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55.卒業式と結婚相手

レティシアであると明かした日から気恥ずかしさは残るものの、レオンとして生活している。

ジルクハルトの態度も今までと変わらない。

今まで通り親しい護衛のレオンとして接している。


セシルからの手紙にも変わった様子はなく、レオンがレティシアであると知られていたことも告げられないでいる。

レティシアは、ジルクハルトはセドリックがセシルと知った上で領地経営を学ぶ手筈を整えてくれていると理解している。


ただ、どうしても、レティシアにはなれても()()()()()()()()()()()には戻れないし戻りたくない。

すでに()()()()()()()()()()()()()()()()のことだからだ。


どんなにジルクハルトが護ってくれると理解していても、ヴィクトリウス侯爵家へ戻れば要らぬ争いを生むことになる。


本人の気持ちとは別に、現時点ではセシルが行方不明であることからマリアンヌが婿を取り後を継ぐと考えられている。


そこに二人が戻ればマリアンヌの立場がなくなる。そんなところへ戻ってしまえば、今度こそ、命の危険がある。


レティシアが王城で匿われたとしても、セシルはヴィクトリウス侯爵家の跡取りとして邸へと戻る必要があり、戻れば一人で戦わねばならない。



レティシアが無事であったことを貴族達に報告するのは春の訪れを祝う夜会で行うと決められた。ジルクハルトに春が訪れたことを伝えるに良い夜会だ、と。


その二週間前に行われる卒業式はレティシアはレオンとして参加し、ジルクハルトの側で護衛をする。


レオンがレティシアと告げた日から、ジルクハルトの護衛にジェイドが加わった。


直接の説明はされていないが、ジェイドは理由もわからずレオンを護衛する任が下りたのだろう。それはジェイドの立ち位置と視線でわかる。ジルクハルトを視界に入れながらレオンを見ている。


女だと、レティシアだと知ったら嫌われるだろうか。レオンとして初めて出来た友人を失うのは辛い。


何度かジルクハルトに相談したが、卒業式が終わるまでは正体を明かさないようにと。

全て話してもジェイドがレオンを嫌うことはない、幻滅はしないだろうからと説明された。





そして卒業式の当日となった。

朝はいつものように殴り起し、ジルクハルトと朝食をとって馬車へと乗り込んだ。

学園についてからは生徒会の最後の仕事を片付け式典へと向かい、ジルクハルトは卒業生代表として挨拶した。


ライナハルトは在校生代表として卒業生へ向けて言葉を贈り、式典は何事もなく終わった。



卒業生の見送りと門出を祝うために卒業式の後、夕刻から夜会が催される。

夜会の主催者は見送る側、新生徒会役員が務めている。その代表はライナハルトだ。



いつもと変わらずレオンとして男性用の正装を身に纏いジルクハルトの側に控える。

ラウルとリベルトは婚約者をエスコートし、クロードは一人だ。


クロードの婚約はジルクハルトが落ち着いてからにするらしい。


今回の会場にも()()()()()()が寄与した魔道具が使われており、王城で開催された夜会と同様の明るさだ。


煌く光がドレスを身に纏った令嬢達をさらに美しく輝かせる。


稀代の魔術師が誰なのかは明かされていない。ジルクハルトの知り合い、とだけ噂されている。



レオンはいつも通りジルクハルトに手渡す飲み物の毒味はかかさない。

ジェイドが給仕に扮しているので、必ず、ジェイドから手渡されたものをジルクハルトへと渡すことになっている。


それは他の側近達も同じで、ジェイドが手渡した物以外は口にしない。


結婚する者や領地へ戻る者、王城で勤める者や士官学校へ進む者、卒業した後は学園内のように気安く話せなくなることも多い。


親しい友人の間柄でも家の意向や立場、他の友人関係から疎遠になることも考えられる。

だから、今のこの瞬間を皆が楽しんでいる。



「ジルクハルト殿下!」



声の主の方へ視線を移すと、マリアンヌとエミリカがオースティン侯爵と伴にいた。


本来は学園の卒業生とその近親者が参加する。その他は学園側が招待した来賓となる。ライナハルトの叔父で多額の寄付をしているオースティン侯爵は、来賓として参加している。


