SS03.王城侍女の独白
番外編にも絶対出てこない王城で働く侍女の独白。侍女の名前は未定。年齢は高め、です。
ここ数年の王城は空気がピンと張り詰めておりました。そう、ここ数年、は。
私が仕える主であるジルクハルト王太子殿下のご婚約者であるレティシア・ヴィクトリウス侯爵令嬢が行方不明になってから、ジルクハルト殿下の周りの空気が張り詰めているのです。
それが人伝に連鎖した結果なのでしょう。
王城で働く者、特にジルクハルト殿下の元で働く者は気を抜くことができません。
まかり間違ってレティシア様の名前を出してしまいジルクハルト殿下の耳に入ってしまったら…………『何か知っていることはあるのか?』『何故、その名前を出した?』などと問い質されかねません。
ジルクハルト殿下に仕える侍女は独身者もおりますが全員が鬼の侍女長のお眼鏡に叶った者です。秘密保持はもちろんのこと、職務は完璧に遂行しジルクハルト殿下相手であっても恋情を抱かない、色目を使わない、何より、レティシア様を大切にできる者が選ばれております。
レティシア様が行方不明になられてから二年が経過した頃に、文官達からジルクハルト殿下に仕えている侍女の数が多いから減らしてはどうか、と、話があったのです。
文官たちからすれば独身の侍女がジルクハルト殿下の懐に入り込み誑かしているのではないか、あと数年すれば夜伽の相手として召し上げるのではないか、と、私たちを疑っていたのです。
そんなことはありえません!!
レティシア様が、いつ、戻ってきても良いように、と、ジルクハルト殿下のご配慮で雇っていただいているのです。
私たちの主はジルクハルト殿下ですが、真に仕えるお方はレティシア様なのです!!
それなのに、レティシア様を裏切っているかのように言われるのは心外でございます。
と、話がだいぶ逸れました。
そうそう、王城の空気が張り詰めているお話でしたね。
ジルクハルト殿下はレティシア様に恋していたのに気持ちをお伝え出来ないまま離れ離れになってしまい、とても悔やんでいるのです。
なんとか救い出したいと躍起になっておられました。あと少しで、その腕に、その手に、引き寄せることができたはずなのに突然、失ってしまわれ心が荒んでおりました。
えぇ、えぇ、鬼の侍女長すら黙らせましたから。ジルクハルト殿下の実母である亡くなられた王妃に仕えていた侍女長で乳母をしておりました。
第二の母親みたいなものです。
その侍女長を黙らせたのです。
黙らせたなんて言い方が悪いですね。
ですが、鬼の侍女長はジルクハルト殿下を思ってこその行動でしたが余計なお世話のようでした。
既に母親離れをしていたのですから当然のことですわね。
それ以来、ジルクハルト殿下にレティシア様の話を振る者はいませんし、他のご令嬢を勧める者はおりません。
あ、貴族のジジィ達は別ですけどね。
そんな日々を数年も続けておりましたのに、ある日突然、ジルクハルト殿下の雰囲気が柔らかくなったのです。
それも、学園で媚薬を混入された後にも関わらず、です。
当初は大変お怒りでございました。
控えていた護衛の話ではアマルフィ公爵令息様が宥めて、なんとか冷静さを取り戻したようですが、今以上に空気が張り詰めるのではないか、と、私どもは危惧しておりました。
それでもマインラート伯爵令息様が魔術で結界を張りジルクハルト殿下を部屋から出さないようにしたり、と、お怒りを鎮めるのに慌ただしくしておりましたが。
それから少しして、突然、です。
突然、雰囲気が柔らかくなられたのです。
ほんの少しの些細な違いでしたから王城に伺候している貴族達で気づいた者はおりません。
ジルクハルト殿下の些細な違いを感じ取り、地雷を踏まぬようにしていた私たち侍女だからこそ気づけた些細な違いなのです。
ある日、朝からジルクハルト殿下からのご依頼として侍女も厨房も慌ただしくしておりました。
とある方の制服のサイズを教えられ、訳も分からぬうちに騎士団へ連絡を取って急いで制服を仕立てました。
既成の制服をお針子が慌ててサイズダウンするように作り直しておりましたから驚きです。騎士様の制服のサイズが小さい、と。
少年が騎士になったのかと、私どもは慌ててしまいました。
もちろん、プロでございますから顔には出しません。
ジルクハルト殿下からの指示を承り、笑顔でお返事いたしましたもの。
それから厨房では苺をふんだんに使ったケーキなどのスイーツを用意させました。
ジルクハルト殿下が自ら栽培された貴重な苺を沢山使ったスイーツは、ご令嬢がお喜びになりそうなものばかりでした。
ご指示に従い、ジルクハルト殿下の私室にティーセットをご用意させていただきましたが、その際にはレティシア様とお茶をする際に使用されたカップをご希望されて驚きました。
理由を尋ねるなんてことはいたしません。
しっかりとご用意させていただきました。
と、その日のジルクハルト殿下は、とても機嫌が良く張り詰めていた空気が嘘のようでした。
それからも、夜会用の男性服の用意もしましたが、ご指示の元、用意する服はサイズが小さいのです。
随分と小柄な少年が騎士になったのだと、皆で噂しておりましたが、一瞬、本当に女性かと見間違うような方とジルクハルト殿下は庭園でお茶をしたのです。
驚きました。
二番隊の制服を着ている騎士様がジルクハルト殿下のお相手だったのです。
その少年はジルクハルト殿下と同い年と聞いて、さらに驚きました。
随分と可愛らしい騎士を見つけられて、手ずからケーキを差し上げた姿はまるで……そう、まるでレティシア様との時間を思い出させる光景でした。
柔らかく微笑むジルクハルト殿下を見ると、以前は緊張されていてレティシア様を直視できなかったのに、今は目の前にいる相手に恋をしているかのように微笑まれているのです。
…………ジルクハルト殿下、相手は男性です。トチ狂うのはやめてください。
侍女一同、そう思っておりますが、レティシア様を失ってから初めてジルクハルト殿下が奇行に走っておりますので、一旦は、温かく見守ることを決めております。
手土産を持たせたり贈り物を渡されたり、と、その準備をレティシア様に仕える予定の侍女が担当して対応しております。
あの、ご結婚はレオン様になるのでしょうか?
レティシア様、に、仕える予定は白紙、でしょうか?
複雑な気持ちのまま、ジルクハルト殿下のお心のままに対応しております私どもも、誰かに問いたい気持ちをいつまで抑え込んでおけば良いのか教えていただきたいです。
…………でも、ま、侍女一同、王城勤めの者一同はレオン様に感謝しております。
男性ですがジルクハルト殿下の心の氷を溶かしてくださり、かつ、張り詰めた空気を解消してくださった方ですから。
レティシア様が戻るその日まで、レオン様にはジルクハルト殿下のお側から離れないよう、王城で気持ち良く過ごしていただけるよう全力でサポートさせていただきます。
レティシア様に再びお逢いできるのを楽しみにしております。
読んでくださり、ありがとうございます!
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番外編が準備できるまでは、番外編になりきれないのを小話として更新します!
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▼完結済み連載
「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」
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→一目惚れされて逃げる侯爵令嬢と追いかける王太子の話し
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基本、逃げる令嬢と追いかける王子の話が好きです。全てハッピーエンド!悪役令嬢モノはゲーム開始前に攻略対象に攻略されちゃいます。




