SS10.魔道士ジンの一目惚れ
昨日のお話の少し前の出来事です。
とても短いです!
庭園の花を手入れするために王城へ足を踏み入れることが許された。
庭師のじーさんが腰を痛めて弟子だけでは足りないから、と、俺に声をかけてきた。
俺が幼い頃からの付き合いで気にかけてくれていて『一生に一度だからお前も王城の庭園へ来い。なに、俺の面倒を見るためだと言えば大丈夫だ。人はな、良いものを見ておくことで騙されなくなるんだ』と、少しでも俺の世界を広げるために、経験を積ませたいと、その良心から誘ってくれた。
じーさんは長い年月をかけて信頼を得て王城への立ち入りを許された稀な庭師だ。
貴族達に見向きもされなかってが王妃様がご存命の際に、じーさんが手入れした庭を気に入って、それから何度か手入れした庭園を視察して会話を重ねて信頼を得て王城へ立ち入ることが許された。
「すげぇ薔薇園だな」
じーさんに付き添って王城の薔薇園に足を踏み入れる。色とりどりの薔薇が咲き誇り、香りだけではなく目でも楽しめせてくれる。
弟子が庭園の薔薇や花を手入れしているのを眺めながら、俺は王城を眺めた。
威厳が感じられる白亜の城。
多くの貴族が仕え、国の行く末を決めている場所、と、感じて直ぐに笑ってしまう。
大層なことをしているように平民達には見えているが、実際には、自身の権力や財を得るために貴族同士が馬鹿しあい、王族に取り入ろうとしている魔窟だ。
現国王は何とか次代を繋いだつもりだろうが、繋ぎ方が不味かった。
オースティン侯爵家の手の者を王家へ迎え入れた時点で、いずれは民に見放されるだろうと理解していたはずだ。
早々に家から出て自由の身になって良かったと、ジンは思いに耽る。
じーさんの作業指示を聞きながら、移動する際には隣で補助をして身体を支える。
休憩時間は王城から出された茶と菓子を食べたが、美味い。
昔、子供の頃に食べた味を思い出す。
貴族が好みそうな上品な味だ。
今日はジルクハルト殿下の婚約者が妃教育のために登城しているらしい。
苺が使われた菓子は婚約者のために作られたようだ。婚約者の嬢ちゃんが、素敵な庭に手入れしてくれている庭師にも振る舞いたいと言い、俺たちにもお零れがまわってきた。
優しい嬢ちゃんなんだろうけど、世間知らずなんだろう。平民からの支持を得るためかもしれねぇが、俺たちみたいなのは茶菓子くらいじゃ心は動かない。
「ねぇねぇ、貴方が庭師さん?」
じーさんが俺から離れて弟子に支持を出している間、一人で庭園を眺めていると綺麗な金髪の少女に声をかけられた。
「あん?」
「庭師さん、いつも綺麗にしてくれてありがとうございます」
にっこりと首を傾げて微笑んだ少女は綺麗な瞳をしていた。澄んだ翡翠色で透き通っている。この世の汚れなど知らないかのように。
でも、違和感、、、、
この世の汚れなど知らないかのような瞳をしているのに、魔力には『諦め』が感じられる。
俺が反応を返せずにいると『忙しいのにごめんね。ありがとう』と言葉を残して離れて行った。
後から聞いた話では、あの少女が王太子の婚約者らしい。
澄んだ綺麗な瞳、その瞳に魅入ってしまった自分が情けない。
それから聞く彼女の噂は素晴らしいものだった。未来の王太子妃として相応しい、その一言に尽きる。
だが俺は、彼女の哀しみを感じた。
内情を探れば直ぐに調べがついた。
そう、か、、、、
彼女もまた、大人達に傷つけられて一人、か。貴族達の、オースティン侯爵家の思惑により傷つけられてた少女。
王子様が幼すぎた。
もう少し年齢を重ねれば、直ぐにでも彼女を救えただろうに。
裏の世界では魔道士として名を馳せ、弟子入り志願者達が後をたたないジンは、一度だけ声をかけた一人の少女の未来を案じた。
あの時の出会いが、のちに彼女を救う手助けとなることを知らなかった。
それから少し経って王太子の婚約者が行方不明になった。
その少女は俺の前に姿を現し髪の毛を売り市井へと姿を消した。
聖属性が珍しかった。
それもあるが、きっと俺は彼女の瞳に惚れたんだ。
汚い貴族達の思惑から彼女を逃したかった。ただそれだけだ。それに、面白そう、そう感じただけの話し。