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07.護衛が必要な理由

クロードの説明では、食堂へ行き、いつも通り注文をして届いた物を食べ紅茶を飲んだ時にジルクハルトの様子が変わった事に気づき、直ぐに食堂を離れ馬車に乗り込み王城へと帰宅した。


食堂に残り近衛騎士と現場を確認した魔術師団長を務めている伯爵家の嫡男であるラウルが飲み物に媚薬が混入されていることを特定し、ジルクハルトの様子からも媚薬を口にしたと判断された。


「えっと……えぇっ?!あっ……失礼しました」


今、自分の目の前にいるジルクハルトが媚薬が混入した飲み物を口にした?!


レオンのように媚薬や毒物を無効化させるためには水魔術の陣を使い、かつ、口にしてから発動までに僅かな時間差が出来ることから薬物への耐性を付ける必要がある。



ーーーー高度な術式が使いこなせれば水魔術だけでも無効化は可能だ。



恐らくジルクハルトは光魔術で中和させようとしたが失敗したのだろう。成功させるためには、口に含む前に陣を展開して含んでから発動させる必要がある。それは、薬物が混入していることを前提に生活して無意識レベルで魔術を発動させる癖を付けておかなければならない。


「情けないが、私は薬物を中和する魔術の発動を正確に行えなかった。唯一、苦手とする魔術であるから、今後も魔術を使って回避することは難しいだろう」


また、婚約者の意外な一面を知る事になった。誰よりも才能があり努力をしているジルクハルトにも苦手とすることがあったのだ。


「その日は身体の熱を発散させるのに苦労した」


混入した媚薬の量と本人の耐性によって効果の持続時間が異なる。男が媚薬を摂取した際は、大抵、女を相手にして何度か精を吐き出せば解消される。人によっては朝までかかる場合もあるようだが、元々の精力差もあるのだろうと、セシルが話していたのを思い出した。


「あの、女性を相手にされなかったのですか?」


ジェイドも同じ考えなのだろう。女の身体を使えば時間をかけずに熱を発散できる。


「愛しい婚約者がいるのに好きでもない女を相手にする訳ないだろ」


「そ……れは、お辛かったと推察します。度々の不躾な問いをお赦しください」


「気にしていない、知りたいのなら答えておくべきだからな」


「犯人は見つかったのですか?」


「全て捕らえて処罰した。王族に薬物を盛ったのだから、それ相応の処分だ」


王族に薬物を盛った相応の処分なら、その犯人の命はないのだろう。貴族であれば取り潰され家族も処分または幽閉が妥当だ。


「それで、ジルクハルトには護衛をつける事になった。もちろん、学園で口にする物は全て毒味してもらう。単に近衛をつける予定だったが、授業や学園内でのイベント等では友人でないと護衛が難しいと判断される場面が多くあるから入学して側についてもらう事になった」


学園で催されるイベントで単に後ろにつくだけの護衛では細かい気配りは難しいと判断したのだろう。

近衛だと年上になり子供達の楽しみを邪魔しないようにといった配慮や遠慮が生まれる。その点、同い年の友人であれば隣で護り盾になることが可能だ。


「では、私は食事や飲み物の毒味も担当するのですね」


「そうだ。ジルクハルトが口にする物は全てだ。レオンが差し出した物以外、ジルクハルトは口にしない。それと、今回の護衛の任に就くことでレオンは近衛の二番隊に所属する事になる」


近衛の二番隊はジルクハルト直轄の騎士だ。高位貴族の箔付けの騎士ではなく実力で選ばれた少数精鋭で構成され、二番隊への入隊は憧れであり誇りでもある。


「私が二番隊ですかっ?!それは……不相応すぎます」


「私が決めたことだ。拒否は赦さない。レオン、お前は私に仕える事が決定したのだから諦めろ」


「…………ありがたき幸せに存じます。この命を投げ打ってでも貴方の命をお護りいたします」


ジルクハルト王太子殿下の命を護るために、しいては、未来の国王を護ることが使命であり騎士としての誇りーーーーそう思い誓いの言葉を告げるが、本人の意ではないようだ。


「私を護るなら死ぬな。生きて護り抜け」


死ねない、護るために生きることは容易くない。人は簡単に死ぬ。でも、それが命令なら受け入れるしかない。


「はい、生きて貴方をお護りします」


レオンの言葉を聞きクツクツと笑っている顔は満足気だ。

この人はこんなにも表情が豊かだったのか。いや、義妹の前でも笑顔を見せていたのだから知らなかったのはレティシアだけだったのかもしれない。


今回の学園への入学兼護衛は近衛の勤務とみなされる事になり入学金と授業料、その他の諸経費は全て王家が負担する。制服も食事代も全てタダ!


