SS01.アマルフィ公爵家の夜会中の王城では
本編の「31.ライト・オースティンとの接触と参加目的」から「32.シルヴィア・ラファエルとの出逢い」辺りの王城でのジルクハルトとレオンのお話です。
以前、活動報告に載せたものを加筆修正しました!
アマルフィ公爵家で夜会が開かれている頃、王城の執務室では珍しく遅い時間まで書類の確認をしているジルクハルトと、勤務時間が過ぎているが残業しているレオンの姿があった。
明日は学園も休みだし、という理由での残業命令。クロードが昼に帰宅したから人手が足りないのだろう。仕方がない、と、レオンも諦めている。
それに、今夜は珍しく『一人で集中して勉強したい』と、セドリックにも頼まれてしまい部屋に帰れないからレオンとしても残業をするのは都合が良かった。
「今夜はアマルフィ公爵家で夜会なんですね」
「あぁ、今回のは規模が大きいらしい。公爵家だし、たまには派手にやらないとな」
そもそも公爵家の夜会は王城に次いで規模が大きい。豪華だし華やかだ。公爵家の夜会に招待されたとなれば、先約があっても断って参加して縁を繋ごうとする者が多くいる。
「クロードは夜会とか嫌いなイメージでした」
「嫌いみたいだな。だが、今夜はアイツのための夜会だ」
「クロードのための?」
「そう、クロードのためだ。あまり詮索するな、アイツのためにも」
「はぁ……」
夜会は夫人が取り仕切り、年頃の娘がいれば一緒に準備をするのだろう。女主としての社交の仕事を母親から教えてもらえる令嬢を少し羨ましい、と、レオンは思う。
夜会のことを考えていたレオンをジルクハルトは見つめていた。
だからレオンが小さなため息を漏らしたことも見逃さなかった。
「王城での夜会は王妃や王太子妃が準備を指示することもあるが、主催者は国王や王太子だ」
「そうなんですね」
「だから、夜会を取り仕切ったことがなくても問題ない」
「はぁ……そうなんですね」
突然、王城の夜会について説明を受けることになったレオンは、護衛に何を言っているんだ?と、頭の中は疑問符でいっぱいだ。
王城の夜会の段取りについてひとしきり説明を受けるが、やはり、女主人の代行として、母親から学ぶべきことも必要なのではと考えに至る。
(レオンである私には……関係のないこと、よね)
貴族社会に未練はないはずなのに、王城で、ジルクハルトの側にいることで嫌でも貴族社会に向き合わなければならず、考えたくもないことを考え、ありえない、望めない未来に想いを馳せてしまう。
「だからレティシアが戻ってきても夜会のことで不安に思う事はない」
王城の夜会は決まり事も多く、貴族の夜会と同じように準備を進めることはできない。通常は侍女長や女官長、王妃が王太子妃へ夜会の準備について教えていく慣わしになっていると教えられる。
「そ、うなんですね……」
レオンは少しドキリとした。
夜会を取り仕切った経験のないままジルクハルトの横に並び立てるのか、と、頭に過ったが、突然に告げられたジルクハルトの言葉に不安が取り除かれた。
いや、レオンなのだから夜会を取り仕切る経験はなくでいいし、レティシアのために向けた言葉なのだけど。
本日中に片付ける必要のある仕事が終わるとジルクハルトは席を立ちレオンに視線を移す。
ソファーに腰掛けて書類整理を手伝っていたレオンは集中してジルクハルトの動きに気づいていなかった。
だから……
「そろそろ終わりそうか」
「う、わぁっ!!」
耳元で囁かれて驚いた。
肩が大きく揺れて手にしていた書類を落としてしまった。
「す、すいませんっ!」
「気にしていない。大丈夫か?」
「は、はい!大丈夫です!終わりました!!」
レオンは落とした書類を拾って纏め、慌ててジルクハルトの執務机へと置き直す。
仕分けした書類は明日、クロードが使うはず。クロードは細かいから汚れていたら怒られるかもしれない、と思い、もう一度見直す。
「今夜は付き合わせて悪いが、晩餐は部屋でとる。最後まで付き合ってくれ」
ジルクハルトの方へ振り返るとソファーの背もたれに腰掛け、レオンの行動が面白いのかクスクス笑いながら晩餐を誘っている。
「お、お酒は飲みませんよ?!」
「俺も今夜は飲まん。その代わり食うから付き合え。お前、また痩せただろ」
「へ?痩せました、かね?運動し過ぎたかな」
「肉付きが減ったように感じた。肉を食え、肉を」
「うっ…はい」
平民にとって肉は贅沢品だ。
