57.エピローグ-純愛-
卒業式から数日後、オースティン侯爵とヴィクトリウス侯爵夫妻、娘のマリアンヌ、ナタニエル伯爵など、犯罪に手を染めた主要な貴族は爵位や領地返上、処刑や投獄などの刑が決定した。
さらに、王妃を毒殺したのは側妃である事が公表された。それと同時に、第二王子のライナハルトは亡き王妃の実子であることも公表された。
側妃は懐妊したが流産し心を病んでいた。その頃、王妃が第二子を出産し、側妃は乳母になることを望み、時が経つに連れて自分が産んだ子供だと言い出し、何度か説得を試みたがライナハルトを離さなかった。
オースティン侯爵には側妃が流産したことを知らせておらず、国王に似ているライナハルトは側妃の子供として認識されていた。
レティシアが側妃と面会した頃には、すでに精神を病んでいたのだ。酷い状況ではなく、まだ、取り繕うことが出来ていた。
そのうち、王妃が優秀な自分の子供を狙っていると勘違いし、兄であるオースティン侯爵の口車に乗り毒殺を実行した。
直ぐにでも側妃を処分することも出来たが、オースティン侯爵家の出方次第では国を二分する可能性が考えられた。
ジルクハルトとライナハルトの兄弟仲は良く、ライナハルトは側妃の子供のふりをして監視と毒殺の証拠を集めていた。
正妃の産んだ子だと知られるとオースティン侯爵はライナハルトを殺すかもしれない。
そう考えて公表せずに側妃の産んだ子供と思い込ませていた。
ジルクハルトはヴィクトリウス侯爵が養父になってからレティシアの待遇が悪くなっていることに気づいていた。
何か手を打ってもヴィクトリウス侯爵夫妻とマリアンヌが機嫌を損ねるとレティシアが暴行されると知ってから対応に困った。
今まで通りレティシアとの関係を築きたくても自分が側から離れた後に何をされるか分からない。
だから、その時に分かっていた罪を取り上げ処分することを決めた。
出来る限り大きな罪でヴィクトリウス侯爵家から追い出すだけでもいいと考えていた。
だが、レティシアが行方不明になって、自分の考えが浅はかだったと知った。
レティシアは何も相談してくれなかったのだ。逃げ出さなければならないほど、追い詰められていたことに気づけなかった。
どれほど後悔しても時間を戻す事はできない。それなら、レティシアが戻って来られるよう全ての罪を明らかにし、かつ、戻る場所を用意しようとジルクハルトは考えた。
レティシアと共に行方不明になっているセシルさえ見つかればフロレンツ公爵家の養子にできる。セシルをフロレンツ公爵家の養子とするためにはレティシアを見つける必要があった。
先にレティシアだけでもフロレンツ公爵家の養女にできた。それでもセシルを見つけ出して準備を整えてから養子にしたのはレティシアを尊重したからだ。
弟を連れて家を出た。
一人で育てる覚悟を持ったレティシアの、その考えを尊重したのだ。
だからセシルを見つけ出して本人の意思を確認するまで待った。
そうして断罪するための準備を整え、レティシアを迎え入れるための準備も始めた。
夜会までにレティシアの心を確認できれば、いつでも実行できるように。
漸く婚約者同士として公の場に立てる時がきた。
「レティ、綺麗だ。こんなにも美しい姿を皆に見せなければいけないなんて」
「あ、ありがとうございます……その、ジルも素敵です」
レティシアは紫色に黒の蔓薔薇が刺繍されたドレスを身に纏っている。
宝石が煌めき、金色の髪に黒薔薇が差し込まれている。
髪の毛は幼い頃のように艶があり光を反射して美しい。
春の訪れを祝う夜会に参加するのは二回目だ。昨年はレオンとして参加し、ジルクハルトとダンスした。
今年はレティシアとして参加し、ジルクハルトの婚約者として隣に並び立つことができる。
レティシアは幸せで胸がいっぱいだ。
義家族と暮らしていた辛い時期もあったが、ジルクハルトはその頃を忘れるくらいの愛情をくれる。
愛されることの喜びを知り、愛していると伝えることの気恥ずかしさと応えてくれることの喜びを知って、もう、あの頃の幼い自分はいないのだと思える。
胸の奥に抑え込んでいた両親から受けた愛情に向き合っても悲しみに暮れる事はない。
同じくらい、いや、それ以上の愛を知ったからだ。
義家族と一緒に暮らしていた頃は、両親を思い出すと恨んでしまいそうな自分がいた。何故、死んでしまったのだと、もういない両親に詰め寄りたい気持ちだった。
夜会の会場へと入ると皆が女の姿をしているレティシアを見て溜息をもらす。
美しく成長していたレティシアに皆が魅入っている。
(お……女の姿で人前に出るなんて久しぶりすぎて恥ずかしいわ。う、上手く動けるかしら)
男として暮らしてきた癖が抜け切れず、大股で歩いてしまう。意識してガサツな動作をしていたことで、ちょっとしたことで淑女の仮面が剥がれてしまう。
