば失態を未然に防ぐことができたのに、と。
豪奢な作りの扉に手をかけひと呼吸おく。扉の向こうにいるであろう護衛と逢うために。いつもより重く感じる扉は今のジルクハルトの気持ちのようだ。
だが扉を開けてすぐ、懐かしい香りを感じる。どこか甘く、それでいて懐かしく近寄るのも憚れる、そんな香り------
選定された護衛と思われる男が二人、壁際にいる。茶色の小柄な男は隣の男に促されたのだろう、慌てて頭を下げたのが視界に入った。
気には留めずクロードの方へ視線を移す。
「待たせたな。テストまで終わったか」
「はい。結果はこちらに」
護衛として任務するだけではない。学園への入学が必要だからテストをしていた。
文官試験並みのテスト内容にして実力を試している。
卒業して学生という身分ではない。今は騎士なのだから情勢まで把握していて当然のことだからだ。
クロードが採点済みの答案用紙と素行調査書をジルクハルトに手渡す。
ジェイドという男の点数は悪くない、少し不足していると感じるが問題ないだろう。
素行調査書も問題はない、そう判断したジルクハルトは、平民だと聞かされていたレオンの答案用紙を確認する。
(この筆跡の癖は......)
数年前によく目にしていた筆跡に似ている。そして自分より良い点数であることに驚く。
(平民では解けないはずの問題を正解している)
ジルクハルトは視線をゆっくりとジェイドとレオンへと向ける。その顔を見て驚いて目を大きく見開いてしまう。
コツコツコツーーーーーー
気づけば壁際にいたレオンと名乗る護衛を腕で囲っていた。下を向いていることで長いまつ毛が視界に入る。
鼻筋と唇、サラサラとした髪に甘い香り、その全てが懐かしく探し求めている人物、婚約者のレティシア・ヴィクトリウスではないかと錯覚する。
「おい、レオンと言ったな」
「は……はい!」
顔を上げたレオンと視線が交わる。ジルクハルトと目があったことで慌てたレオンが視線を彷徨わせている。ほんの少しだけ頬が赤くなっているのは熱があるのだろうか。
体調は大丈夫なのか、心配になり顔を覗くと次は怯えたような表情を見せる。
なんだろう、小動物を追い詰めたような気持ちだ。
「あ……あのっ」
怯えているレオンに愛おしさを感じる。男であり騎士である目の前の人物はレティシアではない。と、ジルクハルトは自分に言い聞かせる。
「お前、女か?」
だが確認せずにはいられなかった。そうであって欲しいと願ってしまう。
恐らく幾度となく問われたことがあるだろう質問をする。
女顔で華奢な身体つき、護衛服の上からでもわかる線の細さが女だと思わせる。
「い……お……男です!女顔でよく揶揄われますが私は男です!」
男にしては高めの声、レティシアの声によく似ている。あの美しい声を聞き間違えるはずがない。
婚約者として王城へと来ていた頃でさえ、レティシアにこれ程までに近づいたことはあっただろうか。
美しすぎて近寄ることができない、触れることは許されないのではないかと感じていた。
いま、目の前に、レティシアに似ている女神がいる。
「私の愛している女によく似ている」
他の誰にも聞こえないようレオンにだけ聞こえるように耳元で囁く。いま、いま、この瞬間、この一番近い距離で、この距離で伝えたい、『愛している』と。
レティシアに伝えることができず後悔していた言葉を、今、婚約者と見間違うほど似ている男に伝える。
少しばかり周りが見えていなかった。周りの目など気にならないくらい、レオンに惹かれていた。
「ジルクハルト殿下、発言の許可をいただけますか」
隣に立ち動揺しているがレオンを助けるべくジェイドが発言の許可を求めた。
この男はレオンのことをどこまで知っているのか。
「許可する」
「ありがとうございます。レオンとは士官学校の同期生です。彼が男であることは間違いありません。あの、その……よく、男に誘われる顔ではありますし襲われて逃げる際に相手を返り討ちにしています」
恐らくだがジェイドはレオンのことを男友達と認識し疑うことはないのだろう。
確かに華奢だが『男』であると紹介されたら疑わない。
身体の線は細いが服の上からは全くと言っていいほど胸があるように感じられない。
もしかしたら本当に男かもしれない。ジルクハルトはレオンが男であるという考えを残したままにする。
「ほぅ、男色が好む顔とは違うのだがな」
ジルクハルトは自分の行動が男色を疑わせるものであったことに気づく。
「男の癖に妙に色香があるので女好きの男に連れ込まれそうになることが多いようです」
「ふむ、それは私もそうだと言っているように聞こえるが」
「めっ……滅相もございません!ジルクハルト殿下のことではございません」
「まぁいい。ジェイドと言ったな。レオンのことで調書に記載されていないだろう士官学校での事を話せ」
可能な限りレオンのことを知り情報を集める。自分が男色に目覚めたかもしれない可能性を考えての行動だ。
ジェイドから聞く話は知らない一面を見るようでジルクハルトは嫉妬心を抱いた。
自分が知らない、この出会いがなければ知ることすらなかったことをジェイドは思い出を語るように、楽しそうに話している。
隣に立つレオンが遠くを見ているように感じたのはジルクハルトだけだろう。
だがレオンの瞳も嫌悪よりも楽しかったであろう思い出を見つめているようでもある。
ジェイドの話からレオンが毒に耐性があるとわかった。
クロードも毒の耐性があることは知らなかったようで驚いている。その耐性を知ればラウルが興味を持つに違いない。
試しに媚薬の瓶を渡し飲ませてみると驚いた、一本全て飲んだのに媚薬が無効化されている。
数日前に媚薬が混入した紅茶を飲み苦しんだ自分とは違い、アッサリと飲み干してみせたレオンに強い興味を抱く。
例えそれが、レティシアではなくても、毒の耐性がある騎士は貴重だ。
魔術師ならば毒を無効化させることは容易だろうが、騎士と同様に護衛の任に就かせるのは難しい。
この男ならば、レオンならば自分の側においておいても能力的に問題はなく、男であるということで貴族達が難色を示すことはないだろう。
側においておける理由を手にしたことでジルクハルトは専属の護衛をレオンに決める。
仲が良いであろうジェイドは捜索チームに引き入れておくことでレオンの気晴らしの相手になるだろう。
もしレオンがレティシアならば弟とも接点があるはずだ。よく知っている人間が側にいることで互いに安心できるはずだとジルクハルトは考えたのだ。
敢えてレオンのいる場所で捜索チームの業務内容を伝える。ここで何が行われているのかは知っておくべきだからだ。
罪を見逃していない、これから追い詰めることを知っておいて欲しい。例えレオンが男だとしても。
ジェイドに行方不明である令嬢の名を問われる。恐らくレティシアは生きていれば自分との婚約は解消されたと考えているはずだ。
一国の王太子が行方不明の令嬢を婚約者としているのは前代未聞だ。
早くしなければ年頃の見合う令嬢達が今の婚約者と婚姻してしまうからだ。
だからジルクハルトは婚約者のままであると告げる。レティシアに伝えるかのように。
「レティ、レティシア・ヴィクトリウス、私の愛する婚約者だ」
今もまだ婚約者であること、誰にも譲らないし隣に並び立つのはレティシアだけだと告げる。
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