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SS06.デザイナーのニックは歓喜する

本編に一度も出てこないデザイナーの話しです。

内密に、というお話で王城のジルクハルト殿下の私室に呼ばれたのは初めてのことでした。


私は無名のデザイナーです。

弟子が数名おりますが、細々とした経営をしております。


数年前、レティシア様と婚約されたジルクハルト殿下はドレスをオーダーするために数名のデザイナーを呼び、その中から気に入ったデザインを選ばれました。


そのドレスのデザインが、私のものだったのです。


それから何度も、レティシア様にお贈りするドレスのデザインを担当させていただきました。



夜空を模したドレスをデザインしたのは、ヴォルフラム王国では私が初めてでした。レティシア様へお贈りするドレスのデザインを打ち合わせていた際に、ジルクハルト殿下より『自分の髪色をドレスにすることはできるだろうか』と相談された際は、正直に言うと困りました。


ジルクハルト殿下の髪色は黒、漆黒なのです。


漆黒のドレスは喪に服している際にしか着用いたしません。

ですから、黒を使ったドレスの種類は大変少なくデザインする者も喪に服しているイメージをするのです。




ジルクハルト殿下のレティシア様に対する愛情を表現するためにも、他の男性がしているように自身の色を使ったドレスを贈っていただくためにも、素晴らしい黒色のドレスをデザインせねばなりません。




数日いただいてから持ち込んだデザインと素材を見せ説明をすると満足いただけ、作り上げたドレスは素晴らしいものになりました。


青から紺、黒へとグラデーションさせ、星に見立てたダイヤモンドを散りばめたドレスは美しいものになりました。


レティシア様が着用した姿を拝見させていただきましたが、それはもう、息を吸うのも忘れるほど美しく闇夜に舞い降りた女神のようでした。



もちろん、ジルクハルト殿下にも満足いただけ、それ以降も贔屓にしていただいております。



王族には正妃様がいらっしゃいませんし、側妃様はドレスを作ることはあまりありません。


ジルクハルト殿下の服も、もちろん担当させていただいておりますが、お二人が社交界へデビューしましたら、我がブランドの名前も知れ渡る、と、期待しておりました。


しかしながらレティシア様が行方不明になられたと伺い、社交界デビュー用のドレスを担当させていただくことができませんでした。残念でなりません。


その時のジルクハルト殿下の微笑みは哀しそうでございました。



我がブランドの名が貴族達に知られることもなく、仕事も増えない、そんな日々を過ごしておりました。


その間もジルクハルト殿下の服は担当させていただいておりましたが、やはり、女性者の方が実入りが多いのでございます。


この先、いつ、王太子妃のドレスを担当させていただけるのか、と、不安になっておりました。


しかしながら、年終わりの夜会が終わってから内密に、と、ジルクハルト殿下の私室へお呼びいただいたのです。


そこで知らされたのはレティシア様がご存命であり、春を訪れる夜会に参加されるということでした。


ただし、それを知るのはジルクハルト殿下のみ。私はドレスをデザインするために、お相手を教えていただけたのです。


感極まりました。

行方不明になられて数年が経っておりましたが、お元気とのことです。


現在のレティシア様は貴族の女性にしては珍しく、訳あって髪の毛を短くされているそうです。


ジルクハルト殿下は採寸表を預けてくださいました。プロが採寸したであろうものは、細かく記載されており、今のレティシア様を容易く想像することができました。


とても女性らしい身体付きなのだ、と、想像したのですが…………不敬ですね。

コホン。



その日から三日間、徹夜でした。

久しぶりにレティシア様のドレスをデザインするのです。


溢れるほどのデザインを描き続けました。

ジルクハルト殿下からレティシア様への愛を伝えるためのドレス。

きっとこの日を待ち望んでいたはずです。



ジルクハルト殿下の溢れるばかりの愛情を、私のような一介のデザイナーが、その推し量ることのできない愛を表現しなければならないのです。


三日三晩、描き続けました。

そして幼い頃にジルクハルト殿下からレティシア様へと贈られたドレスを思い出し、今のサイズに変えて描き直してみたりと試行錯誤を繰り返したのです。


春なので淡い色を希望されていました。

ですが、ジルクハルト殿下はご自身の色を使う事を希望されたのです。


春の訪れを祝う夜会では、黄色やピンク、水色など淡い色や鮮やかな色が好まれます。


そんな中でも一際目立つ色を纏わせジルクハルト殿下の唯一の想い人だと皆に知らしめる必要があります。




ジルクハルト殿下の色は紫と黒。




淡い紫色なら華を散らすことで春らしくなるでしょう。


そうした中に黒薔薇の刺繍をあしらう。

…………ありきたりだ。そんなありきたりなデザインでジルクハルト殿下が納得するはずがない。


描き直しては紙を捨て、を、繰り返す。


三日経って突如にして降り注いだのは『執着』



そう、数年もの間ずっと諦めずにレティシア様を探し続けたジルクハルト殿下。

どれ程の執念だったことか……!!