「そんなに緊張するな。レティは、この場にいる誰よりも強くて美しい」
「で……でもっ」
「俺はレティが好きだ。それは昔から変わらない。ただ、変わったことがある」
「変わったこと?」
「レオンであるレティシアも愛している。だから、少しくらいレオンがでても気にするな」
低い良い声で耳元で囁かれ腰が砕けそうになり、ジルクハルトに支えられると余計に恥ずかしい。
周りは二人の仲睦まじい姿を温かく見守っている。
レオンの頃の癖で無意識に毒味をして、お酒を手渡しも気付かないレティシアを、愛おしそうに見つめるジルクハルトの姿に、貴族達は、未来の国王夫妻の仲は良く、この国の繁栄に繋がるだろうと安堵する。
この日は初めてレティシアとしてジルクハルトとダンスをする。
一年前と変わらず、ジルクハルトのリードは踊りやすい。自然と笑顔になる。
物語の中の王子様とお姫様のように、くるくると踊り二人の世界に浸る。
王太子に愛された令嬢は行方を晦ましていたが変装して常に側に仕え命を護っていた。
王太子の身を護るため厳しい騎士の訓練を受け男として生活し、時には毒を飲み、時には魔物討伐で背を預け合い、王国に蔓延った膿を取り除くために手を取り合った。
王太子と令嬢は永遠の愛を誓い幸せに暮らし、民のために身を捧げ国の発展に貢献した。
レティシアに戻ってからジルクハルトに聖属性であることを明かした。
聖女の称号が与えられると教会に所属して伴侶を得るのが難しくなることから、これを内密にし婚姻後に貴族会へ報告した。
既に初夜が終わってからの報告であったが、教会が懸念していた純潔を失うことで聖属性の魔力を失うといった事はなかった。
聖属性と明かしてからジルクハルトと共に国を護る結界を張り他国から魔物が侵入する事を防ぐことに大いに役立ち、魔物による被害は激減した。
魔物の出現の多い森では聖属性による浄化の力で消滅させたことで、聖なる森と呼ばれるようになり、妖精の住う森へと変わる。
行方不明だった期間のことで王太子妃に相応しからずと難色を示していた大臣や貴族も、王太子妃となってからのレティシアの功績から反対する者がいなくなった。
また、ジルクハルトとの魔力相性が良く次代への期待が高まっていたのも理由の一つだ。
レティシアは民に慕われる王太子妃となってからも市井のお気に入りの店で食事をし、心配した王太子のジルクハルトが追いかけてくる、というのが多々あり、微笑ましい姿を皆が受け入れていた。
「もう二度と辛い思いはさせない。レティを愛している。共に幸せになろう」
「私もジルを愛しているわ。幸せに、そして、ずっと一緒に」
結婚式の終わった夜、二人きりで永遠の愛と幸せを誓った。
レティシアが幸福に包まれていた夜、ヴォルヘルム王国全土にキラキラと光る星がいくつも降り注いだ。
その輝きが舞い降り、怪我人や病人は傷や病が癒え、地では花が咲き誇り、その年の秋は豊穣となった。
二人は婚姻後は三男三女をもうけ、嫡男は後の国王となり、闇と聖の属性を引き継いだ。母の愛した国をより発展させ、他の子供達も臣下として国を支えた。
後にジルクハルト・ヴォルヘルムは愛妻家の賢王、レティシア・ヴォルヘルムは聖女として歴史に名を残すことになる。
完結までお付き合いいただき、ありがとうございます。
この作品の執筆を始めたのが五月で公開が九月でした。男装モノを書きたくて勢いで始めましたが、想定以上の方に読んでいただけて嬉しく思います。
今後は十二月頃には番外編を更新していきたいと考えています。一旦、完結の設定にしますが番外編を公開する頃に連載の設定に戻します。
最終話を書くのって難しいですね。
アレコレ回収漏れや表現しきれていないところが多々あり、まだまだ勉強しなければと思い直しました。
お月様での連載が落ち着いたら、なろうでも新連載を公開したいと考えています。その時は是非、お立ち寄りください。
最後にお願いですが、★評価いただけると励みになります!!どうぞ、よろしくお願いします(*^▽^*)
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他作品の紹介!!
▼完結済み連載
「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」
https://ncode.syosetu.com/n4767gl/
→一目惚れされて逃げる侯爵令嬢と追いかける王太子の話し
▼短編
「悪役令嬢はゲーム開始前に王太子に攻略された」
https://ncode.syosetu.com/n8714gg/
→タイトル通り悪役令嬢が攻略された話し
他にも多数、短編を公開しています!
基本、逃げる令嬢と追いかける王子の話が好きです。全てハッピーエンド!悪役令嬢モノはゲーム開始前に攻略対象に攻略されちゃいます。