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52.決意する

ジルクハルトは機嫌が良さそうに私室へと向かっている。歩く速度はレオンに合わせているのか、ゆっくりだ。

途中、振り向いてレオンが付いてきているか確認している姿に優しさを感じる。


部屋の前で入室せずに挨拶を告げて自室へ篭ろうと考えたが、そうすると、あの隠し扉を使い部屋へと侵入されてしまう恐れがあることに気付いた。


部屋の前でジルクハルトに手を引かれ有無を言わさず入室することになった。


扉の前で護衛をしているジェイドの視線が痛い。言外に『何をやらかしたんだ』とレオンを見る。


声を発さずに『頑張れ』と言われても頑張ることなどなく、いや、頑張れなくて困っているので助けを求めたくなる。


そもそもレオンとして入室することに問題はないが、レティシアだと知っているなら男女二人になることをジルクハルトは理解しているはずだ。


入室してから手を離そうとするが願い叶わず、腕を強く引かれソファーのジルクハルトの脚の間に座らされた。



なんとも居心地が悪い。



(ち……近い近い!こ、この場所に護衛を座らせるとかないでしょう!!あ、いや、レティシアなのだけど……うぅ……今更ながら男の姿が恥ずかしい)



頸にジルクハルトの視線を感じる。

後ろから手を回されお腹の辺りに温もりを感じる。

優しく、大切にされているのがわかる。




「あの返事はもらえるのだろうか」




耳元に優しい声が響く。

耳朶と頸に口付けられゾクリと体が痺れる。



大切にされているからこそ、しっかりと気持ちを伝えたい。自分の考えを。

だから、こんな雰囲気に流されるみたいな状況はレティシアにとって望ましくない。


レオンにとって、レティシアにとっての決意を示したい。それが今できる最大限の誠意の見せ方だから。



「あ、の、一時間だけ待って欲しいです。その……一旦、部屋へ戻ります」


「そうか」


ふわっとしたジルクハルトの笑顔が幼子のようで目を奪われた。しばらく見つめ合い、ジルクハルトの腕から解放され慌てて立ち上がろうとすると手を引かれた。




優しく抱き留められ、コツン、と、ジルクハルトが額を合わせた。

ビックリしていると額に口付を落とされる。

もし、レオンとしてレティシアの気持ちがジルクハルトにないと伝えれば口付けられるのもこれが最後になる。


名残惜しいのか、抱き締められてから解放された。



「一時間後、待っている。扉はどちらを使っても構わない。都合の良い方から来るといい」



レオンが深夜にジルクハルトの部屋を訪れるにしても、部屋から出たのに戻ることは滅多にない。

寝かしつけに失敗して、ジルクハルトが王城内を歩き回るなら、レオンの部屋をノックして連れ出すことが多い。



レオンは『いつもの顔』を作り部屋を出ていく。


外で待機していたジェイドには、寝かしつけが終わったとだけ伝え、少し気恥ずかしさもあり目を合わせず足速に与えられた自分の部屋へと戻る。



緊張から解放され、部屋に入った瞬間、膝から崩れ落ちた。

ペタリ、と床に座り込みバクバクと早なる鼓動を落ち着かせる。



(ど……どうしよう!?思わず一時間後と伝えたけど、もう日付が変わってるじゃない!!それなのに、遅い時間に男の人の部屋を訪ねると伝えたなんて……へ……変に思われていなければいいのだけど……。朝に返事すると言えばよかったかしら……)



日付が変わり遅い時間だ。

本来なら就寝の準備をして明日に備える必要があるのに、この後、ジルクハルトと話すなら、きっと今夜は眠れないだろう。


何かしらの説得が必要になれば、話が終わる頃には陽が昇るかもしれない。


レティシアは『うー、うー』と自分が指定した時間を後悔しながらも入浴の準備を始めた。


混乱している。

混乱しているなら湯に浸かってリラックスするのが一番だ。きっと、自分にとって良い結果を導き出せる、と信じることにした。



ふと、部屋を見渡すと紫色の薔薇が飾られていた。至る所にある薔薇の香りで、室内は満たされている。



残された時間は一時間



湯の溜まった浴槽に薔薇の花弁を浮かべる。疲れた体を癒すために花弁を沢山使い浴室を薔薇の香りで満たす。


湯船に浸かると薔薇の香りに癒される。


平民になってから香油なんて高いものは買っていない。男装をしているのだから尚更。

女の匂いをさせる訳にはいかないから、香水だって使わない。


香りは花で楽しむ。

給金が入ったら一輪買って飾っていた。



湯船に浸かりながら考える。

到底、女とは思えない短い髪の毛に化粧を施していない顔。

騎士として体を鍛えたことでメリハリはあるが、胸はサラシで押し潰している。

サラシを巻いて押し潰していたのに遺伝したのか母親と同じように豊満に育った。

この胸はサラシで隠していたから気づかれていない筈だ。


平民の男として暮らしてきた。

淑女の嗜みなんて何一つしていない。

貴族の義務すら果たしていない。


歩き方も男を真似ていた。

セシルが問題ないとするくらい男の歩き方が出来ている。今更、ヒールのある靴を履ける気がしない。




そう、男として生きてきた。

士官学校でも暴露ずに男として生活した。

誰にも本当の自分を打ち明けず生きてきた。


セシルが文官になったら、いや、文官でなくても生活するために必要な準備が整えば修道院に入って女に戻るつもりだった。


それまでの我慢だと自分に言い聞かせて、年頃の女として楽しむこと全てを捨ててきた。

修道院へ入ってからも神に祈りを捧げて年頃の女が望む楽しみなんてするつもりもない。


セシルにも我慢を敷いてきた。

それを今、全て手放していいのか。


きっとセシルは何も言わないだろう。

レティシアが幸せになれるなら喜んでくれるはずだ。


それに今ならジルクハルトを信じられる。

護ってくれる。セシルのことも。



グルグルと考えが纏まらない。

あの邸の記憶がレティシアを襲う。

女に戻ろうとすると、あの邸のことを思い出す。吐き気がするあの香りも一緒に。




(いつまでもウジウジしていたって変わらないわ。ジルクハルト殿下にハッキリと伝えよう。セシルのことは私が護るって決めたんだから)




湯から上がり髪の毛を乾かし服を着替える。

慣れない準備に時間が取られ、約束の五分前になり慌てて身なりを確認する。


クローゼットの奥にある隠し扉の位置は、ジルクハルトが侵入してきた日に確認済みだ。

驚くことに、扉とわかぬように壁と一体になっていた。


微かに扉らしき位置を手で押すと開く仕組みだった。


隠し扉は残念なことにジルクハルトの寝室と繋がっている。せめてリビングであればと思うが、今はその扉を使うしかない。


こんな顔、ジルクハルトの部屋の前で待機しているジェイドには見せられない。



意を決して隠し扉の前へと移動してノックする。





コンコンコンーーーーーー





扉をノックするとジルクハルトから入室を許可する返事が返ってきた。

直ぐには動き出せず、深呼吸を繰り返して、漸く扉に手をかけた。


そこから数秒後、意を決して扉を開け視線を移すとジルクハルトは目を丸くして驚いている。



そんな反応をされるとレティシアもどうしていいか分からず視線を逸らしてしまう。

アワアワ( ゜д゜)

レティシア、レオン、どーなる?!

明日をお楽しみにっ!!(*^▽^*)

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