諦めていた学園にタダで通える。それが男としてでも正直に言えば嬉しい。護衛が主な任務になるので小説にあるような学園生活は無理かもしれないが、その空気を、学友達の楽しそうな雰囲気を感じる事ができる。


ジルクハルトの側に仕えることは女と暴露る可能性が高くなるが一年半の辛抱だ。近衛の二番隊は給金が高いので思っている以上に貯金ができ、セシルが学園へ通っても卒業後に少しは蓄えを残せそうだ。



(警護班の初任給の二倍以上!毒味係で死ぬ可能性もあるから高めにしてくれたのかしら。たまには奮発したご飯も食べられそうだわ。学園での食事も楽しみ!ケーキとか食べられるかしら)



市井で暮らしてからは大好きな甘い物を食べていない。流行りのお菓子も手の届かない値段で、いつも店の前を通り過ぎるだけだった。



(い……苺とか食べられると嬉しいのだけど)



幼い頃から大好きな苺は久しく口にしていない。甘酸っぱい味も遠い思い出で美化されているのかもしれない程、手に入れる事ができない高級品だ。


「レオン、聞いているのか?」


「あ、はい、すいません」


妄想していたことを悟られないように意識を戻すとクロードが二番隊について説明している途中だった。


レオンは気付いていないが、妄想しているときの様子を微笑みながらジルクハルトは見つめていた。


「で、給金は近衛入隊の三年目と同額を支給する。五日後から学園が始まるから、直ぐに任務に就くことになる。それと、拘束時間が長くなるのと代わりがいないこと、学園では高成績を維持してもらう必要があるから高めの給金を出すことになった」


「さ……三年目の方と同額っ?!いや、高すぎませんか?!」


「レオン、受け取るんだ。私の護衛の他にも執務中は侍従としての仕事もある。状況によっては私の私室での世話役も頼む事になるからな。今後は侍女を付けないことになったから、他の侍従が勤務から外れている時はレオンが代わりを務めるんだ」


護衛以外の職務内容は全く知らされていないことだ。思わず不躾に『はいぃ??』と言いそうになり口を手で覆い言葉を殺す。


「なに、夜伽の相手をしろとは言わん」


「…………??はい?!あの、ジルクハルト殿下、今、なんと?」


「夜伽の相手をしろとは言わんから安心しろ」


「…………失礼ですが夜伽の相手が必要な時は早めに仰っていただければ女性をご用意します」


「ふむ。男を相手にしてみるのもいいかもしれんな」


「…………では、早めに仰っていただければ男性をご用意します」


「その必要はない。男が必要なら適当に見繕う。もっとも、一番身近にいる奴に手を出すのが手間がなくていいからな」


「あの、やはり辺境に飛ばしていただけると助かります」


「冗談だ」


「ジルクハルト殿下の冗談は笑えません」


「お前、私が王太子だと言うことを忘れていないか?」


「最上級の敬意を払っております!!ですが、笑えないものは笑えません」


ジルクハルトとレオンのやり取りを見てクロードは安心しているが、ジェイドは不敬罪に問われるのではとハラハラしている。


ジルクハルトは『気に入った、面白い奴だな』とクツクツ笑ってい、その顔は少年のようだ。


卒業したばかりの騎士を護衛につけることはクロードの発案だ。

年齢が近く他の貴族の手に染まっておらず上下関係が身に染みついていない者であれば軽口を言い合える関係性が築けるからだ。


心から信用のおける者をジルクハルトの側に付けるために、そして、何の疑いも持たずに命を差し出せる純粋さが必要だった。


ジェイドも二番隊への所属となり、ジルクハルトのために市井で平民に紛れて情報を得たり文官に成り済まして王城内の監視の任務が与えられた。


「そうだ、午前中に購入した髪の魔術鑑定の報告書が届いている」



(あぁ、買ってしまったんですね。私の髪の毛…………)



レティシアは心の中でゴチた。

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