SS04.王城侍女の戸惑いと涙
再び侍女の独白
年終わりの夜会の後からジルクハルト殿下の様子が、さらに驚くべきものになりました。
分かりやすく申し上げますと、『明らかに変』なのです。良い意味で。
王族、王太子殿下に対して『変』だなんて不敬ですわね。
年終わりの夜会が終わってから数日後、帰省していた王太子妃付きになる予定の侍女が全員、王城へ戻ってきた日に、ジルクハルト殿下の執務室へと呼ばれたのです。
執務室へと呼ばれたのは侍女三人とお針子五人です。
お針子まで呼ばれたものですから、また、ジルクハルト殿下からのご依頼で少年騎士様であるレオン様の衣装についてかと思っておりました。
ですが、執務室で依頼されたのは『ご令嬢のドレス』なのです。
しかも、『春の訪れを祝う夜会』で着用するためのものです。
ジルクハルト殿下は、夜会でエスコートするご令嬢を決められたと教えてくださいました。ですが、お相手のお名前までは教えてくださらなかったのです
レティシア様のためのドレスと思っておりましたのに、見つからないということで他のご令嬢と婚約される決意されたのだ、と、少し残念に感じました。
ご令嬢の名前を教えていただけませんでしたので、もちろん、お会いしたこともありません。
ジルクハルト殿下からはプロが採寸したであろう細かくサイズが記載されている紙を受け取りました。
『決して無くさぬよう厳重に保管するように』とのご命令とともに。
サイズを見たお針子達は驚いておりました。
とても細かく記載されており、ドレスを作るのに問題はないと。
胸が大きくウエストが細いスラっとした美しい女性らしい方がお相手ではないかと話しておりましたの。
ジルクハルト殿下のご命令でドレスを作っていることは誰にも漏らすことはできません。
私どもは専用の部屋が用意され、扉前は二番隊の方が護衛にあたるほど厳重に管理された場所で数人ずつ分かれて作業をしておりました。
あぁ、もちろん、ドレスの意匠のために、お抱えのデザイナーも通っております。
口外しないよう魔術契約をして。
お針子だけで部屋に詰めていると所用で席を外すことも難しいので、もちろん、私もお茶を出したり片付けをしたり、と、できる範囲でお手伝いさせていただきました。
定期的に、ジルクハルト殿下は部屋へ訪問してくださり作業の様子を確認したり、生地選びをされたりと、とても楽しそうなご様子でした。
ふと思っていたことなのですが、護衛で付き添う方がレオン様ではなくジェイド様という騎士様なのです。
その時は違和感がありましたが些細なことでしたので気に留めることはしておりません。
侍女やお針子にジェイド様は人気がありましたから、お逢いできる機会を楽しみにしておりましたの。
それでもやはり、ドレスの完成が近づくにつれて、どなたにお贈りするものなのか、と、気にかかるものです。
このドレスを着るジルクハルト殿下に選ばれた、まだ見ぬご令嬢を想像しながらも、レティシア様に着ていただきたいと想いが募ります。
卒業式の前に完成したドレスは、とても素晴らしい物でした。
『ほぅ……』とため息が出るほど美しく煌びやかで…………ただならぬジルクハルト殿下の執着を感じました。
なぜ、執着を感じるかですって?
蔓薔薇は執着の証にしか見えませんもの。
その蔓が身体に巻き付いているように見えてしまうのは、きっと私が擦れてしまっているからでしょうけど。
それでも、自分のものだ、と、示すかのように刺繍された薔薇は、その女性への愛を感じます。
ジルクハルト殿下が愛した女性、その方が次の、私達が仕えるべき方なのだと、気持ちを新たにしなければと自分に言い聞かせておりましたの。
いずれご紹介してくださる、ジルクハルト殿下の想い人、ご令嬢とお逢いできるのを心より楽しみにしておりました。
そう、あの日、卒業式が終わってから王城へ戻られたジルクハルト殿下から紹介されたご令嬢とお逢いして、侍女一同、涙しました。
私達が仕えるべきお方が、戻ってこられたのです。
レティシア様が、レティシア様がジルクハルト殿下と共に、私どもへと挨拶してくださったのです!!
遅い時間でございましたが、どうしても逢って欲しいと、ジルクハルト殿下たってのご要望です。
私どもは、ついにこの日が来たのか、レティシア様のことを思い出さぬよう、新しく仕えるべき未来の王太子妃に失礼のないようにと心に決め、いざ、ジルクハルト殿下の私室へと伺うと、そこにいたのはレオン様の服を着たレティシア様だったのです!!!
ジルクハルト殿下から説明を受け、そして、レティシア様には偽っていたことを謝罪されたのです。
その時、侍女とお針子の手を取ってくださったレティシア様は聖女の如く美しい女性でした。
私達は、レオン様の騎士姿に惑わされて気付くことができませんでした。こんなにも美しい女性のことを!!
もうお逢い出来ないと思っていたのに、手を取って声を掛けてくださり、再びお逢いできた喜びから涙が溢れました。
あの日、レティシア様を救えなかったことで嘆いていたのはジルクハルト殿下だけではなかったのです。
私達も、仕えるべき主であったレティシア様の異変に気づきながら、彼女よりも大人の自分達が手助け出来なかったことを後悔していたのです。その感情を押し殺して過ごしていたのです。
ポロポロと涙を流す私達を咎めることなく、温かく見守ってくださったお二人には感謝しかありません。
ジルクハルト殿下は全てご存知だったのです。
だからこそ初めから、初めから、レオン様とお逢いになる際や手土産の準備、制服や夜会服の準備を全て、レティシア様付きとなる侍女とお針子に任せてくださったのです。
私達に最初から関わらせてくださっていたこと、そのご配慮に、また、涙を流してしまいました。
それから春の訪れを祝う夜会まで、レティシア様付きとしてドレスや小物の準備、その他にも、普段お召しになるドレスなどの準備に関わらせていただきました。
当日には、あの、執着の塊とも言えるドレスをレティシア様に着ていただくと、見惚れるほどの美しさでございました。
蔓薔薇がレティシア様に巻き付いている、そのお姿が神々しくお美しいのです。
蔓薔薇の執着が『愛情』として美しくレティシア様を引き立てておりました。
ドレスを着たレティシア様の姿を見たジルクハルト殿下は、口元を手で覆い視線をずらして、それとなく悶えていたことに侍女一同は気づいておりますが、レティシア様はクビをコテンと傾げて困っておりました。
今思えば、レオン様のお姿、行動は全てレティシア様だったと思えます。
幼い頃に王城の庭園でお茶をしていたお二人の姿そのものでした。
王城勤の侍女として、私ももう少し人を見る目を養わなければと考え直しましたわ。
これからも、お二人の幸せな姿をお側で拝見させていただきます。
ご結婚相手はレオン様でしたがレティシア様で良かった……!
お世継ぎの心配もないわ。
読んでくださり、ありがとうございます!
最後にお願いですが、★評価いただけると励みになります!!燃料投下、どうぞ、よろしくお願いします(*^▽^*)
番外編が準備できるまでは、番外編になりきれないのを小話として更新します!
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他作品の紹介!!
▼完結済み連載
「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」
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→一目惚れされて逃げる侯爵令嬢と追いかける王太子の話し
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→聖女と祭り上げられた令嬢が無意識に罪を犯し婚約者に断罪されて堕ちていく話し
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基本、逃げる令嬢と追いかける王子の話が好きです。全てハッピーエンド!悪役令嬢モノはゲーム開始前に攻略対象に攻略されちゃいます。