「オースティン侯爵か。久しいな」


「えぇ、お久しぶりでございます。ご卒業おめでとうございます」


「あぁ」


「ご歓談中、突然お声がけして申し訳ございません」


「何か用か」


ジルクハルトとオースティン侯爵が直接やり取りをする姿は珍しく周りの貴族達も興味がある様子で、二人の姿を遠くから眺めている。


オースティン侯爵は甥であるライナハルトと話す姿はよくある。それも、側妃と面会が出来なくなってからは回数が増えた。


「ご結婚のことです。ナタニエル伯爵令嬢とヴィクトリウス侯爵令嬢が、是非、ジルクハルト殿下に決めて欲しいと言って聞かないものでして。今この場で、どちらにするか決めていただけますか」


オースティン侯爵としてはナタニエル伯爵令嬢とヴィクトリウス侯爵令嬢のどちらであっても問題ない。

息子に命じてヴィクトリウス侯爵令嬢も既に手篭めにしている。


どちらの娘と婚姻してもオースティン侯爵家には有利に働く。自分の働きかけで王太子妃の座を手に入れさせることができ、かつ、弱みは握っている。

身体の関係だけではなく、各々の家で行われているやましいことも全て、だ。


オースティンは哀れと思い、せめてもの温情と考え、ジルクハルトに選ばせることにした。


「それは二週間後に行われる夜会までに決めることではないのか」


「たった二週間です。十分過ぎるくらい貴方は婚約者を待ちました。もういいでしょう。彼女も貴方が前を向くことを望んでいます」


まるで、レティシアが命を落としているような言い草だ。


「貴族会は、その二人の令嬢を勧めるのだな」


「はい。問題なく御子を授かれますよ」



にっこりと微笑むオースティン侯爵とジルクハルトの間は空気が張り詰め互いに譲らない。



(誰の子供を孕むか分からぬがな)



オースティン侯爵には悟られぬよう溜息を吐くジルクハルトは二人の令嬢に蔑むような視線を送る。


二人がライト・オースティンと深い関係にあることは影と四番隊を通して情報を得ている。


王太子妃として王城にあがってからも、ライト・オースティンに便宜を図ること、関係を続けていくと約束していることも。



「私達は王家の存続を願っているのです。王太子である貴方が、同級生の前で伴侶を選ぶことは、これから国を支える者たちにとっても良い思い出に残り貴方への忠義心も強くなるでしょう。あと二週間で何が変わると言うのです?さぉ、お二人からお選びください!」



周りの者にも聞かせるように一際大きな声でジルクハルトに詰め寄る。


胸元を寄せて手を握り上目遣いで見つめるマリアンヌ、優雅な立ち姿で見つめるエミリカ、二人とも自分がジルクハルトの隣に立てると信じている。



(ジル様は準備が必要だからお披露目は春の夜会にするって言っていたし……今、この場をどう切り抜けるのかしら。わ、わたしが出た方が……)



考えと同時に一歩踏み出していた。が、肩をクロードに掴まれ足を止めた。


振り返るとクロードと目が合い首を横に振られる。レティシアには『今、前に出てはいけない』そう聞こえた。



目をパチクリとしてクロードを見ると『俺は全て知っている』と口元が動く。

クロードはレオンがレティシアだと知っていたのだ。



唖然とするが、また、オースティン侯爵が声を張り上げたことでクロードに確認することもできずジルクハルトへと視線を移す。



「ジルクハルト殿下、お選びください!!」



もう、この場を逃れることは赦さない、とでも言うかのように。



ジルクハルトが口を開こうとした、その瞬間、会場の扉が開いた。



「遅れて申し訳ございません」



会場の扉にはーーーーーー

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