SS07.王都護衛班ヴィンスの独白2
慌てて作りました!
ある日突然にレティシア様の捜索が打ち切られた。
正確には、俺には捜索の任が降りたままだが現場の者達には別の任務が与えられた。
あの火災の犯人達の裏を探ること。
怪しい者がいないか王都を見廻ること、だ。
あれだ、普通の王都護衛班の任務だ。
だがそこで違うのは、再度身元を調べられる、問題ないと判断された者が王城内の警備に就いたこと。馬車の護衛の任に着いたこと、だ。
通常、近衛の行う任務だが、生憎近衛も人手不足で馬車護衛などは近衛と護衛班の者が担当することになったのだ。
そしてジェイドは二番隊へと配属になり、ジルクハルト殿下の側に仕えることになった。
うむ、ジルクハルト殿下はジェイドも許容範囲か。いや、違うか。
ある日、やはり、というべきなのか、ジルクハルト殿下とレオンのよからぬ噂を耳にした。
春を訪れる夜会でパートナーに選ばれたのはレオンらしい。ジルクハルト殿下はレオンを寵愛している、と、貴族達が噂していた。
そう、その噂のせいだ。
俺はさらに侍女とお針子から睨まれるようになったんだ。
やめてくれ。
そんなつもりではなかった。
顔だって知らなかったんだ。
ただ、レオンの調査書だけを読んで決めたんだ。
平民なのに優秀だし……いや、そりゃぁ、今後のために立派な職歴を残してあげたいなぁとは思ったが、決してジルクハルト殿下の相手をさせるわけではない。
…………俺、次の仕事見つかるかな
…………それとも牢獄行きかな
妻と息子と娘には何と説明したらいいんだ。
きっとジルクハルト殿下が男色に目覚めたことは極秘事項になる。そうなれば説明できないまま、違う罪で牢獄行きになるのだろう。
妻よ、愛している。
そうだ、そうだ、な。
愛を伝えよう。
昔は素直に言葉にしていたが、今は気恥ずかしくて言葉にしていない。
うん、後悔しないためにも言葉は大切だ。
いつ牢獄へ行くことになっても愛情だけは残していける。
ある日突然、レオンが火災で家を失った知らせがジルクハルト殿下の元に届いた。その日の俺は王城内の警備担当者の任務表を作成していた。残業していたんだよ、チクショウ。
ジルクハルト殿下宛に手紙が届いたと知れたのは、俺へも手紙が届いたからだ。
火災についての詳細と怪しい人物について、だ。
俺は知らせを聞いてすぐに部下数名を連れて現場へ行くとジェイドに出会した。詳細を報告させて、近辺の状況把握と現場の確認を。
レオンの住んでいた家は全焼した。
ここで弟と二人で暮らしていたのに、何故、命を狙われる必要があったのか。ただの平民の命を狙う理由など、ジルクハルト殿下に痛手を負わせるためとしか考えられない!
ジェイドの話ではレオンと弟はジルクハルト殿下の配慮で王城に部屋が与えられるらしい。
専属の護衛なら部屋を持つことはよくある。
だが話に聞くと弟の魔力属性が光だと言うではないか。
そうか、狙いは弟だったのか。
確かに光の属性者がジルクハルト殿下の側にいるとオースティン侯爵家としては面白くない。
狙いが弟だったのなら、その弟が関わった者が狙われる。人質、というやつだ。
急ぎ、弟の身辺を調査して立ち寄る場所や友人を調べあげた。
修道院や孤児院にはよく顔を出していたらしい。調べると怪しい奴が彷徨いていることもわかり警備を厳重にし見廻りを増やした。
その甲斐あって、怪しい男を二人捕らえることができた。近衛の四番隊が尋問することになり、その後、二人の男がどうなったかは知らない。
何事もなかったかのようにレティシア様の情報を集めるだけの日々が続いた。
そうした日々の中、ジルクハルト殿下の卒業式を迎えることになった。
この日は王都の警備はいつもより厳重になり、学園内は近衛、外にはジルクハルト殿下が選んだ護衛班の人員が警護にあたった。
かくいう俺も王都内の巡回を担当した。
いや、動いていないと考え込んでしまうからな。
もしも、だ、ジルクハルト殿下の婚約者がナタニエル伯爵令嬢になんてなると面倒だ。
うちはナタニエル伯爵家と敵対している家系だし身分は下だ。
これまたマズイ。
俺はレティシア様を捜索を担当していた。
ナタニエル伯爵家に知られている。
彼女が王太子妃になった暁には解雇されるだろう。
…………レティシア様が見つからない限り俺の首は物理的に飛ぶ可能性が高い
…………物理的に飛ばない場合は職を失う可能性が高い
見廻りをしながら自分の保身ばかり考えてしまっていた。いや、前から、か。
それよりもレオンの立場を守らねば。
ナタニエル伯爵家に嫌われているのは明らかだ。もちろん、オースティン侯爵家からも。
よし、何かあれば俺がレオンを引き受けよう。弟のことも、俺が何とかしてやる!
そんなことを考えていた自分が恥ずかしい、そう思ったのは翌日の昼過ぎだった。
ジルクハルト殿下の執務室へと呼ばれて伺うと、そこにはレオンに良く似た女性がいた。
レティシア様だ、と紹介された。
それから、だ、怒涛のように情報を伝えられ、俺は改めてジルクハルト殿下に忠誠を誓いレオン時代の頃を口外しない、何か聞かれたらジルクハルト殿下に教えられた通り答えることになった。
そして、物凄い感謝された。
『レオンを選んでくれてありがとう』
王族に感謝されたのだ。
厳しい条件から選んだのは偶然にもレオンとして生活していたレティシア様だったのだ。
あの時、レオンを選ばず三番目の候補者である伯爵家の次男を推薦していたら……ジルクハルト殿下はレティシア様を見つけ出すのが一年は遅れていただろう、と。
俺はレオン時代のレティシア様にお詫びした。野郎扱いをしていたからだ。
それでも温かく受け入れてくださったレティシア様はレオンの頃と変わりなく気安くて優しい方だ。
で、俺は首が飛ばずに済んだ。
それに、内密に報奨金が与えられた。
長期休暇も与えられて妻と息子と娘と旅行もできた。
しかも、フロレンツ公爵家がお礼に、と、旅行用の一級品の馬車と従者を貸してくださったのだ。
破格の待遇に恐縮したがジルクハルト殿下から受け取るようにとのご命令だ。
ありがたく頂戴し、初めての家族孝行をした。
レティシア様が見つかってよかった。
いや、レオンがレティシア様で良かった!!
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番外編が準備できるまでは、番外編になりきれないのを小話として更新します!
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→一目惚れされて逃げる侯爵令嬢と追いかける王太子の話し