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54.ジルクハルトがレオンに気づいた日

「あ、の!」


「もう遅い。逃すつもりはない。それに、二度は一緒に朝まで過ごしていたのだから今更だろ。安心しろ、手を出さないよう我慢してやる」


そのままレティシアを後ろから抱きしめ頸に顔を埋めた。太腿の間にある脚が気になって仕方がない。脚を絡めている、ということだろう。


「俺のために準備してくれたのか?」


「は、い」


暴露てしまうと恥ずかしさが倍増する。

気付いても言葉にしないで欲しい。


「綺麗だ。夜会にいた女の誰よりもレティが一番綺麗だ。明日は護衛の仕事は休みだ。俺も昼過ぎまで眠ると伝えている」


「え?」


「年終わりの夜会の後は城内も仕事にならぬからな。毎年、昼過ぎまで部屋で過ごしている。だから気にするな。レオンがいないから誰も起こしにはこないさ」


「……本当は起こされなくても起きているのでしょう?」


「気付いていたのか」


「そりゃぁ、気付きますよ。寝たフリが下手くそです」


「なら、精進するよ」


「いや、起きろ」


ハハハ、と笑った後、ジルクハルトが魔術を使いレティシアを眠りにつかせた。

その方がジルクハルトのためになるらしい。



「おかえり、愛しい人」



眠りについたレティシアの頬に口付け、抱きしめて眠りにつく。

我慢するのも限界になりそうだから、自分自身にも魔術を使い眠りについた。





昼近くに目が覚めるとジルクハルトは寝室にはいなかった。まだ、寝台から出て時間は経っていないのだろう。ジルクハルトのいた場所に温もりが残っている。


ボーっと辺りを見渡していると扉が開きジルクハルトが戻ってきた。


少し、顔が赤いようだ。



(疲れて熱でも出たのかしら?セシルも疲れると熱が出ることがあったし。子供みたいね)



気づけばテーブルに食事が用意されている。沢山の果物があり、ジルクハルト一人の食事にしては量が多い。


もう一度ジルクハルトの方へ視線を移すと手で口元を多い右斜め上を見ている。顔を背けられてレティシアは少しショックを受ける。



「ち、がうんだ。その、あ〜、あれだ。いつも男の服装だから慣れていないのだろう」


何を言いたいのか分からずレティシアは首を傾げる。


「見えてる」


「はい?」


「下着が丸見えだ。あと、その姿はちょっと……誘われているように感じてしまう」


チラリとレティシアを見たジルクハルトは直ぐに顔を背けてしまう。


まだ寝ぼけ気味なのか、ジルクハルトの言葉の意味を理解できず、取り敢えず自分の姿に視線を落として慌てて上掛けの中へと隠れる。


「お……お見苦しい姿を申し訳ございません!!そのっ、あのっ、えぇと……」


「いや、見苦しくはない。レティがいいなら、その姿のままで構わない。あと、口調がレオンに戻っている」



アワアワと身なりを整え思わず寝台の上で正座するレティシアを愛おしそうに眺めていたジルクハルトは寝台に腰を下ろす。


「おはよう」


「お、おはようございます」


「食事を用意した。お腹が空いたから多めに持ってくるように頼んだ。果物も多めに、な」


勧められて二人で食事をする。

レティシアとしてジルクハルトと二人きりになるのは、なんだか慣れなくて不思議な感じだ。


食事が終わっても、そのまま寝室でジルクハルトと二人きりだ。

リビングだと、誰か来たときに隠れる必要があり、その際に寝室を使うだろうから、このまま寝室にいた方が楽だからという理由で寝室にいる。


決してヤマシイ事をしているわけではない。



ジルクハルトと寝室で二人きりではあるが、特に話すことがない。

レティシアとして話すべき事は山のようにあるが何をどう説明するべきか悩んでいる。


そして場所が悪い。ジルクハルトの脚の間に座っていて逃げ場がない。


着替えると伝えたが、いつの間にか用意されていたワンピースに着替えることになってしまった。

離れる口実だったのに、着替えた後もジルクハルトの脚の間に座らされている。


もう二十分も黙ったままだ。

ジルクハルトは何が楽しいのか、レティシアの髪の毛を触ったり指を撫でたり頸に口付けたりしている。


ここは、気になっていることを聞くべきだと、レティシアは決意する。



「あの、」


「何だ?」


「いつから気づいていたのですか?」


「……気づかれているかもしれないと思った事はあるか?」


「あります……」


「その頃には恐らく気づいていた」


「ジル様はいつから……」



一体、どの行動が原因だったのか。

知ったところで後戻りできるわけではないが知りたい。






「初めて俺の前にレオンとして姿を現したときだ」






士官学校の男達の中でも気づかれることはなかったのに、まさか、初めて会ったその日に気付かれていたとは思わなかった。



「女、だと感じた。近くで見て、その瞳と唇と、レオンの全てがレティに見えた。あとは確認作業をしただけだ」



試験用紙の筆跡、試験問題での引っ掛け、お茶を飲む仕草、マナーレッスンとダンスレッスン、学園へ入学するまでの間に確認していた、と。


確証はあったが訳があってのことだろうから様子見をしていた。

自分に仕えさせることで側で護ることができる。


レオンをレティシアとして生活させると、男と女になるから今よりも物理的距離が離れる。それなら、男同士と思わせた方が護りやすい。


それに、男同士であった方が、例え主と護衛だとしても遠慮のない付き合いーーー男女とは違う付き合いができーーー自分を知ってもらえると考えたから、敢えてレオンの正体を暴こうとはしなかった。



「そんな最初から……」


「だから俺は俺なりにレオンに接してレティにできなかったことを可能な限りしようと思った。以前は邸へ贈り物を届けていたが直接渡そうと。それで手始めに手土産から始めた」


「……なんだか恥ずかしい。私は必死にレオンとして接していたのに」


「レティだと感じることと可愛い弟が増えたように感じたことがあったな」


「弟扱いされている気はしました」


「だが、学園での毒味は助けられた。夜会の時も、毎回、助かっている。ありがとう、いつも側で私の命を守ってくれて、ありがとう。感謝してもしきれない」



それはレオンとして当たり前の職務だ。

ジルクハルトの御身を守る大切な任務。

当の本人であるジルクハルトにとっては愛しい婚約者が犠牲になるかもしれない危険な任務。

毒の打ち消しが得意であっても、必ず成功するとは限らない。

気が緩んで打ち消しのタイミングが遅れると命を落とすかもしれない。


ジルクハルトは、レオンが命を落とせば後悔しただろう。



「それと、これからのことなんだが」



レオンがレティシアだとわかっても、ジルクハルトはすぐに正体を明かす必要はないと話してくれた。


もう少し泳がせてからにしたい、と。

ジルクハルトとしてもレティシアを護るためには常に自分の側で侍らせておきたいと考えている。


レオンがジルクハルトと出逢うまでのことも、真実と嘘を織り交ぜておく必要がある。

社交界へ戻った際に醜聞とならない程度に。


特に、士官学校は男ばかりだ。

男達に混ざって学んでいたのだから、ありもしない噂を流されては困る。

その辺りも物語を作り、真実と織り交ぜる。


ジルクハルトからは、その真実と嘘の物語を教えてもらう。

レオンの意思を最大限尊重し、レティシアを護るために作られた物語は優しさに包まれていた。

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