それは執着があったからこそ!!!


もう手離さない、この女性は自分のものだ、と、知らしめるのに相応しいのは巻き付くような蔓!!!



そうだ、簡単なことではないか。

幼い頃にジルクハルト殿下がお贈りしたドレスにも蔓薔薇を模していたではないか。


数枚のデザインを提出していたが、ジルクハルト殿下が選ぶのは蔓薔薇が使われたデザインだったのだ。




ならば簡単だ。




逃がさない、そのジルクハルト殿下の想いを蔓で表現すればいい。



レティシア様の腰や括れ周りに蔓を巻きつけジルクハルト殿下の執着を表現する。

紫色のドレスに巻き付く黒い蔓薔薇は刺刺しいが黒にダイヤモンドを散りばめ黒いレースを使い毒を抜く。


レティシア様の全てがジルクハルト殿下のものである、と、見せつけるように。



そうだ、首には黒いレースを使ったチョーカーを付けてもらおう。大きなダイヤモンドを使えば映える。



イメージが溢れる!!

そこからは驚くくらいデザインが浮かぶ。

三枚の候補が出来上がりジルクハルト殿下へ謁見を求めると、その日のうちにお逢いすることが出来た。


本命の一枚のデザインに私は『執着の塊』と名を付けている。ジルクハルト殿下には『溢れるばかりの愛』と告げたが。


三枚のデザイン画を見比べてジルクハルト殿下が選んだのは……






ーーーー執着の塊






やはり。

ジルクハルト殿下のレティシア様への愛は重い。



そうして完成したドレスは紫色でグラデーションし、腰から胸元へかけて蔓薔薇をあしらった。


バックスタイルにはドレスの間に同じ紫色の薔薇のモチーフを詰め込んだ。沢山の薔薇のモチーフが溢れているがダンスの時に邪魔にならない重さにしたことで、踊った際に揺れると華の妖精が舞っているように見える筈だ。



レティシア様にお逢い出来たのは卒業式が終わった翌日だ。


ドレスの調整のためと呼ばれて王城へ伺うと、以前、何度かお逢いした騎士のレオン様に良く似た女性だった。


ジルクハルト殿下から説明を受けて驚いた。

騎士としてジルクハルト殿下の側で仕えていたという。


そしてドレスを身に纏ったレティシア様は美しく、その執着と呼べる蔓薔薇が…………美しい愛情へと見えるように着こなしてくださった。




ーーーーー感無量




私の集大成なのではないか、と、思えるほどの出来栄えだ。


ご本人を見ることなく作り上げたにも関わらず、とても良く似合っていた。



春を訪れる夜会が終わってから私のブランドは瞬く間に有名となり、王家御用達として名乗ることを許された。



多くの貴族達からデザインを望まれドレスを作る機会が多くなったが、私が最優先するのはジルクハルト殿下とレティシア様の物と決めています。



私が駆け出しの無名のデザイナーであったころから懇意にしていただき、レティシア様が行方不明になってもご利用くださり経営を支えてくださったジルクハルト殿下がいたからこそ、私はデザイナーを続けてこられたのだから。




え?

あぁ、そうですよ。



もちろん、ご結婚の際のウェディングドレスは王城のお針子達にも協力いただき、最高の物を作り上げてみせます。



ジルクハルト殿下とレティシア様の御子にも、ぜひ、ご贔屓いただきたいですからね。

執着の塊にしたドレスをデザインしたのは、このデザイナーでした。

侍女達にはジルクハルトとニックは趣味趣向が近いのでは?と思われる程、ジルクハルト殿下の好みのドレスを用意できているのです。


侍女とお針子には『ジルクハルト殿下のために存在しているデザイナー』『ジルクハルト殿下のレティシア様への愛情を表現できるのは彼しかいない』と、影で言われております。


ーーーーーーーー


読んでくださり、ありがとうございます!


最後にお願いですが、★評価いただけると励みになります!!燃料投下、どうぞ、よろしくお願いします(*^▽^*)


番外編が準備できるまでは、番外編になりきれないのを小話として更新します!


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

他作品の紹介!!

▼完結済み連載

「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」

https://ncode.syosetu.com/n4767gl/


→一目惚れされて逃げる侯爵令嬢と追いかける王太子の話し


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