つい、癖で肉ではないものを食べてしまう。
だって肉は高いのだ。
王城や学園の食堂で肉を食べるが、市井で買った肉は硬いのだ。硬いから余計に避けてしまう。
それよりもジルクハルトは、どこを見て肉付きを確認しているのかレオンは疑問に思うが聞きたくもない答えが返ってきては反応に困るので黙っていることにした。
きっとそれが一番賢い選択だ。
「よし、今夜は肉だな。ガッツリ食うぞ」
「は、はいっ!」
まぁ、肉は好きだからいいか。
ここの肉は柔らかくて美味しい。
ウキウキしながらジルクハルトの後に続き私室へと招かれることにした。
レオンは肉に釣られて日付が変わるまでジルクハルトに付き合わされた。
お酒も無いのに、なんてことない笑い話で日付が変わるまで話していた。ジルクハルトは話が巧すぎる。
(日付が変わって三時間は足止めしないと、セドリックの不在に気づかれる。なんとしても楽しませて足止めしないと。酒を飲ませれば寝かしつけられるが、せっかくだから話したい)
レオンを楽しませて部屋に足止めするジルクハルトが、今回の任務では一番、大変だったのかもしれない。怒らせたら部屋へと戻ってしまう。
お酒を飲ませても、打ち消されたり機嫌を損ねたら部屋へと戻ってしまう。
ならば、と、話術で足止めをすると決め、レオンの接待をしている。
(肉、美味そうに食ってるな……肉、、、)
肉を口に運び、美味しそうに食べるレオンのを見ているのは飽きないし幸せな気持ちになる。
ただ上品に食べるのは公式の場だけでいい。プライベートな時間まで仮面を貼り付けたような態度でいられると疲れてしまう。
大きく口を開けてパクリと頬張る姿は、とても貴族とは思えない。
でも、その食べ方が一番美味しく見えるから一緒にいる方まで口にしていなくても美味しいと思ってしまうのだろう。
今後、長い時を共に過ごす相手とは『美味しい』と言い合い笑顔の溢れる食卓を囲みたい、と、ジルクハルトは自身の未来に夢を抱くようになる。
子供たちも大人しいだけではなく、私的なところでは、お喋りに夢中になりながら賑やかな食卓を……囲めたら温かい家庭というものになるのだろう、と思いを馳せた。
(レティシアも美味しそうに食べてくれたら毎日の食事が楽しくなるな。賑やかな食卓も悪く無いだろう)
愛おしそうにレオンを見ていると、ふと、視線が重なった。
キョトン、とした表情でジルクハルトの手元へと視線をずらしたレオンは首を傾げる。
「ジルクハルト殿下は食べないんですか?」
「食べてるよ」
「肉食べるんでしょ、肉」
「お前の頭の中は肉しかないのか」
「今の時点では肉だけですね」
「お前……もっと食うか?」
「いいですね!今日はお腹が空いているのでお代わりします!あ、セドリックの晩餐……」
「セドリックのは部屋に運ばせたから心配するな。ほんと、お前は過保護だよ。で、違う肉でいいか?」
「はい!できれば脂身を少なめで。赤身、美味しいですね!!」
「わかったわかった」
ジルクハルトは呆れた態度を取りながらもレオンの正直な言動を嬉しく感じている。
自分に心を許してくれているからだと思えるからだ。
レオンがお代わりした後、食後はお茶を飲みながら話を続け、夜は更けていった。
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番外編が準備できるまでは、番外編になりきれないのを小話として更新しるかもです!
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他作品の紹介!!
▼完結済み連載
「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」
https://ncode.syosetu.com/n4767gl/
→一目惚れされて逃げる侯爵令嬢と追いかける王太子の話し
▼短編
「ごめんよヒロイン!メインヒーローは渡せない!〜気づいたら溺愛されていました」
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→阿保っぽい悪役令嬢が腹黒王子を攻略していた話し
他にも多数、短編を公開しています!
基本、逃げる令嬢と追いかける王子の話が好きです。全てハッピーエンド!悪役令嬢モノはゲーム開始前に攻略対象に攻略されちゃいます。




